あらすじ
「お前は伴走者だ。俺の目だ」
伴走者とは、視覚障害者と共に走るランナーである。「速いが勝てない」と言われ続けた淡島は、サッカーのスター選手として活躍しながら事故で視力を失った内田の伴走者として、パラリンピック出場を賭け国際大会で金メダルを狙う。アルペンスキーのガイドレーサーを描く「冬・スキー編」も収録。解説・川越宗一。
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Posted by ブクログ
「けれども強いから最強なんじゃない。たくさんの弱さを知っているから世界最強なんだ」(315ページ)
「『弱さのない人は強くなれない』
そうだ。弱さが俺たちを強くする。弱さを知る者だけが、その弱さを克服できる。たった一つの感覚の代わりに、多くの感覚に頼る力が晴の強さだ。頼れること。それが本当の強さなのだ」(同)
目が見えない世界で、感覚だけでスキーをするのがどんなに怖いことか。でも、目が見えないはずの晴は怯えない。
晴と伴走者の涼介が一緒に街を歩いているシーンで、些細な段差で晴がつまずく。一人で歩いているときは気を張っているけれど、助けてくれる人がいるときは、油断してしまうと言う。
一人では生きられないから、支え合うこと、頼れることが強さなのかもしれない。
視界が悪いときに、涼介の「伴走者」になる晴。こちらが〝弱者〟だと思っている相手でも、じつはできることがたくさんあると晴は教えてくれる。支え合うこと、頼り合うこと、でも相手のできない範囲・助けてほしい範囲を見極めて、必要以上には手を出さないこと。そんなことを、本作は教えてくれる。
Posted by ブクログ
視覚障害者のパラスポーツを描く。
夏編:ブラインドマラソンと冬編:ブラインドスキーの2編からなる。
夏編のランナー・内田は事故による中途失明者。
冬編のスキーヤー・晴は先天性の視覚障害。
二人とも全盲光覚なしという、視覚障害としては最重度だが、作中、特に視覚支援学校(盲学校)が描かれる冬編では、視覚障害にもグラデーションがあることがそっと触れられている。
そしてそれぞれの伴走者には、それぞれの競技に屈折した関わりをもち、かつそれぞれのパートナーと出会うまでパラスポーツにも視覚障害者にも関わりがなかったという共通点がある。
正直、両編とも半分過ぎくらいで何となく先を予想していて、両編とも外れた。いい意味で裏切られた。
内田はゴールを間近にしてランナーとしての意識が高まり、淡島がそれに応え、僅差で…まあ、勝ち負けまでは予想できなかったけど。
晴は何やかや言って陰で練習していて大会で好成績を収め、立川も心を開く、と予想していた。
はい、はーずれ。
でも、それがよかった。
予想通りだったら星が二つ減っていた。
題材は視覚障害パラスポーツだったけど、テーマはインクルーシブだと思う。
「相手のことなど、何もわからない」を意識し自覚することから、真のインクルーシブは始まる。
そういう読後感です。