あらすじ
小説家を志して実家を飛び出し、生駒山麓のアパートに籠もっていた「私」は寺の参道で謎めいた女性に出会う。その女性は万巻の書物に囲まれて暮らしていたが、厳しい読み手でもあった。私は彼女に認められたい一心で小説を書き続けるが……(表題作)。斑鳩の里に現れたひとりの青年、ベトナム戦争からの帰還兵ランボーは、己を戦場へ押しやった蘇我氏への復讐を胸に秘めていた(「ランボー怒りの改新」)。奈良を舞台に繰り広げられるロマンと奇想に満ちた4篇。本書を発表したのち沈黙を続ける鬼才の唯一の著作。仁木英之による解説、森見登美彦との対談を収録。(『ランボー怒りの改新』改題)
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Posted by ブクログ
知らない作家。
「ランボーと怒りの改新」を筆頭にとにかくひらめきに満ちた作品集。万城目学とは違った、垢抜けた感じがないところが逆に良い。
とにかく一気読みした。
Posted by ブクログ
ランボー怒りの改新、ぶっ飛びすぎてて度肝を抜かれた。ナラビアンナイトも小気味よい。なまじ奈良の地理がわかるだけに、楽しさも倍増。生駒に行きたくなった。
Posted by ブクログ
――
きんてつ、の発音よ。
だいたい大きな駅のあたまには「近鉄」と付いているんだけれど、概ね主要な街ではその「近鉄」は発音されないで、逆にJRの方にわざわざ付いてない「JR」ってー冠詞を付けるのが習わしになっている。子供のころからそのことに疑問を感じていたオレは多分根っからの体制派なんだろう。
いやー、傑作である。ちょっと奈良について調べる機会があったのでここぞとばかりに読んでみたのだけれど、ほんとに。
モチーフの使いかたも、削り出しの方法も見せかたも抜群で、技術的なのは間違いないのだけれど…それ以上にちょっとしたワーディングとか、展開のさせかたとか言葉の飛躍がすっぽりとハマって、「やられた!」という感じ。
いちばん最初にぐっと掴まれたのは、
“ 「告白して、それでどうすんの?」と僕は言った。
「知らんけど……」
「知らんのに告白するんか?」 ”
この会話。これだけで、一瞬で片田舎の中高一貫に通っていた頃に引き戻されてしまった。びっくり。遠足のしおりを鹿に食べられたあの頃。もうほんとに、やられた! である。
しかし圧巻はなんといっても「ランボー怒りの改新」。これはすごい。こんなに好きなものばっかりを口の中に詰め込まれたのは久しぶり。確かに冒頭の一編を読んで「夜は短いのか?!」って感じがあったけれど、本格的に蓋を開けたら爆発した。なんとなく、誤解してましたすみません、と思いました。どっちに対しても済みません。
こういう、本来組み合わせられないものが渾然一体とひとつになって、わけのわからない強大なパワーを発しながら、その中心はちゃんと真っ直ぐ飛んでいる物語というのがたまらなく好きなのです。タイトル見てまさかと思うんだけれど、ランボーは90年代以前の生まれならきっと皆知っているあのランボーだし、改新は小学校で習うあの改新です。同居することになって、ランボーと改新がいちばんびっくりしてると思います。
まじで奈良に遠足とか修学旅行で行く中学生高校生は必携。奈良中の鹿がお腹いっぱいになることでしょう。
単行本のときは表題作だったというのも頷ける。今回「満月と近鉄」を表題に持ってきたのは正解だと思うけど。なんていうか、表紙とか背表紙の面構え的にねぇ?(笑
これは悔しいけど、このひとの作品は他に読めないというのも含めて☆5。つまり新作が出たら下がります。多分それも面白いからね!
Posted by ブクログ
けっさく!
奈良舞台の話を探して見つけたけど、
こんなに貴重な本だとは…
繋がり方と最後の締め方が好み。
作者も自認してるし対談もしてるので、言うまでもなく森見さんワールドに近しいのだけど、
何というか豪快な感じ。
甘樫丘やら飛鳥寺やら、行っておいてよかったー!
奈良公園も改めて行かねば。
万葉の歌と植物も。
Posted by ブクログ
謎の作家前野ひろみち氏による短編集。ランボーは歴史の知識がないとなかなか難しいが、知識不足でも十分に読ませてくれる大胆な作品。ナラビアン・ナイトは奈良を舞台に語られる物語群、そしてその構造に圧倒される。そして自伝的(?)な表題作が全ての物語を繋ぎ、ますます著者への謎は深まるばかり。さて、問題となる著者の正体だが、7割くらいの確率で夜は短いのではないか。ただM氏なら表題作のような描写はしないような気もする。しかし、だからこそ筆名を変えて出版する必要があったのではないか、などと妄想は尽きないのであった。
Posted by ブクログ
「満月と近鉄」というタイトルがまず天才。
収録されてる4篇の振れ幅がすごい。メチャクチャやな!と思うような設定も素晴らしい力技で読ませてくれる。物語に登場する地名が気になって調べたら、作中にはない地域の伝説もまた奥深くて沼のよう。奈良の見方が変わりそうです。
作者の正体はとても謎めいていますが、巻末の解説や対談を読みながら想像を膨らませるのもまた一興かと。
Posted by ブクログ
ジャンルの振れ幅が凄い。
青春かと思ったら歴史、かと思えば説話集、さらには自叙伝。
奈良かと思ったらベトナム、あるいは中東、やっぱり奈良。
一見無茶苦茶、実際無茶苦茶なのだが、全てが高純度のまま混ざり合いつつ一体感を形成してる。
読んでいてとにかくリズムが良くて引っ掛かりがない。
もっと読みたいのだが、4作の短編しかないからこその高密度にも思うので悩ましい。
解説や対談、発売時の帯にもあるように、森見登美彦氏に似たものを感じる人は多いようで、私もその例外ではなかった。
私は奈良のことを殆ど知らないが、読んでいるうちに私も奈良の中に溶けてしまうような、不思議な感覚を得られる、短いながらも贅沢な作品でした。
Posted by ブクログ
「奈良というところは地上でもっとも月に近い場所なのかもしれない」
その一文に、わたしはひどく共感した。
わたし自身、奈良の空に昇る月に惹かれて、この地に住むことになったようなものだから。
自叙伝とも自作自演ともわからないこの四作は、すべて現実と虚構の境目が曖昧模糊としている。
阿呆だった鹿はとつぜん神性をあらわにするし、蘇我入鹿はロケットランチャーをぶっ放す。
一作一作もそうだけれど、一冊としても「完成された現実のような嘘のような世界」が広がっている。
これは短編集などではなく、これ一冊がひとつの物語だ。
奈良はまことに不思議な土地だと思う。
畑を耕す気楽さで、数十センチ。そのすぐ下には千三百年以上前の世界が広がっていたりする。
この本はまさに、その境目をもっている。
わたしが惹かれた月はもしかしたら千三百年前の月だったかもしれないし、そうだとしても何の不思議もない。
だってここは奈良なのだから。
そう思わせてくれる、魅力的な一冊です。
Posted by ブクログ
奈良の人間からすると地名とか方言とかとても馴染みやすい内容。
話が突飛すぎてランボーの話とか「なんじゃこりゃ」って内容だった。
最後の満月と近鉄は心温まるSF。確かに作者はもう書けないだろう。
Posted by ブクログ
住んでる町の沿線がタイトルだったので購入。
作家の前野ひろみちさんのご実家は奈良の畳屋さんで
畳屋の後を継ぐより小説家を志した。
その時に書かれた作品なのだろう。
短編4作は、奈良を中心に書かれている。
男子にありがちは日常を少し風変りに描いた「佐伯さんと男子たち」
「ランボー怒りの改新」は少し難しくて途中で挫折しました。
男性には面白いかも?と思いました。
少し昔話チックで伏線が楽しい「ナラビアンナイト」
小説家を志し、実家の畳屋を出て一人暮らしをし、
そこで出会った佐伯さんと共に小説に没頭した生活を
書き綴った「近鉄と満月」
意外な展開が用意されていて、とても読みごたえがあった。
どの作品も、とても個性的で楽しかったので
この短編だけしか出てないのは少し残念が気がしました。
Posted by ブクログ
4つの短編のうち、ナラビアンナイトがかなり好き。
どのお話も頭に「?」を浮かべながらも読み進めるのが止まらない。
どんな話だった?と聞かれても、多分全然説明できないけど、ふっと笑える小説だった。
Posted by ブクログ
現実と幻想の混同。そしてアホとロマン。
その組み合わせは不可能なのでは……と思うコラボも不思議と絶妙にマッチしていて、おもしろい事になっている。
このオリジナリティは天才的です。
Posted by ブクログ
突如現れた奈良の鬼才。野生のベテラン作家。実は、夜は短い京都の作家!?
などなど、事前情報の真否は置いておいて、奈良を舞台に幻想と妄想となんだかよくわからない歴史や某映画が入り混じる小説4編を、なんだか分からないまま、面白おかしく読みました。
そして、解説もなんだかよく分からない。
作者の正体(?)の物議から始まり、これだけ始終うさんくさが漂う本もないもんだなあ、と思いつつ、最後までノンストップで読める物語の運びや奈良の情景が脳裏に浮かぶ描写は、読書中ずっと心地がよい、理想の”本”だな。と感じます。
誉め言葉になっていないかもしれませんが、短編4つの区切りでさっくり読める上に、後半に行くにしたがって、それらすべてが意味を成していくのが面白いです。
それにしても、2編目の怒りの改心には、意味の分からない勢いがあります(笑)
Posted by ブクログ
奈良を舞台にした短編集。
突飛かと思ったけど、奈良らしさと融合されていて、奈良感が出ていて良かった。
後回しにしたナラビアンナイトが、結果的に一番いい締めくくりだったなー
Posted by ブクログ
ファンタジー作家は自身の存在すらファンタジーにすることができるのか!?と驚かされた。
この小説のどこが実話を元にしていて、どこが創作なのか、もっと言えば「前野ひろみち」という作家が本当にこの世に存在するのか否か考えることすらワクワクさせられる。
作中に出てくる「佐伯さん」の経営するスナックを探し求めて奈良を旅してみるのも悪くないかもしれない。
Posted by ブクログ
初対面の人と森見登美彦の話で盛り上がった後、本作のことを教えてもらいました。知らないんですけど、この作家。唯一の著作なんですか。でも巻末には森見登美彦との対談付き!?
電車の中で本を読んでいる人は稀ですから、見かけると「何読んでるんですか」と聞きたい衝動に駆られます。もしも私がもうひとりいて、この本を読んでいる私を見かけたら、そのニタニタ具合が怪しすぎて「いったい何をお読みですか」とこらえきれずに聞いてしまうと思います。第1章の『佐伯さんと男子たち1993』はそんな感じ。
その佐伯さんが再登場する第4章の表題作に再びウキウキし、第2章の『ランボー 怒りの改新』では法興寺のフットボール大会に笑い、第3章の『ナラビアン・ナイト』には魅入られる。
森見登美彦と万城目学をお好きな方にはお薦めできます。それ以外の方は、どうでしょ!?
Posted by ブクログ
奈良を舞台とした小説ということで読んでみました。全部で4話、自分の中では2話が合わなくて、2話はすごく楽しめました。奈良にゆかりのある人の方が楽しみやすい小説です。
Posted by ブクログ
なんともへんてこでかつ面白い奈良小説でした。森見作品のような小説。森見作品を好きな人がこれにはまるかどうかは半々かな。悪く言えばパワーが弱い、良く言えば、華やかならず落ち着いた奈良を描いた作品らしいマイルドさがある。
Posted by ブクログ
読後感がよかった。
森見登美彦より上だと思うが、読者ニーズに応えられる量の作品を描けるかどうかっていうところ、奈良より京都の市場性とか、その辺で森見登美彦は売れてるわけだ。
Posted by ブクログ
「ランボー怒りの改新」というタイトルが気になって気になって仕方なかった小説をようやく読めました。
面白かったです。色々なタイプのお話たち。
「ランボー怒りの改新」は勿論、「満月と近鉄」もしみじみよかった。
ランボーは大化の改新とどう混ざるのと思いましたが、破綻しそうで破綻してなくて凄かったです。なんであの頃の宮廷人が銃器で武装してるのかとか蘇我入鹿がロケットランチャーぶっぱなすとか突っ込んではならない。。楽しみました。
満月と近鉄は盛り上がった淡い恋?に切なくなりました。
無粋ですが、やっぱり前野ひろみち=森見登美彦だと思います。そしてもっと読みたいなぁ。
Posted by ブクログ
多作は難しいだろうけど、時々また驚かせて欲しい。
本当に、この作家さんはいるのか、全体が壮大な冗談なら、さらに素敵だ。解説も、対談もひっくるめて。
ねぇ、佐伯さん。
Posted by ブクログ
ランボーと大化の改新を組み合わせたり、「アラビアンナイト」ではなく「ナラビアンナイト」という発想がユニークでした
一話目の青春群像に登場する佐伯さんが、四話目や解説にも登場する構成も良かった
やっぱり作者は『夜は短し』さんでしょうか?
そう考えると、解説や対談も含めて全体がまるでファンタジーのように感じられます
Posted by ブクログ
奈良出身の作家さんで、興味を惹かれて。四本の短編。
タイトルの満月と近鉄と、ナラビアンナイトが個人的にするすると読めて面白かった。
ランボー怒りの改新は、書かれていた時代の予備知識が私に無く、あまり入り込めなかったが、私の知識不足が招いた結果。なぜなら、森見登美彦先生や解説の先生は、ランボー怒りの改新について、とても面白かったと書いている。
奈良、特に生駒や奈良市にゆかりのある方は、情景が思い浮かび望郷の想いに浸れるので、ぜひご一読を。
Posted by ブクログ
長らく積読になっていたこともあって、あとがきを読むまで作者についてよく知らなかったのだが、あまりの作者の情報の少なさに驚愕した。
これはあくまで個人の感想ではあるが、「小説家にならなかったからこそ、この作品を書けた」といった感じがした。
読みやすく、個性もある、いい作品だった。
Posted by ブクログ
4編からなる短編集。その内の佐伯さんと「男子たち1993」と「満月と近鉄」が、森見登美彦さんっぽくて面白かった。「ランボー怒りの改新」は、題名からすごく期待したけど、大化の改新とランボーがミックスされるというとんでもない話しで、さすがに引いてしまった。
Posted by ブクログ
「奈良版『阪急電車』かしらん?」と気になり購入。
奈良を舞台にした短編小説集で、有川浩氏の『阪急電車』とはまた違った構成。「摩訶不思議」のワードがよく当てはまる文章は、さながら森見登美彦氏や万城目学氏作品のよう。実際巻末には、森見氏と著者の対談が掲載されている。
「佐伯さんと男子たち1993」
鹿せんべいを持ち歩いては鹿達に与えている不思議美少女 佐伯さんと彼女に想いを寄せる男子3人組の淡い(!?)青春群像劇。
「アホになっていく」彼らの悲願達成を応援するか、「やめとき」と身を引くのを推奨するか、2パターンに分かれそうだな笑
「ランボー怒りの改新」
飛鳥時代の大化の改新を米映画の『ランボー』とミックスさせ、著者なりの新(珍?)解釈を施したもの、と言うべきか。
中臣鎌足らが蘇我入鹿の討伐を目論むさなか、かつて蘇我馬子が引き起こしたベトナム戦争に従軍していた最強兵士ランボーが飛鳥に帰還する。
…あらすじを把握するだけで時間を要した。ライフルなど現代の武器も出てくるわで、読者も時代設定を無視しなければ面白おかしく読み通すことができない笑
「で、何でランボー?」
それもまた、ここではナンセンスな質問になるのだろう…
「ナラビアン・ナイト」
副題は「奈良漬け商人と鬼との物語」。
生駒山に住まう老人に、ある客人の女性が『アラビアン・ナイト』になぞらえて奈良の物語を話して聞かせるという形式。その物語のタイトルが「奈良漬け商人…」である。
大和国はシルクロードの終着点であったから、異国的な『アラビアン・ナイト』の成分をブレンドさせた本作は、一番奈良の雰囲気に合っていた。ランボーより好きかも笑
「満月と近鉄」
畳屋の倅から小説家を志した著者の半生記。本作を含む短編4作の誕生秘話でもある。
結論から申し上げると、彼は一度夢を断念してご実家の畳屋を継がれている。そこから本書を出版し、見事小説家デビューを果たした。(その後の動きは謎に包まれているとの事…)
本作は半生記でありながら、他の短編小説に出てきた人・物や親友N君(…とここでは記しておく笑)の正体と、度々驚かされる。誕生秘話も「ほんまかいな」と何度もひっくり返りそうになった。
購入前は奇妙に映った本作のタイトルも、今は柔らかな光を投げかけている。
巻末の対談は、ある意味貴重かも。
相手が大物作家で、著者もその作家から次作への期待を寄せられている。
あとは息ぴったりの(!?)関西弁。司会の平林萌緑(もえぎ)氏が奈良のリニア開通へ急に話題転換しても、両者平然と対応していたし。
名だたる作家を掻き分け戻ってくると、多くの読者と文壇を見つめている。
Posted by ブクログ
奈良を舞台にした短編集。
作者の体験等が微妙にまじっていて、なんとも不思議な雰囲気のする作品だった。
ランボー怒りの改新は、やや内容がぶっとび過ぎてて、ついていけなかった…
Posted by ブクログ
奈良を舞台に、奇想と幻想、そして不思議なエネルギーに満ちた物語が繰り広げられる短編集。
収録作品は4編。いずれもかなり毛色が違います。最初に収録されているのは「佐伯さんと男子たち1993」
佐伯さんという女の子と、彼女に憧れる男子中学生三人のドタバタを描いた短編。人間や物事に対する見方や、ユーモアな語り口や皮肉。また地元感満載の舞台設定に関西弁。そして不思議な佐伯さんの存在など、どことなく森見登美彦さんを思わせる作品。
男子三人組のまたとないアホっぷりの可笑しさと、佐伯さんの雰囲気がとても好ましかった。
2編目は「ランボー怒りの改新」
ベトナム戦争帰りの兵士ランボーがやってきたのは、中大兄皇子や中臣鎌足が、史実でいうところの大化の改新を行おうとしている奈良で……
もう世界観がめちゃくちゃ(笑)
最初てっきりランボーがタイムスリップしたのかと思いきや(それでもわけわからんけれど)、ベトナム戦争と大化の改新が同じ時代に起こっている、というツッコミどころ満載の設定。そして映画顔負けにランボーが大暴れを繰り広げる。
面白かったかと尋ねられると一概に「うん」とは言えないけれど(苦笑)、場面場面にものすごいエネルギーを感じた作品でした。
3編目の「アラビアンナイト」は、千夜一夜物語をすべて暗記し、それを即興でアレンジできるという女性が登場。彼女が語りだしたのは千夜一夜物語を奈良風にアレンジしたものだった。
自分が不勉強なので、作中の元ネタが分からなかったのがもったいなかったけど、現代+奈良で味付けされた不思議でとぼけたお話の雰囲気が非常に良かった。
そして表題作の「満月と近鉄」
小説家を志した少年が出会った、不思議な女性との思い出の話。
私小説と幻想や虚構がまじりあったような不思議な作品。著者プロフィールなんかを読んでいると、語り手はおそらく著者と同一人物なんだろうけど、所々で現実とは思えない不思議な展開が待っています。
少年の自分の才能を過信する気持ちと、才能なんてないのではないかという自分への不信に揺れる感情。あるいは佐伯さんという年上の不思議な女性へのあこがれや、認められたいという気持ちは、青春小説のように瑞々しい。
その瑞々しさの中に幻想や虚構が入ることで、すべてが終わった後にどこか寂しくもあったり、ノスタルジーに浸ってしまいます。
最終話まで読んだ後に解説を読むと、解説までも一種の物語のようにも思えてきます。この本のどこまでが真実で、どこまでが虚構なのか、そのあいまいさもまた楽しい一冊でした。