あらすじ
加齢によって、記憶は衰える――。それが一般的なイメージだろう。だが、人間のメカニズムはもっと複雑だ。本書は、高齢者心理学の立場から、若年者と高齢者の記憶の違いや、認知能力の変化など、老化の実態を解説。気分や運動、コミュニケーションなどが記憶に与える影響にも触れ、人間の生涯で記憶が持つ意味をも問う。加齢をネガティブに捉えず、老いを前向きに受け入れるヒントも見えてくる。
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Posted by ブクログ
たとえば、鍵を置いた場所を忘れるのは、置いた場所を忘れているのではなく置いた時に意識をしていないから。なるほど! 齢をとればとるほど、無意識の行動が増えている気がする。経験や知識でわかっているからいちいち考えずに動く。もう少し色々意識をもって行動しよう!と思う。納得ができる面白い本だった。
勘違いなのか、作り話なのか、間違ったことを言ってる姑たち高齢の人が、記憶を都合よく自分のストーリーに塗り替えてしまうのは、あるある!なんだと理解できたことで、まぁいっかと許容できるようになったかも。
Posted by ブクログ
人の「記憶」する能力一般について書かれた本も多くあるだろうが、本書は、高齢化していくにつれて、記憶の能力が低下していくということを前提として、そのことを受け入れ、あるいは立ち向かっていくための知識や知恵を与えてくれる。
これまで研究された理論や、実験、調査などの結果を根拠に記載されており、内容について信頼できるとともに、その内容も非常に興味深く読むことができた。
周知のようにすでに高齢化社会は到来している。本書によると1920年頃の平均寿命の2倍の長寿になっているという。世界最高年齢は、フランス人の方の122歳とあった。
そして、昨今よく言われる「健康年齢」について、本書上では、平均寿命とのギャップが、男性で9年、女性で13年あるとされている。
長寿はいいが、はやり健康な長寿でなければ、本人もまた周囲も辛いものがある。そして、認知症は一般的に65歳から急激に増加し始め、しかもその治療方法が未だないことから、現代人の誰もが60歳前後になれば、気になってくる病の一つだ。
「認知症」と言えば、「記憶の低下」である。なってしまった以上、この症状は受け入れるしかない。しかも、認知症でなくとも、高齢化が進むにつれて、記憶は低下していくという事実は避けられない。
そういうことを前提として、ではそうなる前に知っておいてよいことはないか。準備しておいてよいことはないか。そういうことに気付かせてくれるのが本書である。
最初に大脳の働きの説明がある。後頭葉、側頭葉、頭頂葉、前頭葉。続いて高齢化に伴う脳の萎縮の話が出てくる。齢をとると神経細胞が減っていき、またシナプスの密度がだんだん低下していき、記憶が弱くなっていく。
次に記憶の種類の説明が出てくる。
「長期記憶」「短期記憶」「ワーキングメモリ」の大分類があり、さらに「長期記憶」は「顕在記憶」と「潜在記憶」に分かれている。
また「顕在記憶」には「エピソード記憶「意味記憶」があること、「潜在記憶」には「ブライミング」と「手続き記憶」があることが説明されている。
これらの記憶には、加齢に強いものと、加齢に弱いものがあると教えてくれる。
例えば「エピソード記憶」は加齢に弱い(齢をとると忘れる)が、「意味記憶」は特に加齢に影響されないとか、「顕在記憶」は海馬を通して、覚えることに努力を要するため齢をとってからはつらいが、「潜在記憶」は習慣化によるものなので、一度覚えておれば齢をとっても忘れないとか(例えば自転車の運転みたいなもの)、そういうことを教えてくれるので、準備とか対策とかが考えらえる。
ワーキングメモリーは、加齢とともに衰えるそうだが、一般的に人の脳はマルチタスクよりシングルタスクに向いているそうだ。だから、若いうちも、齢をとってからもシングルタスク思考のほうが効率的ということだ。
例えば、齢をとってエピソード記憶が消失していく前に、外部媒体に記録を残しておくというのは有効だ。スマートホンでもタブレットでも、それを使うための操作は「手続き記憶」であり、これは加齢の影響を受けないらしい。若いうちから使いこなせておれば、高齢化してもちゃんと外部メモリーに必要な記憶は保持され続け、困るどころかさらに有意義に人生を楽しんでいける。
これは、人生の満足度維持のためのライフマネジメントとして紹介されていたSOC理論(選択・最適化・補償の重要性)を記憶にうまく適用した方法と言えるそうだ。
また、仮にスマートホンの操作を覚えるにしても、ただ文字で覚えるのではなく、例えば携帯ショップの実演講習などで覚えると無駄なく効率よく覚えられると助言してくれる。
これは言葉で覚えるという「脳の前頭前野」での記憶は高齢者は苦手で、逆に「脳の運動野」を使った実演による記憶は高齢者でも大丈夫だからと、その根拠を教えてくれる。「習うより慣れろ」と著者は言う。
最近話題の「脳トレ」が、記憶の改善・維持や、認知症予防に効果があるかという点では、著者は様々な実験結果から懐疑的であった。むしろ人と会うような社会的活動や、身体運動のほうがその効果が報告されており、例えば「脳トレのゲームのために人と会うのをキャンセルする」というのは本末転倒であると言っている。
予防という意味では、これまでの検証結果から、「年齢」「教育歴」「性別」「血圧」「BMI」「コレステロール値」「身体活動」などが認知症の発症率に対し有意であることなどから、例えば生活習慣の健全な維持や、適度の有酸素運動を習慣化することなどは、認知症予防につながるという。
その他、積極的に社会的交流を行うことや、ビタミンC、Eなどを摂取することなども予防に有効と述べていた。こういうコントロールで、35%くらいは予防できるという。
これまで実験の結果から、人の幸福評価というのは、人生の最も良いときの評価、最も悪かった時の評価と、人生の最後(エンド)での評価で決まるという。つまり人生の最終章が大事であるということだ。
ならば、齢をとってから後悔しない生き方をしなければならない。そのためには、いまから準備できることがあるということだ。
本書で紹介されていた「死ぬときに後悔すること25」(大津秀一)という本は、読んでみたいなと思った。