【感想・ネタバレ】変貌する古事記・日本書紀 ──いかに読まれ、語られたのかのレビュー

あらすじ

ヤマトタケルは近代以前、ヤマトタケという名だった。不老不死を求めて常世国から、「ときじくのかくの木の実」を持ち帰ったタヂマモリは、後世、お菓子の神に変貌を遂げる。『古事記』や『日本書紀』に載る古代の説話は、それぞれに違いを持ち、さらに、その後の時代の状況に沿って、意図的に変化させられることが数多くあったのだ。日本の成り立ちが記された記・紀が、いかに受容され、変化していったのか、その理由を探っていく。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

近代日本における『古事記』・『日本書紀』の神話伝説の受容と変容とを紹介した書。記紀神話にて登場するタジマモリとヤマトタケル(ヤマトタケ)の人物譚を例に挙げ、その物語が近代日本国家と民衆の間でどのように語られ活用されていったのかを解説する。
著者前著『日本神話はいかに語られてきたのか』(新潮選書)の続編ともいえる本書は、人代の伝説的人物であるタジマモリとヤマトタケルの二人を中心に、近代における記紀神話の受容と変容とを読み解くものである。王政復古を掲げて成立した近代日本において、この両者の物語は他の記紀神話同様、種々様々な政治的・時代的要請を受けて盛んに語られるようになった。そしてその中において、新たな意味や物語が付与されていった。
例えば、常世国から「ときじくのかくの木の実」を持ち帰るも天皇の崩に間に合わず殉死したタジマモリは、「乃木希典にも比すべき忠孝の鑑」として学校教育の場で強く押し出された。その一方、洋菓子の流入に危機感を抱き和菓子文化のルーツを求めた和菓子業界からは「"菓子の王"たる橘を持ち帰った菓子の祖神」として新たに祀り上げられた。
記と紀で「荒ぶる気性ゆえ父親から愛されなかった悲劇の皇子」・「父親から深く愛された征討の忠臣」の二つの異なった筋書を有するヤマトタケル伝説については、後者の物語が近代日本において選択された。その中でヤマトタケルは、牛頭天王等に代わる新たな疫神除けのイメージに採用されたり、あるいは兼六園の西南戦争従軍者慰霊碑(明治記念之標)の銅像の題材に採用されるなどしていく。
著者前著に引き続き、近代における神話の受容・変容を知れる一冊である。

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2024年05月25日

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