【感想・ネタバレ】夕陽の道を北へゆけのレビュー

あらすじ

アカプルコで書店を営むリディアの幸せな日々は、カルテルのボスの差し金で家族16人を殺され、崩壊した。彼女は、生き残った幼い息子ルカを連れ、メキシコを縦断してアメリカを目指すことを決意する──過酷な運命の中で、明日を信じて進み続ける人々を描く。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 ロードムービーのような小説を読みたくて、この本を手に取った。西部劇のようなタイトル。しかしこれはアメリカの荒野を馬車で渡ったような二世紀位前(?)の話ではなく、現代のメキシコの観光都市アカプルコから命からがら逃げてアメリカとの国境を渡った母と八歳の息子の話。
 彼らに何があったのか。
 主人公のリディアという女性は書店を経営し、夫は記者で、最近メキシコ最大の麻薬密売組織(カルテル)「ロス・ハルディネロス」とそのボスであるハビエルのことを暴露する記事を書いたため、ある日、目の前で夫や母親を含む親族13人を殺害され、助かったのは自分と八歳の息子だけだった。
 リディアはハビエルが自分と息子の命も狙っていることを知っている。「すぐに逃げなければならない!」。「保護します」という警察の申し出も断る。何故かといえば警察の中にもカルテルから賄賂をもらっているものが多く、逆に彼らをカルテルに売る可能性があるからだ。自家用車を使って逃げようとするが、車の下に爆弾が仕掛けられている可能性があるので使えない。国のあちこちの検問所、公共交通機関の職員など、裏でカルテルと繋がっている人間は数多といる。リディアはハビエルと個人的に友達でもあったので顔を知られている。誰がどこで見ているか分からない。スマホとかタブレットも使えない。GPSが敵に彼らの居場所を教えてしまう可能性もあるからだ。
 「どうすればいい?」リディアは考える。「自分たちはもはや難民だ」。
そして、メキシコからアメリカへ過酷な不法入国をする移民たちと行動を共にする。北へ西へ時々は一旦南へ。国境警備隊に捕まりにくい安全なルートを探って列車を乗り継ぐ。乗り継ぐと言っても、切符を買って乗車するのではない。疾走する列車に飛び乗り、屋根の上に「乗車」するのだ。列車の上は移民で一杯だ。落ちてしまうともちろん、体は車輪に引き裂かれる。
 ある移民保護施設を運営する神父が移民たちを前に話す。「もしも引き返すことが出来るのなら、今そうなさい。あなたがたの求めるものが、ただのより良い生活ならば、他の場所でそれを求めなさい。この道は、それしかない人びと、暴力と悲惨な状況に追い詰められた、進退きわまった人びとのためだけにあるのです。多くが命を落とすでしょう。あなたがたのうちの多くが誘拐され、苦しめられ、麻薬の不正取引に巻き込まれ、拘束されるでしょう。運良くそのすべてを乗り切り、合衆国にたどり着く者も、結局は灼熱の砂漠で孤独のうちに死んだり…一人残らず強盗に会うでしょう。エル・ノルテまで行けてもついた時には懐は空っぽです…」。その話を聞いても、「生きて国境を渡る」と決意して旅を続けるのが移民なのだ。
 表紙の絵にあるのは、国境を渡ったばかりの所の果てしない、灼熱の砂漠の道。ここで脱落するものもいる。そうすると、砂漠に置き去りになるか、自分から国境警備隊に捕まりに行くしかない。
 トランプ大統領が築いている国境の壁の向こうの人たちにこんなドラマがあるとは知らなかった。
 小説の登場人物の話はフィクションであるが、メキシコからの移民について三年に渡るリサーチをして書かれたこの小説はリアルな話でノンフィクションのような重みがある。
 それでいて、ハリウッド映画のようなアクション、緊迫感、ロードムービーのように変わりゆく景色、移民仲間との絆、移民を思いやってくれる付近の人びとの温かさ、主人公の喪失感にも負けない生命力、息子の成長など、読みごたえのある小説だった。

 

0
2020年10月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

メキシコ。カルテルに親族16人を惨殺された母子の冒険譚。カルテル、コヨーテ、移民、通りすがりの人々の人間臭さが好き

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2023年11月26日

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