あらすじ
立花隆を要約するのは非常に困難である。まさに万夫不当にして前人未踏の仕事の山だからだ。時の最高権力者を退陣に追い込んだ74年の「田中角栄研究ーその金脈と人脈」は氏の業績の筆頭として常に語られるが、ほぼ同時進行していた『日本共産党の研究』で左翼陣営に与えた激震はそれ以上のものがある。
『宇宙からの帰還』にはじまるサイエンスものでは、『サル学の現在』でサルと人間に細かく分け入り、『精神と物質 分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか』でノーベル賞科学者の利根川進に綿密な取材を施し、『脳死』では安易な脳死判定基準に鋭く切り込んだ。科学を立花ほど非科学者の下に届けてくれた書き手はいない。浩瀚な書物である『ロッキード裁判とその時代』『巨悪vs言論』『天皇と東大』『武満徹・音楽創造への旅』は余人の及ばない仕事であり、また旅を語っても、哲学、キリスト教、書物を論じても冠絶しておもしろい。
立花隆はどのようにして出来上がったのか、そして何をしてきたのかーー。それに迫るべくして、彼の記憶の原初の北京時代から、悩み多き青春期、中東や地中海の旅に明け暮れた青年期、膀胱がんを罹患し、死がこわくなくなった現在までを縦横無尽に語りつくしたのが本書である。彼が成し遂げた広範な仕事の足跡をたどることは、同時代人として必須なのではないだろうか。
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Posted by ブクログ
人間がこれほど凄まじい怒りを無言で顔貌のみを持って表現している様を僕はかつてみたことがありませんでした。田中角栄
アポロ9号に乗ったラッセルシュワイカートは、宇宙体験をすると、前と同じ人間ではありえないと僕に語りました
はじめての哲学体験も、その人の物の考え方の基本に大きな影響を及ぼします。どのような哲学にどのように出会うかが、はじめての哲学体験では重要です
人には、上が危機的な出会いというものがあります。出会った瞬間に一切のことをしないぼう然と立ち、つくしてしまうような出会いのことです
Posted by ブクログ
2カ月ぶりの読書。この勉強期間に立花さんのムックなどが発売になり、どうしても立花隆を復習したくなった。この本はそういう意味では最適。立花さんが生涯どういうテーマを追いかけて、何を書いてきたのかがある程度復習できる一冊。臨死体験や脳死、サル学、分子生物学など立花さんの本で学んだことは多かったけど、田中角栄研究や日本共産党のところは呼んだことが無くて、ますます興味を魅かれました。
あと、日本の近代を解き明かした「天皇と東大」にはとてつもなく魅力を感じました。
ということで、「天皇と東大」全4冊と「宇宙からの帰還」を買ってしまいました。
Posted by ブクログ
テレビで追悼番組を見て読んでみたいと思って、読んでみた。自伝のような本で、子供の頃からの読書量にとてもびっくりした。名作はだいたい読んでて、自分ももっと読まないとと思った。文学を読んで人の心を察する力をつけたり、世界観を広げるのにやっぱり本は大事と書いてあった。ヨーロッパの人のデモの背景にある文化や歴史も、今の環境デモにつながるように感じて面白かった。世界に飛び込むことは、本を読むよりも大事で、行かないとやっぱり感じられないことはあるとも書いていて、留学がいまは行けないけど、いつか行ける時に行きたいと思った。そのためにも本読んだり英語を勉強しよう。
Posted by ブクログ
その知性もさることながら、行動力と物事への追求がすごい。発言にはデータによる裏付けがきちんとある。
自信を持った言い切りの文章なので、逆に反論も生まれるのかもしれない。
自伝的に語っている内容なので読みやすい。
Posted by ブクログ
立花隆が自身の人生を振り返った自伝。私の人生にも大きな影響を与えてくれた著者が、どのような人生を歩んできたのかは非常に興味があった。
最初に著者の作品と出会ったのは高校時代に病気で入院して落ち込んでいた時に、仲の良かった先生から借りた「宇宙からの帰還」であった。天文学を志望していたこともあり、本書によってさらにその気持ちが高まり、病気に負けずに受験に立ち向かうことができ、このタイミングで入院となってしまった自分の人生を恨んでいたが、人生観をも考え直すきっかけを与えてくれた。
その後も著者の作品をいくつか手に取ってきたが、正直なぜ多岐に渡るジャンルの本を書いているのか疑問に思ったこともあった。
しかし、本書を読むことで著者の中では大きな流れの中で、それらの作品は繋がっており、さらに一つの作品を作り上げるのに膨大な情報を収集していることに今更ながらに驚かされた。
まさに「知の巨人」の名にふさわしい人物であり、未だに新たな作品への取り組みを構想していることに驚かされた。
以下は本書で特に気になった個所の抜粋である。
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・「ドストエフスキーの世界観」は、ベルジャーエフがドストエフスキーを、小説家というよりも「偉大な思想家、偉大な予言者、ロシア最大の形而上学者」ととらえ、「その精神の底を極める」ことを目指して書いた本で、それ自体が一つの哲学書でした。(中略)ベルジャーエフを知ったことで、物事を考えるスケールが全く変わりました。
・人間の知的な営みについてひとこといっておくと、人間は全て実体験というものが先なんです。これは何だろうという驚きがまずあって、それを理解したいから、本を読んだり、考えたりするんです。ひとつの文化体系を本で読むことだけで勉強しようとしても、基本的には無理なんです。それはとても勉強しきれるものではない。ある文化体系を理解しようと思ったら、そこに飛び込んでその中に身を置いてしまうしかないんです。
・読まないと文章は書けない。まず消費者にならないと、ちゃんとした生産者にはなれない。それから、文が鵜を経ないで精神形成をした人は、どうしても物の見方が浅い。物事の理解が図式的になりがちなんじゃないかな。文学というのは、最初に表に見えたものが、裏返すと違うように見えてきて、もう一回裏返すとまた違って見えてくるという世界でしょう。表面だけでは見えないものを見ていくのが文学ですから。
・小説ばかりでなくノンフィクションも読む必要がある。「世界ノンフィクション全集(全50巻)」はノンフィクションの歴史に残る傑作中の傑作が多い。
・人間の肉体は、結局、その人が過去に食べたもので構成されているように、人間の知性は、その人の脳が過去に食べた知的食物によって構成されているのだし、人間の感性は、その人のハートが過去に食べた感性の食べ物によって構成されているのです。全ての人の現在は、結局、その人が過去に経験したことの集大成としてある。
・人間存在をこのようなものとしてとらえるとき、その人の全ての形成要因として旅の持つ意味の大きさが分かってきます。
・旅は日常性からの脱却そのものだから、その過程で得られた全ての刺激がノヴェルティ(新奇さ)の要素を持ち、記憶されると同時に、その人の個性と知情意のシステムにユニークな刻印を刻んでいきます。旅で経験する全てのことがその人を変えていく。その人を作り直していく。旅の前と旅の後では、その人は同じ人ではありえないのです。
・いい言論にも悪い言論にもおなじような存在価値があります。だから言論の自由は無差別に守られる必要がある。これが言論の自由を守る意義の根幹にある真理なのです。