【感想・ネタバレ】ライオン・ブルーのレビュー

あらすじ

関西某県の田舎町、獅子追町の交番に勤務する制服警官・長原が拳銃を持ったまま姿を消した。県警本部が捜査に乗り出すも、長原の行方は見つからない。同期の耀司は獅子追への異動を志願、真相を探ろうとする。やがて町のゴミ屋敷から出火し、家主の毛利が遺体で見つかった。事件性なしとされるが、数週間後、警ら中に発砲音を耳にした耀司はヤクザの金居の銃殺死体を目にする。さらに現場に落ちていた凶器が、長原の持ち去った拳銃だと判明し――。
怒濤の展開が待ち受ける、乱歩賞作家渾身の警察ミステリ。スピンオフ短編「蛇の作法」を特別収録。

――第31回山本周五郎賞最終候補作

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Posted by ブクログ

ネタバレ

・あらすじ
澤登耀司は同期の現職警察官失踪事件の真相を探るため獅子追交番に赴任してきた。
過疎化した田舎町はある権力者一族に牛耳られており、同期失踪の真相を探る中で耀司は街を二分する開発計画に巻き込まれていく。
そして、失踪した同期の拳銃で開発反対派のヤクザが射殺されるという事件が起きる。

・感想
ううう…呉先生の作品ってどれもおもしろくってすごい。
読んでる時ずっとヒリヒリしてた。

爆弾は常識や倫理という線の上をたまに踏み外しながらも踏ん張りつつ「己の正義」を生きる刑事たちがいたけど、今作の耀司君は「己の役割」を果たすためだけにこれからも生きていくんだろう。
毒を食らわば皿まで。しがらみや保身を捨て、外側へ一歩踏み込んで獣の道を歩むことにした耀司と彼が己に向ける銃口を必要とする晃光の関係も良い!
こういうのすごく好きーーー。

晃光は裏主人公なんだろうな。
自分勝手で利己的な復讐心と執念を持つ晃光と守りたいもの、守らなければならないもののために晃光と手を組んだ長原。
どっちも自分の中できちんと譲れない芯があった二人。
でも耀司は人殺しでさえ「長原がそうしたかったから」という理由だけで実行できてしまう空虚な人間。
過去や家族から逃げて自分の立つべき場所を失ってた耀司だからこそ長原や晃光に惹かれたんだろうなとも思う。

故郷に対する複雑な気持ち、捨てきれない執着とか少し気持ちがわかるわーー。
耀司のこれからは明るくはないだろうけど、ただ一つずっとすれ違ってたお兄ちゃんと和解出来そうな終わりだったのは一つの救いかもしれない。
お兄ちゃんも辛い…ずっと今まで一人で背負ってきてたんだもん。

呉先生の作品はこれで5作読んだけど、どれも面白過ぎる!!!
どの作品も勧善懲悪でなく清濁併せ持つ強さをもつ人間臭さが魅力。

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2025年09月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

パイセン本。

呉勝弘著『ライオン・ブルー』は、地方の片隅に潜む人間の矜持と業を、静謐かつ緊張感に満ちた筆致で炙り出した一作である。過疎化の進む獅子追町を舞台に、交番勤務の警官が小さな出来事をきっかけに町の奥深い闇へと足を踏み入れていく物語は、単なる警察小説の枠を超え、人と土地が抱える宿命を克明に描き出している。地方社会に息づく利権や沈黙、過去の罪が積み重なって生まれる濁流のような空気は、読む者の心を静かに圧し、正義と責任の意味を問い直させる。
とりわけ、主人公・澤登耀司の苦悩は、誰もが持つ過去への後悔や、守るべきものへの覚悟を映し出す鏡であり、決して派手ではない行動の一つひとつが深い余韻を残す。結末に至るまでに織り込まれた人間関係のひずみと、町そのものが持つ生々しい存在感が、物語を単なる謎解き以上の重層的な体験へと昇華させている。
読み終えたとき、救いよりも重みが胸に残る。しかしその重みこそが、人間の誠実さや希望の輪郭を浮かび上がらせる――そんな深い読後感をもたらす、現代社会への鋭い問いかけを秘めた傑作である。

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2025年09月14日

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