あらすじ
オリンピックの陸上男子100m決勝で、スタートラインに立った選手56人は、ここ30年すべて黒人である。陸上以外の競技でも、彼らの活躍は圧倒的に見える。だが、かつて彼らは劣った「人種」と規定され、スポーツの記録からは遠い所にあった。彼らは他の「人種」に比べ、本当に身体能力が優れているのか――。本書は、人種とスポーツの関係を歴史的に辿り、最新の科学的知見を交え、能力の先天性の問題について明らかにする。
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Posted by ブクログ
黒人はスポーツに生まれつき強く、生得的な身体能力を有しているというのは、多くの人が持つステレオタイプの一つであろう。実際の競技実績等から見れば、一側面としては紛れもない事実であるが、文化的、社会的、歴史的な側面から慎重に検討した場合、それは黒人という社会集団が近代の社会的迫害を経験することで生まれたスポーツで成り上がるというイニシアティブのもと生み出された一つの現象であると言える。短距離走で活躍するのは西アフリカ出身の者に偏りがあり、長距離走ではケニアのリフトバレーに住むナンディ族が大半である。また、黒人は泳ぎが苦手というステレオタイプもあるが、19世紀までは、黒人の泳力は白人に圧倒的に勝っていた。黒人はスポーツが強く、遺伝的に身体的に優れているというのは、一側面を見たらそう言える社会集団もあるが、社会的なイデオロギーの潮流により形作られた側面が大半であると言えるだろう。