あらすじ
19世紀から20世紀前半、欧米諸国の衣服や装飾品のデザインや素材には、科学技術の進歩によって革新的なものが生まれ、流行してきた。いつの時代も、その当時の最新技術によるファッションは、悲惨な出来事を引き起こした。本書は、それらを取り上げて、歴史的・社会的背景や、科学的側面とともに示す。それらの出来事に巻き込まれざるを得なかった人々の悲劇的エピソードは、それぞれが胸に迫る。そして、同様の問題は現在も存在することが、具体的な事例とともに指摘される。美しい色や贅沢な装飾の服、帽子、装飾品などの写真と、それらにまつわる悲劇との対比が、たいへん印象的である。
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Posted by ブクログ
もうなんかね、いろっいろ黒歴史に充ち満ちているのですよ。興味深いけど、闇も深い…!
現代の事例も結構あって、海外の著者さんですが日本での出来事も幾つか取り上げられてます。
一時期流行った超厚底靴とかね!
ヒ素由来のグリーン、ドレスも子供服も手袋も200年くらい前の物でも綺麗に色が残ってました。
これは着用者より製造側の労働者にかなり被害が出ていたそうですが、気に入ってよく着ていれば影響無しとはいかなかったでしょうね。
服飾品以外にも壁紙やファブリックや家に塗る塗料・お菓子に使う食紅・画家(ゴッホやゴーギャンなども使用)が使う絵の具・造花を染める染料、果ては子供用のおもちゃにまで使われていて、ナポレオンの死因もこういった物が関わっていたのではなんて説もあります(諸説有り。
子供の生活かなりシビア…ヴィクトリア朝で言えば他にも、泣き止まない子に阿片チンキでもっておとなしくさせたとかありましたし…。
※この時代は阿片チンキ=咳止めや鎮痛剤といった常備薬的な物として、特に規制されず大人から赤子にまで広く使用されていました。
そんな風に世を席巻していたグリーンの塗料も、毒性が認知されてからは殺虫剤(農薬)や殺鼠剤として再利用されていたそうです。
それから1909年の青い素敵なエジプト風ドレスの上半身部分にフィレレースが使われていて、あぁ実際こんな風に使われていたのね!とレース編み好きとして反応してしまったところ。
マス目をかがって刺繍してあって遠目にはクロッシェの方眼編みのよう。
ハーダンガー刺繍みたいな雰囲気の物もあるんですよね。
それでこのドレスは更にスパンコールやビジューやガラスビーズで飾られているんですけど、スパンコールがセルロイド製で危険視されたのだとか。
セルロイドは燃えやすい上に、一度火がつくと摂氏815度とかなり高温になり、燃えた後は毒性の強い煙・ガスを出すのが特に危ないのでした。
元々は狩られまくって絶滅の危機に陥った象牙の代替品として開発された物で、きっかけはよかったんに…。
現在はもっと安全な合成樹脂がありますけれど、そこにたどり着くまでいろいろあったものですわねぇ。
Posted by ブクログ
主に18〜20世紀にかけてのファッションにまつわる怖いお話です
古くはシラミを媒介する軍服や裾を引きずり街中のホコリ(や病原菌そのたあらゆるもの)を家の中に誘い込むスカート、毒を持つ緑色、つくる人もかぶる人も殺すフェルト帽子、履いた人の皮膚がただれる靴下、長く垂れ下がるファッショナブルなそれでいて都市生活には不向きなスカーフ、など危険で魅力的なファッションについて論文並の内容がそろってます。
一方現代では自分が履いてるパンツ1枚、材料はどこから来て誰がどんなところで縫製し、ここまで運ばれてきたかわからなくなってしまいました。現代はこういったファションの危険性が非常に見えにくくなっています。
ファッションが好きな人ならこのことについて知ること、知ろうとすることは必要な姿勢ではないかと感じました。
Posted by ブクログ
これはジャケットプラステーマ買い。
今写真で振り返っても美しいドレスや帽子にまとわりつく暗い陰。
服飾売り場で買ったものを無条件に信じ、着ている。
まさか着衣しただけで、あるいはうっかり口にくわえてしまっただけで、彼岸にいってしまうなんて誰が思うだろう。
この本のおもな舞台は19-20世紀前半のパリやロンドンなどの大都市だ。
悪質な環境で害のある化学繊維を使って作業せざるをえなかった労働者。
炎が明かりとして身近にあったからこそ、燃え移って火だるまになるレーヨンやモスリン素材。
メインテーマではないか、動物たちの搾取によってつくられる装飾や毛皮、剥製の数々。
そして、それらは現代にまで続いている。
私は着物を着るのだが、昔の着物は正絹という素材でできているものが多い。
絹は、蚕を犠牲にできている。
ファストファッションでなにも考えずに買う洋服の染色は、製作過程は、劣悪でないといえるのだろうか。
本書の印象に残った2文を引用する。
こうした帽子の流行のスタイルとシルエットは、なんと寿 命が短かったことだろう。それと対照的に、有害とわかっていつつ帽子 作りに利用された化学的毒物は、なんと寿命が長いことだろうか。
ファッションの力はあまりにも強くて、実用性はしばしば スタイルに打ち負かされた。それが今も続いている。
Posted by ブクログ
過去のおしろいに鉛が含まれていたというのは知っていたけれど、それだけじゃない。鮮やかな緑のドレス、ふんわりとしたレース、裾を引きずる優雅な長いドレス。図表や絵画をふんだんに使い、目にも美しく、そして恐ろしく死を招く姿が想像できる。
ドラマティックなだけでなく、事実を述べるだけではなく、読んでいて楽しく面白いのがうれしい。
現代を生きる私たちも、ふとした拍子にファッションが要因で死ぬ。マフラーやストールを何かに巻き付けて窒息したり、厚底の靴で階段から転げ落ちたりと、当たり前のように日常に危険は潜むのだ。そしてサプライチェーンリスク。身に着けるもの、口に入れるものが安全じゃないと誰が保証してくれるのだろう。
読みながら思ったのはは「日本版のこんな本を読んでみたい」ということと、それから「過去の死を招くファッションを選択した彼らを無知だと笑えない」ということ。
面白かった。オススメ。
Posted by ブクログ
『鏡の国のアリス』の気狂い帽子屋の由来が、帽子の製造工程で使われた水銀にあることは知っていたけれど、その背景についてまで深くは知らなかった。この本では、当時の衣服や装身具の写真や、絵画等に描かれた様子を含めて、詳細に語られている。そして、他にも染料などによる被害も、それを作る労働者と、身に着ける使用者のそれぞれがどのような危険に晒されていたのかを詳細に説明している。コストを低く抑えたい経営者の都合で、健康被害の認識や周知が遅れることも多い。一方で、使用者側も、礼儀上必要な装身具だったり、あるいは流行だからと言う理由で身につけて、死亡した例も少なくない。読んでいて、最近のKuToo運動を思い出したのだけれど、身体に合わない服装については序論に記載されているだけで、章を割いての記載はなかったのが残念。過去の問題と思って読んでいたのが、最後になって現代でも問題が残っていて、さらに、ヨーロッパ限定ではなく、世界的規模での解決が必要なことも示唆されている。
Posted by ブクログ
実際の写真や絵が随所に示されており、非常にわかりやすい。服飾やそれにまつわる文化だけでなく、社会における男女の役割にも着目しているため考察の深さに驚かされ、そして強く納得できる。最終章に至っては現在も残されている懸念が書かれており、本書の内容が過去の遺物ではないことを我々に強く問題提起も兼ねて示している。
Posted by ブクログ
ヒ素や鉛が且つて染料や、化粧品として使われていた、程度は知っていたけれども、実際それを着用した人にどのような健康障害が起きたのか、また製造者にどのような労災を引き起こしたのか、というのは知らなかったので大変勉強になった。
安価、色が鮮やか等新しいスタイルや技術が勃発する→人気が出る→健康障害が出る、の時点ですぐ廃れたのかと思いきや、そうではなく危険なものがそこそこ長い間使われていたということに驚くと同時に、今に通じるところがあるなと感じた(例えば、ハイヒール等)。また、労働者の労災が全く軽んじられていたというところも心が痛むが、ここも今も残っている問題だ。
大きなサイズでカラー刷りでとても写真や版画が見やすいのが◎ヒ素グリーンは確かに美しい色だったのですね。
Posted by ブクログ
19~20世紀前半の科学技術の進歩は、ファッションの世界にも
革新をもたらした。新しい素材や奇抜なデザイン・・・しかし、
それらは美のみならず、悲劇・・・病や死をも引き連れてきていた。
序論 現実でも物語でもファッションは死を招いている
第1章 病んだ衣服ー細菌や寄生虫との戦い
第2章 毒を含んだ技術ー水銀入りの帽子
第3章 毒を持つ色素ーヒ素を含む緑
第4章 色ー死をもたらす美しい色
第5章 絡まる、窒息するー機械に巻き込まれる事故
第6章 炎に包まれる生地ー燃え上がるチュチュと可燃性ペチコート
第7章 爆発するまがい物ーセルロイドの櫛と人工シルク
結論 ファッションの犠牲者を出さない未来へ
カラー画像豊富。注、参考文献、索引有り。
19~20世紀前半の、主にフランス・イギリス・北米のファッション。
科学技術の進歩と最新技術は、高価だった&憧れだった衣服や
装飾品の模造品を生み出しました。
贅沢品の原材料たる生物の絶滅には歯止めになった面もありました。
が、それらを製造する現場の労働者たち、身に着ける者たちには
大いなる悲劇がもたらされました。
機械に巻き込まれる、服やアクセサリー、髪。
毒は、製造現場で人体に取り込まれ、身に着ける肌着や靴下、
使用する靴墨、髪染めで、肌に染み込む。
流行の帽子のフェルト成形に水銀。ヒ素グリーンの魅惑的な美しさ。
当時の合成アニリン染料の鮮やかな色彩は消費者の色への欲求。
奇抜なファッション・・・膝を拘束するホブルスカートの事故。
燃え上がるバレリーナ。クリノリンの功罪、フランレネット。
鼈甲を模したセルロイドの櫛や、人工シルクは発火。
美と醜、賛美と苦痛は背中合わせ。
美の神は突如仮面を外し、死神に変貌し鎌を振るう。
しかも現代でも進行形という、恐ろしさ。
日本の事例も序論に載っていましたし。(厚底靴)
汚れた服や下着に沸いたシラミは発疹チフスを発症。
古着や裾を引きずるスカートでも細菌や寄生虫は媒介される。
これら細菌や寄生虫の話は、新型コロナウイルス感染の問題に
直面している現在、これもまた現在進行形なのだと、
しみじみ思いました。
Posted by ブクログ
服の素材や作る過程で使う薬品などがいかに被害をもたらしてきたかの話。
被害例が刺激的で面白い。
どの場合も規制がかかるまではけっこうな時間がかかっていて、ままならないものだなぁと思った
Posted by ブクログ
ファッションのために命を懸ける人、儲けの為に毒性を無視する商人、それに産業革命が合わさることで引き起こされた悲劇の数々。
科学技術はその毒性を克服するが、それまでの数年・数十年のタイムラグで失われた生命を想うと心は重い。
正しく怖がることの大事さがよくわかる。