あらすじ
我が職掌はただクロカネの道作りに候――。幕末、長州に生まれた弥吉こと、のちの井上勝(まさる)は、国禁を犯して伊藤博文、井上馨らと長州ファイブの一人として渡英した。ロンドンで西欧の近代化を目の当たりにし、鉄道(クロカネ)こそが国を発展させると確信する。帰国後、伊藤らが中央政界で活躍するなか、勝は立身出世には背を向け、ひたすら鉄道敷設に邁進する。鉄道の敷設権を要求するアメリカの主張を退け、さまざまな反対の声にも粘り強く交渉し、ついには日本人のみによる鉄道敷設を成し遂げた。のちに日本の「鉄道の父」と呼ばれる、技術大国の礎を築いた“魂の技術者”の物語。『クロカネの道』を改題。
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Posted by ブクログ
「クロカネ」と言われると、一瞬首を傾げるのだが…「クロカネ」とは「鉄」を指す表現だ。従って「クロカネの道」と言えば「鉄道」に他ならない…そんなことを想いながら手にした一冊だが、なるほど「鉄道の父」と呼ばれた人物に脚光を当てている。
幕末期の毛利家は、「密航」という形になってしまうが、密かに5人の若者を英国へ留学させていた。「長州ファイブ」等と呼ばれる場合も在るようだが…
本作の主人公は、この「長州ファイブ」の1人である、極若い頃は野村弥吉を名乗った井上勝である。
井上勝は、佐賀の江藤新平の著作に感激し、御本人と会って話し合うことを望み、長崎視察という機会を掴んで佐賀を訪ねた。江藤新平が面白いモノを見せてくれるという。それは、ロシア使節が持ち込んだ土産に在ったモノを手本に、熱心に新技術を研究していた佐賀で制作したという鉄道模型のデモ走行であった。模型だが、燃料を燃やして蒸気で動く機関車が設えられ、庭に用意した軌道を模型列車が走った。井上勝は「クロカネの道」というモノに魅せられた。
こういう挿話が語られるプロローグから本作の物語は起こる。
幕末期の不穏な情勢下、井上勝を含む5人がはるかなロンドンへ旅立つまで、その旅路とロンドンでの暮らしが前半だ。
後半になると、井上勝は明治政府で鉄道の開設、敷設、路線網の整備に邁進するのだが、そういう様子が綴られる。
好き人達との出会いを重ね、持ち前の“熱血”で、学んだことを活かして行こうと奮戦する井上勝の様子は非常に好い。そして、鉄道網が順次拡がった経過に関する事柄も興味深い。
何か「“力”が貰えそう…」な感の物語だった。そして、身近で便利な鉄道というモノの礎が「こういう熱い男」の努力で築かれたということにも触れ、何やら嬉しい気分になる。御薦めだ!
Posted by ブクログ
長州ファイブの一人、井上勝の物語。明治の英傑、伊藤博文は有名だが、鉄道技術の導入に生涯を賭けた井上勝の情熱が伺える良書。
JRに乗った時に、また旅に出た時に、先達の偉大さを実感する。