あらすじ
千年読み継がれてきた歌物語の沃野に分け入り、美麗な要望と色好みで知られる在原業平の生涯を日本で初めて小説化。現代語訳ではなく小説に紡ぐことで、日本の美の源流が立ち現れた。これは文学史的な事件である!
歌物語の不朽の名作にして、「恋の教科書」ともいわれることもある「伊勢物語」。その主人公とされる在原業平の一代記を「伊勢」の百二十五章段の和歌を物語の中に据えて大胆に周到に小説化。やまとことばに注目の集まった令和改元をはさみ日経新聞夕刊に連載された本作は、平安時代の古典に、千年かけて培われてきた日本人の情感、美意識を現代小説として吹き込み、活き活きとよみがえらせた傑作長編。連載時に小説に平安の都の風を吹き込んだ大野俊明氏の挿絵もカラーで16点収録。この作品を読んでから「伊勢物語」を読めば平安の「みやび」を五感で味わうことができるだろう
【著者「あとがき」より抜粋】
古典との関わり方として、私は現代語訳ではなく小説化で人物を蘇らせたいと思ってきました。千年昔には身体感覚において、どこかが違う人間が生きていて、私たちは、現代にも通じる部分においてのみ、かの時代の人間を理解しているのではないか。この疑問は、書くことに矛盾をもたらし、文体を模索させました。平安の雅を可能なかぎり取り込み、歌を小説の中に据えていくために編み出したのが、この文体です。味わい読んでいただければ、在原業平という男の色香や、日本の美が確立した時代の風が、御身に染みこんでいくものと信じます。
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Posted by ブクログ
装丁に惹かれて購入。爽やかな若草色の和紙風潮にデザインに達筆な業平の文字。シンプルながら非常に目を引くデザインだと思います。
本書は古典伊勢物語を筆者なりの解釈で時系列を整え、和歌になぞらえながら描かれた在原業平の物語。
語り口調は特徴的であるけれど、これが絶妙に平安の雅さを醸し出して良い雰囲気を作っている。
さて主人公の業平ですが非常に恋多き人物。物語の大半は彼の色恋話となっている。
ただしこの業平、己の色欲に歯止めが掛けられない人物な様で、好みとあればどれ程高貴な人物であれモーションを掛けていきます。
流石に政界随一の権力者の妹で次期天皇の后候補の姫に手を出すとか、後先考えないにも程があります。
結局彼の暴走は止まらず、最終的にこの高子姫を駆落ち同然で連れ出すという暴挙にまで出ます。結局未遂に終わり高子姫は連れ戻され、業平は怒りを買って京へ戻れなくなるのだけれど、高子を卑怯にも奪われたみたいな感じで非難し全く反省の色がありません。
京へ帰れない業平は共を引き連れて東国へと下って行くのですが、その道中で仲間と共に京を懐かしみ悲嘆に暮れるのだけれど共の者たちは完全に業平のせいだということをもう少し非難してもいいと思うな。
それから一年程で何事も無かった様に京へ戻れたのもびっくりですが、さすがの業平もしばらくは大人しくしております。
しかしその平穏も長くは続かず帝のお役目で伊勢の斎王の元に行く命が業平へ下ります。
斎王は彼女が幼い頃業平が妹の様に可愛がった女性。ぃまは伊勢神宮で帝に代わって天照大神へ仕える巫女として立派な務めを果たしています。
いやいや、まさか妹の様に思う女性、しかも神に仕える尊き巫女に手を出すような事は……と思いつつ、読者は嫌な予感しかしません。
そして紆余曲折の後まんまと斎王と共寝(今でいうアレですね)してしまう業平。この時斎王の母親は加減が悪く、京にも不穏な気配があったのですが、これを斎王に知らせてしまうと己の不浄な行為が神の怒りを買うことを恐れ逢瀬をやめてしまうことを危惧した業平はこの事実を隠します。何という自己中心的な考え、さすがにここはイラっとしました。
しかも一度共寝したことをいいことに、明日もあって欲しいと無茶な催促。本当に未練がましい男です。
結局その後斎王の母親は亡くなり京にも大きな政争か起きこの段になって、ようやくあの不浄な行為を斎王が悔いているのではと心配する業平。心配する資格ないと思うけどな。
しかも斎王はあの一夜で見事業平の子を身篭るというオマケつき。当然公然と育てられないので子供は人知れず引き取られることに……斎王は不憫だしなんと罰当たりなんでしょう。
その後も自分の腹違い兄の娘に手を出し孕ませてしまうどういうこれまた有り得ない行為もしでかすけど、もはや前科が凄すぎて驚きません。
ただこれだけ欲望のままに生きても、関わった女性達は業平に対して好意的なんですよね。今とは物の価値観も違うでしょうがそれだけ業平がその女性へ真剣に向き合い思いを伝えてきたということなのでしょうか。
晩年の描写何よりそれを現しているのかなと思いました。
色々書きましたが業平という人物はやはり魅力的で、平安の雅な雰囲気を存分に味あわせて頂いた筆者へ感謝をしたい。
Posted by ブクログ
あとがきで 千年昔には身体感覚においてどこか血が人間が生きていて、私たち現代人は、現代にも通じる部分においてのみ、かの時代の人間を理解し表現しているのではないか、そこから本書のような文体を模索したとのことでした。
ここはなるほどな、と思った。
その時代、その場所の人間のみが本当に共感していた感覚の片鱗をこの小説で感じることができたであろうか。できていれば良いなあ。
最後まで、叶わなかった恋に飽かぬ、哀しのあわれの情を抱きつつ、最後は何か飄々とした風に逝った様がに感じ入った。
業平が本当に恋した2人について、叶わぬ高みの御方の憧れと、弱き御方を父か兄のごとくにお護りしたい恋と表現しているが、実際には両名から護られていたところ。こういう人だからこそ浮き名を流せたのでしょうか。
ぜひ、再読したいのと、関連書籍も読みたい。
Posted by ブクログ
容姿端麗、自由奔放。和歌に生き、恋に生きた男・在原業平。かの光源氏のモデルの一人と称されるくらい、とにかく世の女性にモテまくった、という。
そんな男の生き様を、彼の創った和歌を織り交ぜながら綴られた一代記・伊勢物語。
以前からなんとなくは知っていたけれど…。それが許された時代とはいえ、ここまで恋に自由だったとは…少し呆れてしまった。
憂さを晴らすため女性に走ったかと思いきや、知り合いから頼まれて好奇心により女性の元を訪れたり、見目麗しいとの噂から高貴な女性に恋い焦がれたり。そのシチュエーションは様々で、どれだけ年が離れていようが結婚していようが全くお構いなし。
もしかして恋の駆け引きをしたいがために恋をしているのか、とさえ思えてきた。
恋に酔い、恋に溺れ、恋により追い詰められ。
こんなにも華麗な女性歴だから人の心を打つ和歌もたくさん生まれ、幾つの時代を超えた今尚詠い継がれる。
そういう私も、学生時代に暗記した和歌がたくさん出てきてとても懐かしかった。