あらすじ
衝撃の作家デビューから国会議員、そして都知事へ。昭和から平成にかけて、その男は常に「戦後」の中心に居続けた。彼はいかにして大衆を味方につけたのか?一人の戦後派保守の歩みから、戦後日本社会の光と闇を映し出す画期的論考。
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Posted by ブクログ
日本語表現・分かりやすさ3/3。内容の価値3/3。
「幾度もの挫折の末に、彼がたどり着いたのはナショナリズム」(p,113)は、少し違うと思う。たどり着いたのは政治家という仕事であり、それをやっていくための芸風がナショナリズムである。
参院選に初めて出て当選したのが68年。その2年前に肝炎で入院しているが、絶対安静でありながらベッドに身を起こして原稿を書いていたという。何故かといえば、そうでもしないと食えない、そういう仕事をしているから。この時彼は34歳ぐらいのはずで、経済的な意味での将来への不安は大きかったであろう。人間30代で仕込みを終わらせておかなければ、40代50代で楽に大きく稼ぐことはできない。芥川賞なぞ取ってもしばらくすればすっかり忘れ去られる人は少なくないわけで、そんな例も身近にたくさん見ていたであろう。
就職をしていないから、今さらサラリーマンにはなれない。ビジネスを起こす才覚も度胸も経験もない。が、知名度はある(事実、初当選時、史上最高得票数を獲得している)。彼にすればごく自然な転職であったろう。つまりこれは「文学から政治への転向」などというものではなく「小説家から政治家への転職」。ただそう見えてしまっては「政治家」の方の稼業がなりたたないから、文才を生かして、それらしいことを言ってるだけ。
彼のチック、自己愛性人格障害についてまで踏み込めればもっと面白い文になったと思うが、本書の趣旨(NHK出版の「シリーズ・戦後思想のエッセンス」)の紙数ではそれは無理だったでしょう。