【感想・ネタバレ】ハンナ・アーレント 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者のレビュー

あらすじ

『全体主義の起原』『人間の条件』などで知られる政治哲学者ハンナ・アーレント(一九〇六―七五)。未曽有の破局の世紀を生き抜いた彼女は、全体主義と対決し、「悪の陳腐さ」を問い、公共性を求めつづけた。ユダヤ人としての出自、ハイデガーとの出会いとヤスパースによる薫陶、ナチ台頭後の亡命生活、アイヒマン論争――。幾多のドラマに彩られた生涯と、強靭でラディカルな思考の軌跡を、繊細な筆致によって克明に描き出す。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

自分の身にふりかかる不合理な現実を必死で理解し、思想という形で昇華させて世界に還元するとハンナ・アーレントの、恐るべき知的自力再生産能力、とでもいうべきものに感嘆してしまう。少しでも吸収したく、付箋をはりまくる、メモをとりまくる。

こんなに分かりやすく本をまとめてくれた著者にも感謝したい。

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〇子供の頃の経験(学校で教師に侮辱されたら即帰って良い、という母の教え)
 ・相互の尊敬
 ・無条件の信頼
 ・社会的・人種的差別に対する純粋でほとんど素朴と言ってよいほどの軽蔑の念

〇人は、攻撃されるものとしてのみ自分を守ることができる
(ユダヤ人として攻撃されるなら、ユダヤ人として身を守る)

〇絶望-それはまるで奈落の底が開いたような経験

〇因果性はすべて忘れること。その代わりに、出来事の諸要素を分析すること。重要なのは、諸要素が急に結晶した出来事である。(全体主義の起源、ではなく、全体主義の諸要素とすべきであった。。)

〇官僚制=誰でもない者による支配、が個人の責任と判断に与えた影響

〇全体的支配は、人間の人格の徹底的破壊を実現する。(被害者にとって)自分がおこなったことと、自分の身にふりかかることの間には何の関係もない。すべての行為は無意味になる。

〇ホッファー「大衆運動」

〇リアリティ:「物のまわりに集まった人びとが、自分たちが同一のものをまったく多様に見ているということを知っている場合にのみ」世界のリアリティが現れる

〇ホルクハイマーとアドルノ「権威主義的パーソナリティ」:匿名の権威としてのマスコミに服従・同調する傾向(→ファシズムへの潜在的傾向)

〇科学的知識は「破壊力」に関わるものであれ「創造力」に関わるものであれ、所与の人間のリアリティ、地上に複数の人々が生きる現実とは疎遠なもの。

〇あたかも私たちは(科学的知識によって)自分自身の人間的存在から離れてしまったよう

〇行きたいところへ出発することができることは、自由であることの最も根源的な身振り

〇思考の欠如=思考に動きがなくなり、疑いを入れないひとつの世界観に則って自動的に進む、思考停止の精神状態

〇同胞愛はOK:人々が直接結びつく同胞愛や親交の温かさの中では、人々は論争を避け、可能な限りの対立を避ける。..(が、これが)政治的領域を支配するとき、複数の視点から見ると言う世界の特徴が失われ、奇妙な非現実性が生まれる。

〇アイヒマン=思考が欠如した凡庸な男=紋切り型の文句の官僚用語を繰り返す

〇考える能力=誰か他の人の立場に立って考える能力

〇自分の感情的な反応に注意を向ける代わりに、自らの義務として、割り当てられた仕事を遂行しようとした

〇「必然または義務」として遂行されるとき、悪は悪として感じられなくなる

〇アイヒマンはヒトラーの命令を遂行することを自分の価値を証明する意義のある貢献だとみなした

〇全体主義ー加害者だけでなく、被害者においても道徳が混乱(ユダヤ人によるユダヤ人のリスト提供)

〇服従することは、組織や権威や法律を支持すること

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〇全体主義は、技術志向の大衆社会の中で起こりうる

〇すべきこと=自分の価値観に従う、自分の経験に則する、自分の確信や感情を重視する

〇(彼女の正論は)嘘に立てこもっている生きているあれほど多くの人のいちばん痛いところを衝いた

〇自分は自分自身以外の何者でもない(民族の娘ではない、特定の民族を愛さない、自分が愛するのは友人だけ)

〇物語が重要(理路整然とした論証よりも)
 =個々の事件や物語へ脱線し、多くの解釈が混在する

〇判断力が機能するためには、社交性が条件―複数で生きる人々が共通感覚を持つためには、相互の仲間を必要とする

〇理解することへの欲求、「私は理解しなければならない」という内的な必要性

〇言葉や行為や出来事を理解しなければならないという内的な必要性

〇思考だけが「和解」をもたらす。

〇自分自身であろうとする絶対的な決意、非常に傷つきやすいにも関わらず、耐え忍んでそれを成し遂げる力を持つ

△?(ローザ・ルクセンブルク)はげしく世界とかかわり、自分自身にはまったく関心を持たなかった

〇公的に発言するときは、自分ではなく世界を賭ける

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2020年04月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

2013年に日本で公開された映画『ハンナ・アーレント』は、戦後にアメリカでも名声を確立していたアーレントがアイヒマン裁判に挑むという時代設定であったが、これを読むとそれまでの彼女にどういう経歴があってあの裁判にたどり着いたかのかということが理解できるだろう。
映画を観てアーレントに興味を持った人が『全体主義の起源』や『人間の条件』などの原典を紐解く前に、取っ掛かりとして読むのにちょうどいい入門書。
この本ではアーレントの生い立ちから、ハイデガーやフッサール、ベンヤミンとの出会い、ドイツを追われた後のフランスの収容所生活、そこからアメリカへ亡命、無国籍なユダヤ人という賤民の認識(←ここ注目)、ハンナは母語のドイツ語以外はギリシャ語、ラテン語、フランス語ができてもなんと英語はできず(!)に渡米してしまうのだが、語学をいちから学び、アメリカ国籍を取得、大学教授の職を得て、アイヒマン裁判への傍聴に向かうという一連の流れが伝記のように語られる。
悪をやみくもに糾弾するという正義は、またその行為も偽善と差別を生むことに気がつく彼女の冷静な判断。アメリカに亡命した際のユダヤ人同士における批判、アイヒマン裁判、リトルロック高校事件、アーレントには一貫した視点があることに気付かされる。これを機に、彼女の一覧の著作に興味を持つ足がかりとなるであろう一冊。
終章、彼女のフッサールへの追悼の言葉にも心動かされる。友人を大切にしたアーレントを取り巻く人々に関する情報も多く、文章も読みやすい良本。

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2019年05月07日

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