あらすじ
原爆投下のわずかふた月後、その後の核をめぐる米ソの対立を予見し「冷戦」と名付けた表題作「あなたと原爆」、名エッセイ「象を撃つ」「絞首刑」など16篇を収録。ファクトとフェイク、国家と個人、ナショナリズムとパトリオティズムなど、『1984年』に繋がる先見性に富む評論集。
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Posted by ブクログ
なんと20世紀のアメリカとソ連の、あの状態を世界で始めて「冷戦」という言葉で評したのが、ジョージ・オーウェルで、しかもそれが掲題作の「あなたと原爆」なのですよ!しかもしかも、日本に原爆が落とされた、たった2か月後に執筆されたのだとか!
そんな鋭い洞察力のジョージ・オーウェルの評論集のひとつが2019年に出版された本書。評論集は数あれど、絶版になってしまった本も多い中で、今現在の時流に合わせて読むべき評論を絶妙なチョイスで編纂していて、あとがきに解説も添えて一冊の本にまとめて上げて出版してくれたことに感謝しかないです!めっちゃ面白かったです!当時のヨーロッパ事情をよく知らないので、ちょっとわかりにくいところはありましたが(トーリー主義ってなに?トロツキストってどっち寄りの主義の人たちだっけ?とか)、(オーウェル定義の)ナショナリストの性質とか、反ユダヤ主義者の特徴とか…なんか身近な気がするんですけど〜!
あとがきでも指摘されていたけれど、ジョージ・オーウェルはすごい「現場の人」なんですよね。パリで貧乏生活したり、スペインで戦争に参加して銃で喉を撃たれたり。だから、頭でっかちなインテリが大嫌い。
インテリではないけれど、世間知らず&苦労知らずな自分も批判されていてるように感じて、身が引き締まります!めっちゃ良書でした!次読むオーウェルの本はどれにしようかな?と、今わくわく中です♪
Posted by ブクログ
動物農場とその解説を読んで、オーウェルについてもっと知りたいと思って選んだ。解説内で「彼は書斎の人ではなく行動の人だった」と記載があるが、彼の行動やその時の心の動きについてリアルに描かれていることに親近感を覚える。一番印象に残っているのは「なぜ書くか?」。政治的な目的もあって書いている、ということを、はっきりと本人が認めている点が新鮮。
Posted by ブクログ
開高健が言及していた (と記憶している) 『象を撃つ』を目当てに購入した。
せいぜい十数ページのエッセイにこれほどまでに魅了されるとは思ってもいなかったのだが、その卓越は凡そ次のようなところだろう。
ライフルで頭部を撃たれた象はその肢体から力を失い頽れる。殺到するビルマの群衆。なかなか事切れない象にさらに銃弾を撃ち込むも血が溢れるばかりで、あまりの痛々しさにその場から逃げ出してしまう。オーウェルにその引き金を引かしめこのスペクタクルを演出したのは、白人は主人然としてなければならないという情けない矜持だったのだ。オーウェルにそれなりに深い罪の意識を植え付けたのがいかにつまらない動機だったか。その描写に力点が置かれている。
母国の帝国主義を憎みながらも若さゆえに支配者たる白人像と決別しきれず、結果帝国主義とビルマの群衆に踊らされた著者の告白が、白人支配の虚しさとして結実している。
その他のエッセイも概ね面白かった。
物書きという職業にどう向き合っているかについて著者は、時代が彼や人々に要請する公的な事柄と彼の内的な好き嫌いを和解させることが使命だという。
「子どもの頃に手に入れた世界観を完全に捨て去ることは私にはできない」
時に文学的均整を、また時に政治的目的を劣後させながらも伝えたいことを伝える。その姿勢に好感を持った。
Posted by ブクログ
ジョージ・オーウェルの評論集。
16編の短編が4部構成で収録されている。
1部ではオーウェルの鋭い視点や先見性、2部から3部ではその表現力や観察力、4部では人間らしさが垣間見える構成になっていると感じた。
どれも大体70年前くらいに書かれた作品であるが、現代を生きる上でも大切な知恵が得られる本だと思った。
特に印象に残っているのは以下の4作。
表題作「あなたと原爆」
10ページ程度だが、内容はページ数以上に濃く、本の初めから圧倒された。
オーウェルの鋭い視点や思考、先見性が凝縮されているように感じ、この最初の作品だけでもこの本を読んでよかったと思えた。
WW2終戦の年に、核兵器の出現によってわずかな超大国が世界を分ける「平和なき平和」の到来を予想しているが、まさに世界はその通りとなった。後から書いたのではないかと疑ってしまうほどに素晴らしい評論だった。
「科学とは何か?」
理系的な意味での科学偏重に傾く社会を具体例に、広い教養を持つことの重要性を説いている。広い教養を持たなければ、正しさは得られないのかもしれないと感じた。
「イギリスにおける反ユダヤ主義」
反ユダヤ主義という差別の状況をふまえ、理性と感情のねじれが記されている。ナチスの反ユダヤ主義が発覚したせいで反ユダヤ主義というものが消えなくなったという着眼点は非常に興味深い。様々な差別問題に対する現代人の態度にも同じことが言えるように思い、戒めにしたいと思った。
「ガンジーについて」
他人に対しても家族や友達のように平等に接するべきと言った考えをはじめとした聖者のようなガンジーの主張に対し、「特定の人を他の人間以上に愛するからこそ愛」であり、人間ならば聖者であることも避けるべきという主張はとても人間味にあふれていて共感できた。
特にp271、11行目「人間であることの本質とは、完璧を求めないこと...」から始まる一文はとても素敵で印象に残った。
Posted by ブクログ
一九八四年で有名なジョージ・オーウェルのエッセイ集。いずれも1940年代という第二次大戦前後の世情を真摯に批判的に記している。
当時の時代背景や英国、欧州の国民意識などわからない部分もあるが、現代に置き換えても通ずる内容。これこそが訳者の選定基準なのだろう。
主義や思いが先にあり根拠を後からつけるということは多々あるが、それを他人事とせず、またそうなってしまうことを当然と開き直ることもなく自省する姿勢を持たなければ。
2,3章の印象が強いが表題をこれにしたのは、日本人にとって原爆のインパクトが大きいからだろうか。
Posted by ブクログ
これが1945年前後(表題作はまさしく1945年)に書かれたものというから、その先見性に驚くしかない。
冷戦構造しかり、国家とテロの関係やナショナリズム、差別の問題とまるで現代を論評しているようだ。
アメリカでトランプ大統領が誕生した時、「1984年」がベストセラーになったという。歴史を自身の都合で書き換え、監視によって言論の自由も奪う世界なんて小説のなかだけで許してほしいけど。
Posted by ブクログ
オーウェル、鋭いっ!
と言いたい場面が多々あった。
『スポーツ精神』では、スポーツとは本来的に競争であって銃撃戦のない戦争と変わりないとバッサリ言い切られる。オリンピックに浮かれる日本に水を差されているみたいだがその通りかもしれない。韓国とこんな風になっている時にオリンピックをすることにいささか恐怖を覚えた。
「サッカー場での清く健康的な対抗意識や、国民を統一するためにオリンピックが果たす多大な役割について戯言を言うよりも、現代のスポーツ崇拝がどのように、そしてなぜ、起こったのかを問うてみることの方が有益だろう。」
なぜかというと、スポーツは
「自分自身をより巨大な権力の単位と同一化して全てを競争的な名声を通して見るという狂気じみた現代的な慣習(=ナショナリズム)と、切っても切れない結びつきを持っている」から。
Posted by ブクログ
全部で16篇のエッセイ。良かったのは、以下の5篇
Ⅰ
あなたと原爆
復讐の味は苦い
Ⅱ
象を撃つ
Ⅲ
イギリスにおける反ユダヤ主義
Ⅳ
ガンジーについて
1945年10月19日にトリビューン紙上に発表された表題作は、原爆投下の僅か2ヶ月後に、米ソ両超大国間の冷戦を予言したもので、冷戦(Cold War)という言葉自体、このエッセイが世界で初出らしい。フランス革命に対するエドマンド・バークの省察といい、イギリス人知識人の先見性は大したものだと思う。
「ガンジーについて」では、聖人視されることの多いガンジーは、聖人ではなく、イギリスからのインドの平和裡の独立を最終目的とする政治家である、という前提で評論している。その中では、イメージとは随分違う言説も登場し、自分のガンジー像を修正せざるを得なかった。
(以下、「ガンジーについて」より抜粋)
P270
普通の人間にとっては、特定の人を、他の人間以上に愛するからこそ愛なのであって、そうでなければそれは愛ではない。
P274
ドイツのユダヤ人は集団自殺をするべきだ、そうすれば「世界の人々とドイツの人々がヒトラーの暴力に目を覚ますことになっただろう」
Posted by ブクログ
毎年8月は太平洋戦争(第二次大戦を含む)とりわけ原爆について書かれたものについて読むことにしてるんです
と言っても今年で2年目ですがw
8月になると急にそんなこと言い出すのは偽善的な匂いもしちゃいますが、まぁなんにも考えずにいるよりは、はるかにマシかなとも思うのですよ
ちなみに去年は『ある晴れた夏の朝』を読みました(これは本当に良書なんで特に中高生にはもう強制的にも読ませたいです)
で、今年はその段階で本書を読もうと決めてたんですが、ちょっと思ってたのと違った
もっと原爆についてたくさん書かれてるんかと思ったら違かったです
それでも、第二次大戦前後に書かれた評論集は戦争について多くのことがさすがのオーウェル的視点で書かれていて凄く考えさせられました
でも、多分半分もわかってないと思う
分かってないんだけど『光文社古典新訳文庫』シリーズの素晴らしい解説でなんとなく分かった気にさせられてしまう
あれはよくない
ほんとよくない
あの素晴らしい解説はほんとよくない(何かが矛盾している)
めっちゃ引っ張られてつい自分の意見のように書いちゃうもん
なので、見当違いと言われることを恐れずに、半分も分かってないだろうなと思いつつも自分の思ったことを書き記しておこう
オーウェルが白日の下に晒したかったのは戦争の持つ、あるいは戦争をしたがってる人が持つ「こっけいさ」だったのではないかと思う
なんのために戦争するのか、どうなれば勝利なのかほんとは分かってないんじゃない?
自己弁護の成れの果て、自己矛盾からの逃避が戦争なんじゃね?
自己を省みずに本当の自分を認めず、うわべを取り繕ってかっこつけてるだけじゃね?
大衆の中に自分を紛れ込ませて責任逃れしてるんじゃない?
単純に戦争ダメ!じゃなくてきちんと戦争に至る道をつまびらかにすることで、馬鹿馬鹿しさに焦点を当ててる
そんな気がしたけど
ぜんぜん違うかも!w
だって難かったんだもん!