あらすじ
小生 東京オリンピックのカイサイをボウガイします--
兄の死を契機に、社会の底辺ともいうべき過酷な労働現場を知った東大生・島崎国男。彼にとって、五輪開催に沸く東京は、富と繁栄を独占する諸悪の根源でしかなかった。
爆破テロをほのめかし、国家に挑んだ青年と、国家の名誉と警察の威信をかけて島崎逮捕に死力を尽くす捜査陣。行き詰まる攻防の行き着く先は?
『罪の轍』の落合昌夫が孤独なテロリスト島崎国男に挑む傑作長編。
第43回吉川英治文学賞受賞作。
感情タグBEST3
匿名
大学生がオリンピックを人質にし警察を相手に脅迫事件を起こす物語。
主人公の島崎は異常な犯罪を重なるが、変わり者でどこか憎めない。
ヤクザの組事務所に乗り込んでいく場面はヤクザもたじたじになっていて笑えた。
上下からなる長編だが、続きが気になりあっという間に読み終わった。
交錯するオリンピックの光と影
初めて読む作家さん。昭和39年、オリンピック直前の東京。初めは古いタイプの推理小説かと思って
いたが、全然違っていた。
文章が読みやすく、飽きさせない。また、オリンピック開催の頃の当時の世相がよく書かれており、臨
場感もたっぷり。インターネットも携帯もない、もう50年以上も昔の話なのに、今、すぐそこで事件
が起こっているかのような新鮮さがある。同じ日の出来事を、警察側と犯人側の両方から描いているの
で、それぞれの立場からみた展開が面白かった。
東京に日本中の富が集中し、ハッピーライフを送る人間がいる一方で、疲弊した地方で生きる人々は貧
困にあえぎ、夢も希望もない。オリンピック景気に沸く東京では出稼ぎ労働者たちが奴隷のようにこき
使われ、情け容赦なく切り捨てられていく。時代は変わったが、今でもこの構図は全く同じだと思う。
世の中の不平等に怒り、オリンピックを虚栄の象徴とみなして一人立ち上がった島崎の気持ちはよくわ
かる。その一方で、戦後復興の象徴としてのオリンピックを何としてでも成功させたい捜査陣の熱意、
気概も痛いほど伝わってきた。捜査陣と島崎の追跡劇は、まさにハラハラドキドキの連続だった。