【感想・ネタバレ】大英自然史博物館 珍鳥標本盗難事件―なぜ美しい羽は狙われたのかのレビュー

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ネタバレ

凄かった。
標本を盗んだ理由が毛針というのにそんなことに!?となったけど標本を手に入れるまでの命がけのの経緯、ファッションのために採集や密輸によって絶滅に追いやられる美しい羽根をもつ鳥達、善と悪、毛針愛好者達の熱狂、自然史博物館の意義、これは現実にあったことで他のあらゆる価値のあるものに言えることだ
とても濃厚なドキュメンタリーだった。

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2023年02月02日

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事実は小説より奇なり!

精緻な取材に驚嘆。

この本のポイントは素朴かつ大胆な事件の事実を明らかにしたのみならず、博物館の意義・使命を知るきっかけを投げかけていること。

また、思いがけず精神鑑定についてもじっくり考えるきっかけに。

読み始めたら本当に止めどきがなかった。


3刷
2021.5.5

2021.6.12 微修正

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2021年06月12日

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博物館から鮮やな羽をもつ鳥の標本が盗まれるという、2009年に実際に起きた事件のルポ。すごく面白かった。
第1部は事件の背景である、美しい鳥の羽にまつわる歴史。第2部は事件の経緯と犯人の逮捕。第3部では著者が残された事件の謎を追う。
博物館が標本を保存する科学的な意義、美しいものを欲しがる人間の欲望、欲望を正当化しようとする心理、裁判の公平性、インターネットで出所の怪しいものを売買するマニアたちなど、色々なテーマが盛り込まれていて飽きない。特に中盤あたりからは引き込まれて一気に読んだ。

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2021年04月02日

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大英自然史博物館から珍しい鳥標本(剥製)が300点が盗まれた。後日犯人が逮捕され、それは若いフルートプレイヤーを目指す学生だった。

ノンフィクションだけど、映画みたいな話の展開で、読んでいるうちにドンドンと引き込まれていく。毛針制作マニア、標本の価値、進化論、ワシントン条約、密猟、美しい鳥の羽、毛皮のコート、乱獲、などなど気になるキーワードがてんこ盛りです。

著者自身のキャラクターもたっているので
かなり読み易かった。おススメです。

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2021年02月07日

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ネタバレ

19世紀。ダーウィンの影に隠れた優れた生物学者がいた。アルフレッド・ラッセル・ウォレス。彼はアジアなどで鳥類や昆虫標本を採集し、生物の進化に地理的なデータが必須であることにいち早く気がつく。
21世紀。イギリスのトリングにある自然史博物館で、貴重な鳥類の仮剥製のみが盗難にあうという奇妙な事件が起こる。いったい、誰がなんのために?
そして盗難事件の数年前、一人の少年がトラウトを釣り上げるための毛鉤作りに夢中なっていた。
一見無関係のこの3つの事象がからみあい、19世紀の東南アジアから21世紀のイーベイという時間も空間も飛び越えて真相にたどり着く。
ノンフィクションサスペンス!なんて言葉があるかは知らないが、息もつかせぬ展開とに一気に読み切ってしまった。
こんな世界があるのですね!

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2020年06月16日

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基本フォーマットは、タイトル通り、珍鳥の標本が大英自然史博物館から大量に盗まれるという事件の犯罪ルポ。でも、この事件、蓋を開けたら予想以上にいろいろな問題のてんこ盛り。
珍鳥の羽毛をめぐる歴史的・文化的背景から始まって、その羽毛を使って作られる毛針のマニアックな世界、毛針愛好家たちによるエゴと不法取引、絶滅危惧種保護の問題、そして博物館の存在意義まで。どれを取っても重量感があって、それだけで本が一冊書けてしまいそうな問題ばかり。これらが300ページ余りの単行本の中で次から次へと立ち現れるのだから、息つくヒマがない。
しかも、この疾走感あふれるルポを書いた著者は、これまでに犯罪調査の経験もルポライティングの経験もゼロ、鳥の生物学や博物館学についても素人だというのだから、驚愕もの。最初はちょっとした好奇心から始まった調査が、徐々に正義感に燃えるようになり、警察と裁判所が見切った事件を切り崩すに至る。著者の熱量がどんどん上がっていく様は、前述した問題のてんこ盛りと並ぶ、本書の読みどころだ。

ところで、本書の発行者は京都に本社がある科学同人社。全く知らない出版社だったのだけれど、本書に挟んであったチラシを見ると、なかなか面白そうなラインアップを揃えている。今後、要watch。

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2020年05月08日

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【長期的な英知と短期的な私欲がぶつかる戦争で、勝ってきたのはいつも後者のようだった】(文中より引用)

大英自然史博物館で何者かが鳥の標本を大量に盗難する事件が発生する。盗まれた標本の歴史を紐解きながら犯行の目的を明かしつつ、人間と自然・環境の関わり方について鋭く迫った一冊です。著者は、本事件に関する調査が自身の心理的な救いにもなったと語るカーク・ウォレス・ジョンソン。訳者は、『アートで見る医学の歴史』などの翻訳を手掛けた矢野真千子。

読書の愉悦ここにありといった感のある作品。ミステリーとしても超一級なのですが、そこからするすると導き出される鳥や人間をめぐる物語に震えを覚えました。楽観的とも悲観的とも言えない苦い落とし所がまたお見事。今年のトップテンに間違いなく入ってきそうな勢いです。

評価の高さも宜なるかな☆5つ

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2020年03月27日

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実際に起こった標本盗難事件を追ったルポルタージュ。
単に事件を追いかけるだけでなく、なぜそもそも大量の標本が博物館に所蔵され続けているかについても詳述している点が好感が持てた。

生物地理学のきっかけを作ったアルフレッド・ラッセル・ウォレスがメタデータをつけることの重要性を説いた時から、標本の科学的価値はそれに付与されたタグの情報と切っては切れないものだった。逆にいうと、タグが外された瞬間に標本は未来まで続くはずだった価値を失う。
そのような人類の知への貢献という価値観とは別に、ビクトリア時代という世界中の資源を搾取した時代に考案された毛針を希少鳥類の羽で作りたいという価値観が存在する。そのような価値観を持つ愛好家にとって、標本の盗難や破壊は魅力的な行動なのだ。

ネットサーフィンを駆使して真実に迫るスリリングさもあり、とても面白い作品だった。

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2020年03月22日

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大英自然史博物館のトリング別館で、非常に貴重な鳥の標本が大量に盗まれた。警察が解決出来なかった事件をアメリカのジャーナリストが解く。

物凄く面白かった。ドキュメント+ミステリー。(以下若干ネタバレ)犯人は留学中のアメリカの音大生で、フライフィッシングの毛針製作で有名。盗んだ羽や鳥を高値で売っていた。しばらく事件は発覚しなかったが、ある偶然から発覚し、逮捕され裁判にかけられる。しかし執行猶予がついてしまう。(なぜかまではネタバレしない)

という所までが本の半分。以降は著者が犯人にアプローチし、盗まれた鳥の行方を追う。インターネット時代らしい捜索が新しいドキュメントだなと感じさせる。

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2020年01月20日

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面白かった
長期的な利益(標本を後世へ受け継ぐ)と短期的な利益(死蔵された美しい羽根を集める)の問題は考えさせられる
蒐集家の気持ちは分かるが、ロクに反省していない連中ばかりなので腹立つ。最後に改心した人が出たのは救いか。

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2020年01月03日

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★相容れないタコつぼの趣味の世界★鳥の標本が博物館から大量に盗まれる。一般の人には使途の想像がつかないが、観賞用の毛ばりづくりには美しい羽根がたいへんな価値を持つ。自然科学の重要性をまったく理解しない趣味の人々はは、博物館に放置されていることこそ問題だとさえとらえる。相容れない世界観を持つ人々を追いかけた。
 糸口は世間ではさほど話題にならなかった窃盗事件。そこから、鳥の標本集めを通じてイギリスの植民地の歴史をたどり、鳥の羽を生かしたファッションの盛衰といった歴史をふまる。盗難事件に舞い戻り、毛ばりづくりの関係者に嫌われながらも追いかける。時間軸の深みと現実のビビッドさを縦横無尽にからめた語り口が素晴らしい。
 ある分野に異常な熱量を持ったいわいるオタクにはある意味、常識が通じない。窃盗事件の犯人である学生をアスペルガー(それも曖昧な判定)という理由で執行猶予にしか問わなかった裁判所の常識もまた、世間には通じないものかもしれない。常識の在り方にもいくつも疑問を投げかける。

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2019年12月15日

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音楽院のフルート奏者による鳥の標本盗難事件のノンフィクション。

1850年ごろアルフレッド・ラッセル・ウォレスは、何年もかけて命がけでマレー諸島でさまざまな生物を採取し、標本を作成した。そしてそれらはその都度英国に送られ大英博物館に買われた。
ダーウィンら科学者たちは、自然選択による進化論を確立しようとしていた。

19世紀末には珍しい鳥の羽を帽子に飾るファッションが流行し、羽毛産業が栄え大量の鳥が殺されていった。

今も毛針にとらわれた人たちは、違法だとうすうす感じながらも珍しく美しい羽を手に入れようとする。

博物館は、自然標本を収集・保存して未来につなぎ、新たな知見が得られると主張する。

標本の由来や博物館の成り立ち、毛針の歴史など分かりやすく丁寧に書かれていて、引き込まれるように読んだ。いろんな立場があるけれど、どの時代も人間の欲って深いなぁと思った。
写真で紹介されている盗難が起きたトリング博物館の外観の美しさや鳥類の仮剥製のリアルさにびっくりした。

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2019年09月16日

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鳥類標本の窃盗事件をテーマにした、長大ながらも引き込まれて読み込まされてしまうノンフィクション。読み心地はミステリに近く、社会問題にも切り込みながら、ひとつひとつ誠実に事件を追う作者の丁寧な筆致のおかげでとても読みやすかった。

誰がやったのかは明白ながら、犯人はあっけなく釈放されていた事件。この事件に興味を抱き、「なぜ簡単に釈放されたのか」「動機はなんだったのか」「なぜ簡単に盗まれてしまったのか」等々の放置されたままだった細かな事象にひとつひとつ取り組み、その追及の過程で知っていく、毛針愛好家たちの自己勝手な事情や博物館の保管事情、ワシントン保護条約を無視して取引できているイーベイなどいった諸問題の複雑さ、深さが真に迫って描かれていて、唸らされるばかりだった。

興味深い事件だった、と片付けるには、口絵写真にあった鳥たちの姿は無残に過ぎるし、あれで解決になった事件への歯がゆさは残る。ただ、鳥の標本に限らず博物館の「昔のもの」は、教育的な意味、科学的な期待などを込めて、いまではなく未来へと繋いでいくための財産であるのは確かなので、個人の欲で破壊されてしまうのはやはり、憤りを感じずにはいられなかった。最後の本文に無力感が漂ったものの、どうにかならないものかと、空を仰がずにいられなかった。

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2024年05月06日

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インコを飼っているので、鳥の羽の美しさはとてもわかる。ただ、私は自然に落ちてきた羽を集めるだけで、わざわざむしり取ろうとは思えない。標本化されたものだとしても、むしれない。
そこが鳥を飼って愛したことがある人と、鳥の羽のみを愛する人の大きな違いなんだろなぁと思いながら読み進めた。
鳥の羽に限らず、魅入られすぎた人は善悪など考えずただ自分のためになにが最善かという考えに囚われて、知らず知らずに罪を犯すのかなと思った。
難しいけど、当事者になっているうちはわからないものなんだろうな…。

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2022年07月13日

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鳥標本の盗難という実際に起きた事件を巡るノンフィクション本。
実話だけあってスッキリしない部分もあるけど、人類と鳥の歴史や、現代にも続いている人間の醜い欲望など、地味な事件が複数の角度から切り込まれていて読み応え抜群。
タイトルの堅さが逆にワクワクするし、表紙もお洒落。期待通り面白かった。

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2022年06月02日

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毛針製作用の鳥を博物館から盗んだという凶悪犯罪には見えない事件の真相を追求するルポ。追究を進めるほどに事件の闇が深まっていく様は、人間の業や欲の深さを象徴しているといえる。絶滅危惧種の鳥類を嗜好目的で無闇に捕獲することの是非のみならず、博物館が標本を保管する意義についても言われて初めて知る部分が多い。本書に登場する毛針愛好家達を悪者として捉えてしまいがちだが、読者である我々の消費行動にも彼らと重なる部分がある。

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2020年08月25日

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ネタバレ

ある日、大英自然史博物館から珍鳥の標本が盗まれた。
その事件を知った著者が、真相を解明していくルポ。
盗まれた珍鳥は、毛針愛好家によってその材料として使ったり、売ったりされた。

まず、毛針というものの存在すら知らなかった。
毛針とは、釣りをするのに魚をおびき寄せるための疑似餌である。
それを本物の鳥の羽で作ったりするのである。
そして、どうやら毛針愛好家の多くは、実際に釣りをするために毛針を作るのではなく、一種の愛好品としてそれらをコレクションしたりしている。
本書に掲載されている実物の写真を見たが、確かにその姿は美しい。
けれども、本来の目的を逸し、そのために歴史的価値のある標本を299点も盗んだ犯人は相当にクレージーだ。
最終的に、全ての真相の解明がなされたわけではなく、謎が残るが、著者の行った調査は非常に意味のあるものであろう。
マニア達の行き過ぎた欲求には少し恐ろしいものを感じた。
それは、毛針に対する欲求のみならず、自己顕示欲なども含んでいるのだろう。
まだまだ知らない世界があることを改めて感じた。

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2020年06月16日

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タイトルに惹かれたが、ノンフィクションとは買った時には思っていなかった(無知)

ある標本盗難事件(解決済み)の真相、というよりは、解決の際に消えた標本を著者がインターネットを駆使して追っていく話。純粋に読み物として面白い。
ミステリっぽさもあって、和訳も読みやすい。

博物館での標本盗難が意外と多いこと、
盗む側と、その周囲の人間(本作だと領域はだいぶニッチではあるが)と、博物館や関係者、そして自然科学が好きな人たちとの認識の齟齬が未だ多いことに驚きはあった。

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2020年05月11日

Posted by ブクログ

 原題を訳すと。ただの「羽根泥棒」となる。邦題の付けかたは、漢字16文字で推理小説を連想させるもので、購買意欲をそそらせる。もちろん推理小説ではない。学術的に貴重な鳥類の標本が、博物館から盗まれる。その羽根を、フライフィッシングで使う毛針の材料にするためだ。本事件の犯人は本の中盤で逮捕される。その後の展開が非常に面白いのだ。結局、何も解決しないのだが、人間の持つ心の闇、偏執狂、強欲といったものが、筆者によってさらさせる。
 科学系の出版社からの発行であるが、よくこの本を出版してくれたものだ。感謝。

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2019年11月18日

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死んだ鳥を大量に盗む?いったいぜんたい、だれがそんなことを?大英自然史博物館から忽然と姿を消した鳥標本。
色鮮やかな羽を持つ鳥はなぜ盗まれたのか

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2022年04月19日

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確かにねぇ…
こんなコミュニティがあることは、ほとんどの人が知らないだろうし。
警鐘を鳴らす、という点では価値のある1冊。
でも、最後がすごく消化不良に終わっていて…
正義は勝たないんですね、まあそれがノンフィクションか。

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2022年01月13日

Posted by ブクログ

【感想】
凄い。「博物館から鳥が盗まれた」という地味な題材だけで、ここまで面白いミステリーが描けるとは。

17歳でロンドンの王立音楽院にフルート奏者として入学した、音楽のトップエリート。その彼が魅せられた「毛針製作」というコミュニティはまさに見栄と欲望の界隈であり、罪を犯してまで高価な羽を盗む事態に発展した。

本書が素晴らしい本なのは、こうした一界隈の闇の部分を取り上げつつ、木が枝を張るように話題を各方面に伸ばしていることだ。人々が何故動物の乱獲に熱狂したか、博物館が何故同じ動物の標本を何点も所蔵しているかまで風呂敷を広げながら、各要素を絶妙につなぎ合わせて一本のミステリーを作り上げている。

筆者「しかし、調べれば調べるほど謎は深まり、何としてもその謎を解きたいという私の思いも強まった。私はいつの間にか自らの正義感に導かれるように、羽をめぐる地下世界、毛針作りに熱中するマニアや羽の密売人、頭のいかれた連中や大型動物を狙う狩猟家、元刑事や怪しげな歯医者など、魑魅魍魎が跋扈する世界に入っていった。そこには嘘と脅しがあり、噂と真実が入り交じっていた。(略)その過程で、私は人間の自然界に対する傲慢さのようなものを知った。どれほどの犠牲を払ってでも手に入れたいとする、美への飽くなき欲望についても」

驚くべきは、筆者がこの事件に何も関係していないばかりか、毛針製作を全く知らないただの門外漢だったことだろう。未知の界隈に身一つで潜入し、毛針製作者たちから脅しを受けながらも「正義感に導かれる」まま事件を追っていった行動力は脱帽せざるを得ない。

筆者の行動力とストーリーテリング能力にぐいぐい引き込まれ、あっという間に一冊を読み終えてしまった。是非オススメしたい。

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【まとめ】
1 フライフィッシングと動物たちの乱獲の歴史
剥製や標本の収蔵、モダンファッションの製作のために狩られ、絶滅に追い込まれていく動物たち。進化論ではなく創造論が信じられていた時代においては、動物は人間の興味と欲望を充足するためだけに狩られる存在だった。もちろん、鳥類もその対象だった。

19世紀半ば、新世界において鳥類が乱獲された理由の一つに、フライフィッシングのための毛針作りがあった。
釣りの目標であるサーモンからしてみれば、水中から見えるのは毛色の違いだけであり、質の違いによって釣果に差が出ることはない。しかし、ジョージ・ケルソンを始めとした毛針業界の第一人者たちは、毛針の芸術性を強調した。見かけの美しさと材料の希少性を重視し、毛針は華美さを競い合う路線に入る。一個の毛針を作るために異国の珍しい鳥の羽をふんだんに使い、なかには150種類以上の材料を使うこともあった。釣り人たちは「毛針作りとは単に適当な羽をフックに結べばいいものではなく、もっと深遠ななにかがあるはずだ」と考えるようになっていく。

21世紀になっても毛針に芸術性を求めるコミュニティは健在である。しかし、新世代の毛針愛好家は、ワシントン条約が存在せず、動物保護の意識が薄かった旧世代と比べて不利な立場にあった。
新世代の愛好家も過去と同様の芸術性にこだわったが、実際に制作するには法の壁が立ちはだかる。そこに登場したのがインターネットだ。インターネットは、希少な羽の流通を一時的に増やした。イーベイには、祖母の屋根裏部屋から探し出したヴィクトリア時代の羽帽子が出品された。一九世紀の飾り棚を取引するオンライシオークションサイトでは、自然界の名品珍品が詰まった飾り棚が売りに出され、そこに異国の鳥が含まれていることもあった。


2 希望の星
13歳のエドウィン・リストもヴィクトリア様式の毛針に魅了された人間の一人である。
10歳のときに毛針作りに出会ったエドウィンは、めきめきと製作の腕をあげ、毛針界の希望の星と言われるまでに頭角を表していた。
彼も旧来のサーモンフライ作りを心から愛していたが、どれだけ鍛錬を積もうとも、「本物の」羽をもっていないという事実によって、心が満たされることがなかった。どれだけ練習をくり返し、ヴィクトリアン・フライを作るのに必要な腕を磨いても、所詮は代用品を使って作ったまがいものである。彼は自分の作品に決して満足できなかった。
数枚の羽を買うために何時間も骨の折れる薪割り作業をし、掘り出し物がないかと売却家屋や骨薫品店に無駄足を運び、脱皮した羽を分けてもらおうと動物園に電話し、希少な羽がイーベイで金持ちに買われていくのを横目に見ながら安価な代用品で毛針を作っていく。毛針作りは常に資金との闘いであり、当時学生だったエドウィンには手が出せる限界があった。

エドウィン「毛針作りはただの趣味ではなく、寝ても覚めても頭から離れない一種の病気です…羽の構造を調べ、毛針の設計をし、自分がこうしたいと思うものを正確に表現するために新しい技法を絶えず探しています」

2008年11月5日、エドウィンはトリングにある博物館のバックヤードを訪問し、鳥類の完全な標本の数々を目の当たりにする。何十万点もの鳥の仮剥製の数々は、価値にして数千万ドルはくだらない。この鳥たちが市場に出れば、いったい毛針界にどれほどの革命が起こるのか。そしてこの鳥をもし自分のものにできたら、金のことは一切気にする必要がなくなる。ヴィクトリア様式の毛針を一生分作り、毛針界の歴史に名を残すことができる。

希少な鳥を手に入れたいという欲求は、日に日に彼の中で強まっていく。
そしてトリングを初訪問した日から7ヶ月後の2009年6月11日、彼はついに博物館への侵入を実行したのだ。

彼は16の鳥類種とその亜種に及ぶ299点の仮剥製を盗み出した。
エドウィンはその後1年近くにわたって、イーベイで鳥の仮剥製と羽を売りさばきまくる。しかし、狭い業界で大胆に活動したため、当然足跡は大量につく。博物館に侵入してから507日後、警察に逮捕された。

量刑は12ヶ月の執行猶予だった。医師による「アスペルガー症候群」の診断が情状酌量の余地ありとみなされ、牢屋に送られることは免れたのだった。

盗まれたのは299点。完全な状態で戻ってきた、バラバラになって売られていたが追跡できたなど、ありかが確認できたものはそのうち193点である。
さて、残りの106点はどこに消えたのか?


3 共犯者
この犯罪には共犯者がいたと考えられている。盗んだ鳥の売買を委託されていたゴクーというアカウント。ノルウェーに在住しているロン・グエンというエドウィンの友人だった。

筆者は黒幕のエドウィンにインタビューを敢行する。

エドウィン「私は私のことを泥棒だと思っていません。私がイメージする泥棒というのは、だれかが通るのを道で待ち伏せしてポケットから財布を抜き取り、翌日また別の人からスリを働くような人です。(略)私としては、自分が泥棒だとは思いません……私は泥棒ではありません。たとえて言うなら、誰かが私のところに財布を置いていったんです。私は盗るつもりはなかったけど、たまたまだれの財布を見つけた。もし、中に身分証明書が入っていたら、それなりのところに届け出て、あとでお返しするでしょう」

8時間近くにわたるインタビューを行うも、残りの盗品を保管し続けているという決定的な証拠は得られなかった。

続いて、共犯と考えられていたロンの元を訪れ、話を伺った。

エドウィンは、何も知らないロンを犯罪に引きこんだ。博物館が強盗に気づいてイギリスの警察が捜査を始めたことを知りながら、ロンを盗品販売の代理人に仕立て、売上代金を転送するよう頼んだ。私がデュッセルドルフでエドウィンにインタビューしたときは、正式に捜査の手から逃れて何年も経っていたが、そのときでさえエドウィンは、ロンが自分のことをまだ友人だと思ってくれていることにあぐらをかいていた。

ロンは筆者に、「単純に友人を信じた」と語っている。学生があれほど高価なものを持っていることに疑問を抱かなかった、と。そしてロンはいま、毛針制作より肉食のほうが環境にダメージを与えているのではないかと言っている。毛針マニアたちは、トリングの羽や皮が売られているのではないかと疑ったとしても、すぐにそれを打ち消す。博物館はまともに管理をしていないのだから、盗まれたと言いつつ実は何もなくなっていないのだと考えて、良心の安寧を得ている。自らすすんで犯行を認め、自分のしたことを反省する人間はいないのか?筆者は誰かにそれをしてもらいたいと望んでいた。

ロンが犯罪の片棒を担いだのは間違いないが、彼は同時に、あわれな被害者でもあったのだ。

ロンは葛藤していた。自分は間接的ながら罪を犯したという反省の気持ちと、コミュニティから不当に非難をされるほどのことはしていないという開き直りの気持ち。
だが、ついにその日が来た。筆者に真実を打ち明け始めた。エドウィンの代理で20点の仮剥製を売ったことを認めたのであった。


4 毛針界の闇
国際毛針制作シンポジウムでは、さまざまな毛針を展示しながら、鳥の皮や羽が公然と売買されている。その鳥は明らかに不正取引されているものである。また、インターネットのイーベイでは、南国の珍しい鳥たち――ワシントン条約で売買が禁止されている種でさえも――が高値を付けられている。エドウィンだけでなく、毛針界全体が違法取引の闇の中にある。

死んだ生き物の標本を保存することは、時代を越えて人間性を信頼することなのだ。代々のキュレターたちはこのコレクションが人類全体の知識向上に不可欠であるという信念のもと、害虫、日光、ドイツ軍の爆撃、火事、盗難などから連綿と守ってきた。そして彼らは、現段階ではまだ浮上すらしていない疑問についても、この鳥たちが未来のどこかで答えてくれると知っている。

博物館のキュレターらが標本窃盗の話を共有するようになり、その発生件数が予想外に多いことがわかってくると、筆者はトリングの鳥についてのストーリーに横たわる、二種類の人間性を思わずにいられなかった。
一方には標本を守ろうとしたキュレターたち、そして標本を使ってこの世の謎をひとつまたひとつ解き明かそうとしている科学者たちがいる。こうした人たちは、自然史標本を守り抜くという信念のもと、100年単位の時代を超えてつながっている。まだ見ぬ未来の人ともつながっている。科学の進歩により、同じ古い標本でもそこから新たな知見を得られると信じているからだ。
もう一方には、エドウィンのような人や、羽の不法取引の闇世界にかかわる人たちがいる。それだけではなく、富と地位を求めて自然界を搾取しまくり、他者が所有していないものを所有したいという欲にかられる男女は昔もいまも変わらずいる。
長期的な英知と短期的な私欲がぶつかる戦争で、勝ってきたのはいつも後者のようだった。

トリングから盗まれた仮剥製の残りは、いまだ見つかっていない。

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2021年12月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ノンフィクションだけど、フィクションみたいな話。
タイトル通りの事件だけど、冒頭でその鳥の羽の標本をウォレスなどの学者が命がけで収集してきた事が描写されているので、それが簡単に私利私欲の為になきものにされてしまうのがあまりにも切ない。
毛針というものに魅了されてしまう気持ちも分からなくもないけれど、それでもあまりにも身勝手な行動、そして全くの反省のなさになんだか気持ち悪さを覚えた。
結局真実が解明されたとしても、羽は戻ってこない訳で、モヤモヤは残る。最後に一人の青年が改心する所だけが唯一の救いかな。

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2020年09月06日

Posted by ブクログ

大英自然史博物館から貴重な鳥の剥製が盗まれた実話を追ったノンフィクション。
盗み自体は、なんて事はない内容だが、共犯者の存在、盗まれた剥製の追跡など、面白い。
特異な毛針コミュニティの存在も初めて知った。

ただし、真相究明という点では若干消化不良の感あり。

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2020年02月24日

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