あらすじ
医科大学の脳外科臨床講義初日、初老の講師は意外な課題を学生たちに投げかけた。ある患者の脳にあった病変が消えてしまった、その理由を考えてみろ、正解者には今期の試験においてプラス50点を進呈する、というのだ。学生たちは推論を重ねていくが、一向に正解に辿り着けない。しかし、西丸豊という学生ただ一人が真相を導き出す――。選考委員が絶賛した第11回ミステリーズ!新人賞受賞作「消えた脳病変」他、臨床医師として活躍する後の西丸の姿を描いた連作ミステリ集。現役医師がソリッドな謎解きで贈る、“臨床探偵”西丸豊の推理。/【収録作】「血の行方」/「幻覚パズル」/「消えた脳病変」/「開眼」/「片翼の折鶴」/解説=米澤穂信
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Posted by ブクログ
面白い!事件になりそうなならなそうな、事例研究になりそうなならなそうな(なるな)、そんな謎めいた患者さんたちの状態を広い視野で診る西丸先生が良い。周辺の先生方も良い。なんだか教訓も得ちゃう。短編集ですがどの物語も良かった。是非シリーズ化して欲しい。
Posted by ブクログ
はじめまして、の作家さん。
解説が、大好きな米澤穂信さんってことで、
医療ミステリーに初挑戦。
登場する医師たちがまだ医学生で
講義を受けるシーンでは、
「脳は人間の最も尊い領域」という表現に
スコーーン!と視界が開けるような感覚で
すごく印象深かったし
「人間の心を作っているのは、脳」をはじめ
現役の医師が書いているだけに
医療のリアルさがあった。
医学用語も結構出てくるけど、
必要なところで、わかりやすい説明つきで
スムーズに読めたし、
実際の病や治療から逸れることなく
自然な流れでしっかりと謎解きがされる。
これは医師、看護師さんが読むと
もしかしたら一緒にそれができるんじゃ…
きっとまた違った面白さだろうなー
Posted by ブクログ
総合病院で診断の専門家というと「天久鷹央の推理カルテ」シリーズを思い浮かべますが、あちらが比較的ドラマチックなのに対して、こちらは淡々としており、その分リアルに感じます。登場する医師がプロフェッショナルに徹しているので、あまりキャラが立ってません。さらに一部のお話では登場人物をA、Bであらわしているので、ともするとショートショートのようにも感じます。
ただロジックはしっかりしていて、ミステリーとしての読みどころは多々あります。好みは分かれるかもしれませんが、個人的には好感をもった1冊です。
Posted by ブクログ
医科大学の脳外科臨床講義初日、初老の講師は意外な課題を学生たちに投げかけた。患者の脳にあった病変が消えてしまった、その理由は? 正解者には今期の試験においてプラス50点を進呈する、というのだ。一向に正解にたどり着けない中、西丸豊という学生ただ一人だけが意外な真相を導き出す――。
・・・ミステリーなんだろうが
Posted by ブクログ
優れた診断能力を持つ臨床医師・西丸が探偵役を務める医療ミステリー。長編ではなくバラエティ豊かな短編集である。
何やら某天久鷹央を想起させる設定だが、こちらの西丸は積極的に調査に取り組むタイプではなく、他キャラの誤答を正すように最後に現れる舞台装置という印象が強い。背景もほぼ語られないので作中一の謎ですらある。
この作品の特徴として「誤答もそこまでバカバカしくない」というものがある。ツッコミ役の探偵がその場にいないので珍回答が出ないのだ。
登場人物の大半が医者なので知能レベルが高いというのはある意味リアルではあるのだが、エンタメとしては少々問題がある。ツッコミどころもなく淡々と推理が進むのでどうしても目が滑るのだ。
また、謎そのものも全体的にスペクタクルに乏しく、表題作である「消えた脳病変」を除くと解答が示された時のカタルシスが弱く感じる。収録作の中では圧倒的に「消えた脳病変」の出来がよい。
派手でない分精密な推理が展開されるのかと言えばそうでもなく、特に二本目の「幻覚パズル」は短編で取り扱うのは不適格なロジック構成に感じた。
とはいえミステリとしてしっかりとした解答を用意しているのは好感が持てるし、作者の次作を読んでみたいと感じさせる作品だった。
Posted by ブクログ
臨床探偵というか、優秀な総合診断医が活躍するお話。
ミステリーといえばミステリーなのだろうが、同じく天才診断医が活躍する天久鷹央シリーズに比べると、より現実的でエンタメ性には乏しく、物語を読んでいるというよりも、実際の診断手順をわかりやすく物語調に解説してもらっている感じ。きっと実際のお医者さんも、難しい症例はこうやって診断をつけてくれているのだろうな…と改めて尊敬。
物語は、臨床探偵(=西丸豊先生)以外の、それぞれ別の第三者の視点で描かれている。その誰もが西丸豊先生と距離がある人物なので、1番のミステリーは西丸豊先生そのものの存在だったりする。
個人的に1番面白かったのは『開眼』
患者の症状の原因となった疾患は私も知っていたのに、全く思い付かなかった。
一つのことが邪魔をして、その奥にある真理に辿り着けないということは小説でもよくあるテーマだが、それが医療、診断にも間々あるのだと思った。
タイトルも含め伏線回収されていて、ミステリーの醍醐味も十分あり、楽しめた。
設定に無理があると感じる章もあったが、医師の仕事が垣間見える点がとても興味深く、また新しい作品が出たら読んでみたいと思う。