【感想・ネタバレ】そして、遺骸が嘶く ―死者たちの手紙―のレビュー

あらすじ

『今日は何人撃ち殺した、キャスケット』

統合歴六四二年、クゼの丘。一万五千人以上の自国兵を犠牲にして、ペリドット国は森鉄戦争に勝利した。
そして終戦から二年、狙撃兵・キャスケットは陸軍遺品返還部の一人として、戦死した兵士の遺品や遺言をその家族等に届ける任務を担っていた。

兄の代わりに家を支える少女、
恋人を待ち続ける娼婦、
戦争から生き還った兵士。

遺された人々と出会う度に、キャスケットは静かに思い返す――

死んでいった友を、
仲間を、
家族を。

そして、亡くなった兵士たちの“最期の慟哭”を届ける任務の果て、キャスケットは自身の過去に隠された真実を知る。

選考会に波紋を広げ、第26回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》を受賞した、読む人全ての心揺さぶる圧倒的衝撃作。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

キャスケットが届ける戦死者の遺品、それに関わる人たちの話のパターンが実に多種多様だった。
ストレートに泣ける死者の遺言。
死神なんぞに引き裂かれてたまるかと最期まで互いの想いを信じていた恋人たち。
捻じれた父子の関係性のその先は?
そして……キャスケットと彼の兄官の絆の物語。

最初はキャスケットが届けた戦死者とその家族や恋人の話の方に主軸が置かれていたけれど、後半は後書きにもあったようにキャスケット自身の話へシフトしていく。
戦時中のあることで「変わってしまった」兄官。
死という概念がその人をその人たらしめていたものの消失だというのであれば、今の兄官は果たして生きていると言えるのか。
そんな苦悩の中、「死神」と呼ばれ忌み嫌われる仕事を続けるキャスケットが見出したのは。

身体も心も壊された筈の兄官が守りたかったものが見えた時、作中の世界ががらりと色を変える。
あの瞬間の衝撃は忘れられないものとなった。

キャスケットは生まれ育ちが訳ありで文字も碌に読み書きできないほどだった。
そんな彼は愚直なまでに素直。
一方で作中で描かれる世界は決してやさしくない。
醜い部分、残酷な部分も敢えて遠慮せず描いているので、死者の想いやキャスケットの素直な部分がより輝いて見える。
影が濃くなればなるほど、光もまた眩しくなる。
その光を守りたかったのだろう、あの兄官は。

キャラクターノベルでありながら、死について、絆について、家族の在り方について、様々なことを考えさせらる奥深い作品。
「胸が震える衝撃の一冊」の謳い文句は伊達ではない。
最後まで読み切った時、改めてタイトルの『遺骸が嘶く』の意味が一段と奥深いものになる。
その驚きを是非読んで体感してほしい。

0
2020年03月14日

「小説」ランキング