あらすじ
西欧諸国の法律にならって作られた明治の法体系と、現実の国民生活とのあいだには、大きなずれがあった。このずれが今日までに、いかに変化し、あるいは消滅しつつあるのか。これらの問題を、法に関連して国民の多くがどのような「意識」をもって社会生活を営んできたかという観点から、興味深い実例をあげて追求する。
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Posted by ブクログ
行政法の教授に勧められて読んでみた本。
我が国の制定法が想定する社会規範と日本人特有の法意識からくる社会規範のズレを深い考察をもとに端的に指摘している。
「一般の人向けに書かれているため、堅苦しすぎず読みやすい」という評価が多かったのに、読み始めはすっごい読みづらかった。途中からリズムをつかんだのかスラスラ読めるようになったから、ただ単に自分が堅苦しい本を読みなれていないだけかもしれないけれど。
法律の役割は主なものとして、トラブル時における解決の基準と、トラブルを防ぐための人々の行動規範がある。本書は後者に焦点を当て、日本人特有の法意識から必ずしもそのような機能が十分に果たしているとはいえない現状を指摘する。例えば、自分の権利を主張するために裁判に持ちこもうとするなら「融通のきかないやつ」として白い目で見られることはあると思う。この本が書かれて50年は経つが、未だに当てはまる部分が多いことに驚かされた。
また、日本人にはもともと「権利」意識が無いという指摘にはまさに目から鱗だった。法学を学ぶ者はとにかく法の想定する社会規範のみを意識しがちだが、実際の法の捉えられ方を再認識するのに本書はとても意義あるものだと思う。
Posted by ブクログ
これはもうめちゃくちゃ面白いので、法律好きの方や日本人論の好きな方にはぜひ読んでもらいたい一冊です。
法意識、などというととても大げさなようですが、実際に書かれているのは、もう笑っちゃうくらいの「日本人の実態」です。特に面白いのは所有権に関する話で、日本人にとって所有権なんてものはあってなきがごとし、他人のものをチョイと平気で使うことになんの咎めもない、そういう民族だということに改めて気付きます。
そしてそんな「日本人らしさ」が、実は根底では西欧近代の法感覚とは根本で相容れないものであるということを、見事に示している。そういう本です。
Posted by ブクログ
法律や訴訟は,1967年と比べれば身近になっただろうな。
同時に,法ないし権利の意識も,進んできたんだろう。
しかし,憲法についての意識は,発刊当時とそんなに変わらないのではないか。
58頁の中曽根康弘発言と同じようなことを言っている人は今でもいるよね。
時節柄,少し気に留まった。
以下メモ。
・法文の明確性と法律解釈についての意識(39頁)
裁判の予見を目的とする研究よりも、法解釈に熱中する法律学。
・落とし物が返ってくるのは、日本においても,当然ではなかった(73頁)
・トラックと過失相殺の裁判例批判(144頁)は、何か違う気がするなぁと。
Posted by ブクログ
日本人の法律や権利、義務の意識について考察した古典的名著。既に40年以上前の本である。
郷原信郎『思考停止社会』でも触れられていましたが、日本人にとって法律は「伝家の宝刀」のようなものだ、という言葉がある。これは法律の非日常性と、フェティシズムの対象と化していることを物語る。
道路交通法、労働基準法が破られるのが日常茶飯事なのは今も昔も変わらず。思えば日本では法律論を持ち出すと、「杓子定規」、「融通が利かない」、「心が冷たい」、とよく言われる。
特に明治憲法下では国家権力が法の拘束の外(臣民の権利は法律の範囲内)にあったので、今から考えてみれば、法律に関する意識は欧米諸国に近づいたと見てよい。この本では消防車が人を引き殺しても、軍の火薬庫が爆発しても、官立大学の教授が手術ミスで患者を死なせても、判事が故意に間違った判決を下しても責任を問われなかった例が紹介されている。
日本人は権利意識も弱いとされる。例えば狭い車道から広い車道に車が入ろうとしている状況について、海外の法律は「通行優先権を持つ車に道を譲れ」="Yeild Right of Way"という権利の側の視点から述べられているのに対し、日本の法律は「狭い道から広い道に入る車は気をつけなければならない」という義務の視点から事例を想定する。
また、昔から「最近の日本人は義務を果たさずに権利ばかり主張する」という意見が根強く残る。権利をあまり主張しなかった(できなかった)からこそ年功序列、終身雇用を前提とした日本的経営=家父長的(家族的)労働関係が成立し、高度経済成長の原動力が生まれたと言える。 その一方で障碍者や女性の権利が以前よりも幅広く認められるようになったのも、権利を主張し続けてきた歴史があったためである。
日本人は所有権の独占排他性になじみが薄い、という指摘もその通りだと思いました。それは自己の管理下の他人物を私有物と混同しがちということ。例えば他人の貸借物をそのまま自分のものにしてしまうことが挙げられる。
権利内容の不確定・不定量性の指摘も興味深い。はじめから妥協が予定されていて、なし崩しに連続している。だから、役得的背任、横領があっても、当事者に罪の意識がないことがよくある。そのまま有耶無耶にされることも同じ。
概して言えば、日本人は現実に法律を一字一句そのまま適用するよりも、その場の雰囲気や現状に応じて良く言えば臨機応変に、悪く言えば恣意的に曲げて適用しがちということ。それがわかったので読む価値はあったと思う。
Posted by ブクログ
[ 内容 ]
西欧諸国の法律にならって作られた明治の法体系と、現実の国民生活とのあいだには、大きなずれがあった。
このずれが今日までに、いかに変化し、あるいは消滅しつつあるのか。
これらの問題を、法に関連して国民の多くがどのような「意識」をもって社会生活を営んできたかという観点から、興味深い実例をあげて追求する。
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