あらすじ
ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作!(2016年度)
大宅賞受賞作家の上原善広が18年間をかけて聞き取りを続けた、まさにライフワークと言える作品。
18年以上の関係から紡がれる、ノンフィクションとしては異例の一人称文体。
「全身やり投げ男」。
1989年、当時の世界記録からたった6センチ足らずの87メートル60を投げ、その後はWGP(世界グランプリ)シリーズを日本人で初めて転戦し、総合2位となった不世出のアスリート・溝口和洋。
■中学時代は将棋部。
■高校のインターハイではアフロパーマで出場。
■いつもタバコをふかし、酒も毎晩ボトル一本は軽い。
■朝方まで女を抱いた後、日本選手権に出て優勝。
■幻の世界新を投げたことがある。
■陸上投擲界で初めて、全国テレビCMに出演。
■根っからのマスコミ嫌いで、気に入らない新聞記者をグラウンドで見つけると追いまわして袋叩きにしたことがある。
無頼な伝説にも事欠かず、まさに陸上界のスターであった。
しかし、人気も体力も絶頂期にあり、来季のさらなる活躍を期待されていたにもかかわらず、90年からはパタッと国内外の試合に出なくなり、伝説だけが残った……。
その男の真実が、25年以上の歳月を経て、明らかとなる。
プロとは? アスリートとは? 天才と秀才の差とは? 日本人選手が海外選手に勝つための方法とは?
陸上界を貫き、競技を変えた漢を18年以上の歳月をかけて追った執念の取材!!
泥臭い一人の漢の生き様から、スポーツ界が、社会が、昭和と平成の歴史が彩られていく。
【目次】
プロローグ
第一章 発端
第二章 確立
第三章 挫折
第四章 復活
第五章 参戦
第六章 引退
エピローグ
著者あとがき
文庫版著者あとがき
解説
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
自分で考えるという観点から見たスポーツの良い実践例となるのではないか。現在のスポーツでは指導者はよく指導法や理論は勉強する者も多いが、競技者(現代では学生が主となると思われるが)は学ばないし、競技知識を体系的に自分で学ぶことはあまり推奨しない。おそらく指導者が競技者に、そのスポーツの勉強を推奨しないのは、指導方法が確立されていないことと、知識を身につけた競技者は指導しづらいということが関係していると思う。しかし、自分で考え指導者がなくても自分で競技力を高めることが現代スポーツには必要となると思う。
非常に面白い本であった。
Posted by ブクログ
文句なしに面白い。
ここまで自分の体、人間の体を研究したアスリートは珍しいのではないだろうか。
トレーニングの解説書としてもよくできていて、「世の中の常識を徹底的に疑え」と試行錯誤を続けたノウハウや方法論は、現役アスリートにとっても有用だ。
「ウェイトは筋肉を付けると同時に、神経回路の開発トレーニングでなければならない」とは、目から鱗。
筋トレしすぎてスピードやキレがなくなったプロスポーツ選手を例に挙げて、スポーツ選手に筋トレはNGなんて言説を聞くのだが、単にやり方を間違えただけなのだろう。
ストイックな競技生活とは裏腹に、私生活は奔放で裏表のない性格のようで、いわゆる“体育会”とは真逆のタイプだ。だからこそ、納得しないと動かない現代っ子のコーチには、溝口氏のようなタイプが最適なのかもしれない(コンプラとかうるさい輩は多そうだけど)。
Posted by ブクログ
自分自身がアウトロー気味のジャーナリストである上原善広さんが、伝説のやり投げ選手の溝口和洋さんを一人称で描いたルポタージュです。
18年にも渡って取材を行った集大成として、納得の名作に仕上がっています。
そもそもやり投げにも陸上にも全く興味のない私が読んでも、ぐいぐい本に引っ張りこまれて、溝口選手を隣に感じる位の魅力が有ります。
アスリートとしては破天荒というのは、飲む打つ買うを全てしているという所が大きく、言動が乱暴で野性味に溢れていたという事で誤解されていたのだと思います。
これを読むと誰よりも練習と研究い明け暮れ、既存の知識ではなく自分で気が付いた事をどんどん肉付けしていく事で、新たな理論を打ち立てて実行してきた、誰よりも真剣に競技に向かい合っていた人と受け止めました。
まあ、実際に居たら破天荒で、一緒の練習していたら殆どの人はダメになってしまうでしょう。大酒飲んで二日酔いで出場とかどう考えてもイカンでしょう。でもそれも練習の一環という考えなんですね。独特の理論がありますが、一代限りの無頼の徒だったんでしょう。それがなんともかっこいいです。
正直今まで読んだ上原さんの本で一番いい本だったと思います。あまり読まれている気配がないけれど、色々な人に読んでもらいたいです。人によって気づきが違う本だと思います。