あらすじ
橘百花25歳。高校時代の同級生と結婚し、妊活を始めた矢先に乳がん発覚。古賀菜都32歳。老舗造り酒屋の嫁として育児に奮闘する最中に乳がん発覚。田中柚子29歳。花嫁検診で乳がんが見つかり婚約破棄。怒涛の3年が経過。闘病ブログを通して出会った3人は、ひょんなことから金沢を旅することに。若年性乳がんを乗り越えた著者が、女性たちの生きる希望と勇気を描く。小説宝石新人賞受賞作家渾身のデビュー作!
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Posted by ブクログ
「子供がほしい」と思う気持ちは夫婦同じくらいなのに、妊活となると、なぜ女側が「お願い」する形で進めなくてはいけないんだろうと、この頃は強く疑問に思う。(P.11)
「働くのはあとからでもできるのだから、早く子供を産んじゃいなさい」と、いつも言う。(P.22)
乳がんだと言うと、みんな「内臓じゃなくてよかったね」と、口を揃えて言う。確かに、それも一理あるんだろうなと、百花も思う。おっぱいがなくても呼吸にも消化にも排泄にも支障はない、だから恵まれているのだと、言い聞かせもした。(P.37)
生きていれば当たり前に芽生える願望。 病気に負けず、それを叶えようとする前向きな気持ちもある。だけど時折、そこに覆いかぶさるようにして「果たして自分はあとどれくらい生きられるんだろう」という死への恐怖が湧き上がってくる。(P.38)
好きな人との子供を持ちたい。 妊娠の希望を残したいーーそう思うことは、そんなにも悪いこと なんだろうか。それとも、がんの世界に足を踏み入れてしまった自分には、もはや許されないことなんだろうか。(P.40)
脳内では、彩音に言われた「生きてくれてるだけでいい」という言葉が残像のように形を成してい た。 生きているだけでいいって、どういうことだろう。 呼吸さえしてればいいってこと?子供を産まなくても、働かなくても、ただ寝ているだけでも、存在していれば、それでいいってこと?それは、果たして生きていることになるんだろうか。誰のために。なんのために。(P.42〜P.43)
生きる理由がほしかった。これから先、つらい治療に耐えながら、がんばるだけの理由が。(P.45)
この世界のどこかに存在している先輩たちは、自分よりずっとタフで、たくましい。でも、その強さも、はじめから備わっていたものではなくて、決してそうではなくてーー。きっと一日一日、血を這うようにして、生きてきた結果なのだと思った。もともと強いから、病気を乗り越えられる力があるからがんになったんじゃなくて。そうじゃなくて、もっと最初は弱くて、みんなへなちょこで。だけど、強くならないと生きていけないから、きっと、少しずつ。(P.51)
「未来予想図はいつでも修正可能。」(P.53)
採卵だってうまくいくかわからないし、抗がん剤の副作用も心配だし、それが無事終わったところで、その先にはまだ光すら見えなくて、たくさんの困難が待ち構えているに違いないのに――でも、 その最中に、 大切な人の笑顔に出会える瞬間があるのだとしたら、やっぱりそれは、「悔しいけれど、「おもしろい」に違いない。(P.58)
これは、きっと、試されているんだ。神様に。
母親になったんだから、もっと強くなりなさいーーと。(P.69)
この先、自分はいったいどうなってしまうんだろう。 手術をすれば本当に助かるんだろうか。 来年の今頃は、生きているんだろうか。もしかしたら、そう遠くない未来に、死ぬんだろうかーー。そう したら、菜々花はどうなってしまうんだろうーー何を考えても最後に行きつくのはやっぱり菜々花のことで、だから絶対に死ぬわけにはいかない、せめてこの子が自分のことを自分でできるようになるまではーーと、強く思う。 今死んだら、自分という存在は、きっとこの子の記憶に何も残らない。そんなの、耐えられない。(P.86)
泣くまい、と思えば思うほど、涙が逆らうように流れてくる。
強くなければいけないのに。(P.86)
「みんな同じなんだ。ひとりじゃない」(P.106)
こうやって形の変わった乳房を見ていると、その傷口から、いろいろなものがぽろぽろとこぼれているような錯覚にとらわれる。(P.115)
本当は、わかっている。 わかっているのだ。自分だけが、苦しんでいるんじゃないことをこの世界にいるすべての人が、それぞれ何かを抱えて、生きていることを。(P.149)
今日がつらくても、明日はどうなるかわからない。だから生きなくちゃだめだ」ーー。(P.163)
「そだね。 菜都の考えは、とても常識的で正しいよ。でも、正しいって、楽しいのかな?」(P.176)
ーー自分はもう、子供を産めないかもしれない。(P.186)
「乳がんになったことが、 犬のフン踏んだことと、同じくらいに思えるようになったらいいよね。がんを、敵じゃなくて、人生の相棒だって思えるようになったら⋯⋯どんなにいいか」(P.193)
手の中に、何一つ、未来に繋がるものがないことーー。(P.211)
時折くじけて、何もかもから目を背けたくなって、死にたいと思うこともあって、だけど、気がついたらやっぱり生きることにしがみついてしまっている。 人生は、その繰り返しだ。(P.245)
私⋯⋯子供を産んで新しい命を繋ぐことだけが、この世界に足跡を残すことじゃないって⋯⋯強く思う。うまく言えないけど、自分の言動で誰かを笑顔にしたり、人の役に立ったりすることも、足跡の一つだよ。(P.251)
結婚しないと幸せになれない。 子供を持たないと幸せになれないーーもしかしたら、人間の、女性のDNAの中には、自然とそんな呪いがかけられているのかもしれない、と。 進学、就職、結婚、出産、子育て。まるで生まれた瞬間から、人生の正しい順序が決められているような。そのレールに乗らないと認めてもらえないようなーー。本当はそんなことないのに。一人ひとり、違って当たり前なのに。だからこそ、世界は彩り豊かなものになるはずなのに。(P.252)
幸せは他人に決められるものじゃない(P.256)
決定権は、自分の心の中にだけ、ある。 それは、神様にだって手を出すことはできない。たとえ明日、すぐに大きな変化を起こせなくても、小さな魔法はいつだって使える。
そして幸せかどうかは、自分で決める。(P.256)