あらすじ
自らは「さえん(=冴えない)棋士」であったにもかかわらず、強い棋士たちを育て上げた男がいた。
将棋棋士・森信雄。彼は夭逝の棋士・村山聖だけでなく、棋界最多のプロ棋士を育て上げた。
「森先生が師匠で良かった」と弟子たちは語る。
“さえん師匠”がなぜこれほどの強い弟子を育てられたのか。
何十年にもわたる師匠と弟子の切なくも眩しい、迫真のノンフィクション。
羽生善治九段が語る師弟論も特別収載。
(目次)
第1章 “さえん棋士”の誕生
棋士を目指す
大阪へ
第2章 聖が残したもの
どん底で出合った湖― 増田裕司
破門されかけた唯一の弟子―山崎隆之
遅咲きの末に辿り着いた境地― 安用寺孝功
「おかみさん」誕生
強い棋士はなぜ優しくなれるのか―片上大輔
“怪物くん”の頭脳―糸谷哲郎
兄の死
第3章 泣いたあの日のこと
異能の少年棋士から一門へ―澤田真吾
転機となった羽生善治との戦い―大石直嗣
「けっこう命がけで将棋をしている」―室谷由紀
超合理主義者の師匠愛―千田翔太
唯一夢中になれた道を―竹内雄悟
10年かけて、夢が叶わないことを知る―棋士になれなかった弟子
いつも静かに泣くことを覚えた―山口絵美菜
女流棋士の道を選ぶということ―石本さくら
第4章 最後の「負けました」
危機を救った師匠の「妙手」―西田拓也
森信雄、引退
一門の知恵を借りて―石川優太
教えるのは将棋だけではない
特別章 羽生善治が語る師弟論
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
「聖の青春」は私のオールタイムベスト3の一冊。
森さんは、村山聖さんの人生の伴走者だった。
「聖の青春」でも、森さんはプロとしては強い方ではないと言及されていたが、村山さんの後も何人もの弟子がいて、糸谷さん始め、高名な棋士も多い。
それが門外漢からすると不思議だったが、いろいろ謎が解けた。
著者の神田さんは、あとがきで将棋をがっつり取材するのは初めてだったと書いているが、素人にもわかりやすく、取材相手に敬意を持って取材されているのが伝わってくる。
おもしろかった。
石本さんが森さん宅にうかがったとき「先生、めっちゃ喋ってるな、と思ってたら、全部ヨウムの金太郎が喋ってたんですよ」が良かった。
棋士って人々は、本当にマレビトだ。
そこに惹かれる。
Posted by ブクログ
時には遠くから見守り
時には激しく怒り
個人の個性を尊重し行きすぎると然り
本当に熱くて優しい師匠だと思いました
一門のチームワークの良さも伝わり
将棋界の師弟関係も様々だと思いました
Posted by ブクログ
村山聖の師匠としても知られる森信雄は、棋士として華やかな実績を残した人物ではない。棋戦優勝は新人王戦の1回のみ。順位戦での昇級は一度もなく、竜王戦も最高は5組。しかし、プロになった弟子の多さでは群を抜いている。
弟子の証言を通して「なぜ」を問うのがこの一冊。多くのプロ棋士がまず競技者であることを重視し、見込みのある者しか弟子に取らないのに対して、森は本人が希望すれば基本的に弟子に取るというのは要素として大きいだろう。
そこの「なぜ」に対して、森の「勝負根性」の不足は見出せる。何がなんでも相手を負かせてやろうという勝負師ではなく、他人を真剣に思うことができる。内弟子も経験し、ひどく怒られた経験もある山崎隆之は「それだけ人に怒れるということは、他人に対して熱を込められるということです」と指摘する。
単に「弟子を多く取る」だけでなく、人を思えるからこそ多くの弟子が育つのだろうと感じた。