あらすじ
自分の死に方を自分で決めなければならない。科学史の泰斗が最大の難問を考える。
医療が進歩し、人生の終わりが引き延ばされるようになったことで、私たちは自分の死について具体的に考えなければいけなくなっている。自分の人生をどう終わらせるのか--歴史上はじめて、私たちはこうした問いに答えなければならなくなったのだ。
著者は、まず、私たちが、なぜ死ねなくなったのかを教えてくれる。近代医学の歴史が実は浅いこと。医療の進歩が医者と患者の関係を変えたこと。そして「健康」のあり方が変わってきたこと。その上で、私たちの「死生観」の移り変わりを追う。中世、江戸時代、そして日本と西洋で、死はどう考えられてきたのか。それが、どのように変わってきたのか。に対する考え方はどう変わったのか。
そして安楽死・尊厳死について考える。オランダなどで安楽死が認められるまでに、いくつもの事件があり、社会的な議論があった。日本でも数十年にわたって議論が続いている。そうした経緯を踏まえ、残された人、医療関係者の思いにも目配りしつつ、私たちは死を自己決定することができるのか、考えを深める。
最後に、死を準備するときの心構えについて述べている。死を思えるのは人間だけ。死を選べる社会となったいま、私たちはどのようにして死を考えたらいいのか。心の道しるべを示してくれる。
これまで医療や死について長年、思索を深めてきた著者が、読者と一緒に、人生の終わり方について考えるとき、わきまえておくべきことを、丁寧に伝える一冊。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
令和元年に出版された本であるが、現代医療の発展が、死ねない時代を生み、日本人の死に方を考える上で、ぜひとも読んでおきたい本である。
父君がお医者さんであり、息子である村上氏に継いで欲しい気持ちだったが、人の命を預かる医者としての覚悟を父から問われたとき、その覚悟が出来なかった著者が、今後日本人が死に際し、どう覚悟を決めなければならないのか、その方法をさりげなく示唆してくれている。
科学哲学者という肩書きは流石でした。
それでも、著者が後書きで書いているが、この本が世に出る時、適切に支援してくれた佐久間文子さんへの感謝の念である。
最後に、死の判定を法的に任されたお医者さんが心置きなくクライアントをあの世へ送れるような枠組みを日本社会がしっかり考えなければならいと思いました。
内容
第1章 なぜ「死ねない」のか
第2章 日本人の死生観
第3章 死は自己決定できるか
第4章 医療資源・経済と安楽死
最終章 死を準備する
でした。
Posted by ブクログ
日本の死生観の歴史、「遠い親戚症候群」、安楽死の法制化、医療リソース、新生児医療、やまゆり園事件、著者自身の体験などさまざまなことを取り上げ、死や生について書かれている。
国内外のさまざまな安楽死に関連する事件や事柄が取り上げられている。幅広い話題が拾われており、死をめぐる社会全体の今までの流れをわかりやすく捉えられそうだと思った。
技術が進歩し、分かることや出来ることが増えるたびに本人の決断が求められることとなる。一度決めたら変わらないということではないし、常に予想外はつきまとうと思うが、自分はどう生きてどう死にたいのか、家族はどう思っているのかをタブー視せず、向き合うことが大切だと思った。
引用部分になるが「死は関係のなかで成立し、関係のなかでしか成立しない事柄なのだから、人は死を権利として所有も処分もできない」小松美彦『「自己決定権」という罠』という視点も印象に残った。