あらすじ
シリコンバレーで起業した30代後半、日系3世の女性レイ。
80年代アメリカの小学校時代に周囲から受けた壮絶ないじめの後遺症を今も抱えながら、黒人の同僚とコンビで自社製品のプレゼンに駆り出される日々を送る。
精神安定剤を手放せないレイは、大仕事を前に休暇を命じられ、旅に出る。
日系1世の祖父母が戦中に入れられたマンザナー強制収容所、レイの母がひとり暮らすリトル・トーキョー。自らのルーツを歩いたレイは、目を背けていた本心・苦しみの源泉を知った。
複雑な形で差別の問題が日常にある3世の苦しみ、母親との関係。
日本とは、日本人とは、私とは何か――。
VRや音楽のミキシングアプリを対比させ、問題を鮮やかに巧みに
浮かび上がらせる。「マイノリティとしての私たちのこと」を問いかけた傑作。
第30回三島賞受賞。芥川賞候補。
「一読者として非常に感銘を受けた」平野啓一郎(選考委員)
様々な人種が暮らし、薬物の誘惑も幼児虐待も当たり前に転がるニューヨークで、女子プロレスラーとして働く姉の稼ぎで小学校時代を送った。やがて当たり前のように、一つの悲劇が起こる――日本人青年が、かつての生活を振り返る「半地下」も収録。
解説・鴻巣友季子
※この電子書籍は2017年1月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
「カブールの園」4…幼少期における母親との共依存と学校でのいじめをVR治療する女性ITエンジニアの話。リミックスのクラウドサービスの詳細さはさすがプログラマー。
「半地下」4…ニューヨークで父に失踪された姉弟の奮闘。処女作に手を入れたものらしい。
宮内作品はその美しくクールな文体が好き。
Posted by ブクログ
デビュー作から、順番に読んできて、作者は一作ごとにいろいろ実験しているのでは、と勝手に解釈している。ああ、今回はこう来たのか、と言うのが第一印象。私小説では無いにしろ、自分の経験、心の奥の何かを主題に書いたのかな(文学って全部そうだろ!)。結果、いい作品じゃん。微妙な優しさ?が漂っている気がします。これからも、天才の秀作?には最後まで(先に寿命が尽きるっつうの!)お付き合いしたいと思います。宮内さん、頑張って書いて下さい。よろしくお願いします!
Posted by ブクログ
表題作はアメリカのソフトウェア会社で働く日系三世の女性・レイを主人公に据えた物語です。会社から強制休暇を命じられたレイは、かつて祖父母が収容されていた日系人収容所を訪れ、アメリカ人になりきろうとした母と、日本人であることを捨てなかった祖母との間をかつて取り持ってくれたミヤケ氏の名前を見つけます。ミヤケ氏の息子に会いに行ったレイは、祖母と没交渉状態だった母が、レイの学費のために祖母に頭を下げにいったことを知り・・・
レイの会社が製作した「トラック・クラウド」が象徴的ですが、様々な壁、例えば世代であったり人種であったり言葉であったり親子関係であったりを、いかにして乗り越えるかいうところが本作のテーマであると解釈しました。大変読みごたえのある良作ですが、過去のいじめのトラウマをずっと引きずっているっていう設定が安易に思えたのと、主人公にあまり切実さが感じられなかったところは弱いかなとも思えたので、星は4つとさせてください。
同時収録されている「半地下」もアメリカを舞台にした日本人姉弟の物語です。父親が失踪し、食べていくためにプロレスラーとなった姉は、移民孤児の凶悪なキャラクターという、いわば「自分を偽った」形で生き残ろうとしますが・・・
設定自体もそうですが、自らのアイデンティティのありか、言葉の壁といったテーマについても表題作と相通じるところがあり、こちらも面白く読めました。ラストがやや中途半端に感じられたのは純文学フォーマットだからなのかなあ。
Posted by ブクログ
マイノリティの辛さが伝わってきました
日本というほぼ単一民族国家に住んでいては中々考えることがないテーマかと思います
読みやすいし、テーマもはっきりしていてよいです