あらすじ
我が国医療のどこが問題なのか? 何を変え、何を維持していくべきか?
日本を代表するアナリストが、長年の患者経験と広範な分析から示す、医療改革の見取り図。
○「医療崩壊」という言葉に象徴されるように、
日本の医療の持続可能性が問題視されてきている。
医療改革については様々な論者が提言を行っている。
しかし、患者、健常者、保険料を一部負担している企業、医療従事者、政府など、
立場や人生経験などの違いによって、望ましい医療像は大きく異なる。
このため、医療制度改革を論じようとしても、なかなかかみ合わない。
○医療改革を論じた書物も多数あるが、
1分析的だが学術的で一般読者には難解、
2特定のテーマに焦点を絞りすぎている、
3医療現場などからのケーススタディ報告、
4政策当事者からみた財源論に焦点を当てたものが多く、
幅広く国民もしくは患者目線で、わかりやすく全体像を鳥瞰した本は意外に少ない。
医療制度とは税制改革論議に似ており、「これが正しい」という正解はない。
本来ならば、どうやって国民的合意を形成するかが重要なのにもかかわらず、
考えるヒントとなる本は限られている。
○著者は、23年間、野村総合研究所並びにみずほ証券で、
ヘルスケア分野(医療介護分野)を担当する証券アナリスト業務に携わってきた。
「日経ヴェリタスアナリストランキング」では、医薬品ヘルスケア分野で2014年から17年まで、
中・小型株分野では16年、17年、18年、
全アナリストを対象としたアナリスト総合ランキングでは15年から17年まで、
それぞれ1位を獲得するなど、日本を代表するアナリストの一人。
○そのような経歴とは裏腹に、著者は異なる疾患で
11回これまで手術経験(先天的疾患、頚椎脱臼骨折、不整脈)をしてきた。
患者の立場からも医療現場を長年観察してきており、
アナリストの視点と患者の視点を融合した独自の「医療観」を持っている。
○本書では、1日本の医療、介護保険制度の特徴と長所、問題の所在、
2制度改革がどのように進められてきているか。その妥当性と課題、
3患者目線、国民目線で見る時に、医療革改革論議に対してどのような視点を持つべきか、
4技術革新などを踏まえた近未来の医療やビジネスの可能性と課題、リスク要因について述べる。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
国民一人ひとりが当事者意識を持って医療の現状と未来について考えることが大切であるということを、数字を提示しながらわかりやすく教えてくれる一冊でした。
ただ、医療に関わっていない一般の方には馴染みのない言葉や数字が羅列されていると感じさせてしまうのではないかと思い、一般の方にも読みやすいのかな?という疑問は残りました。
個人的には、ちょうど日本の医療は持続可能な状態にあるのだろうか?という疑問を抱いていたので、とても腹落ち感のある内容になっていました。
日本の医療においては、少子高齢化や医療の高度化により医療費は増加していく一方で、経済の成長を前提とした財源(約9割が社会保険料と税金)については不安を拭えない状態です。
この状況においては、国民一人ひとりが主体的に医療制度の現状や課題を理解し、当事者意識を持って想像力を働かせることが大切だと感じました(これは筆者からのメッセージでもあります)。
また、『あるべき医療制度』について議論をする際には、それぞれの立場(どのような医療体験をしてきたのか、など)を明確にしてから主張するということも大事なポイントだと思いました。
Posted by ブクログ
医療業界のことはほぼ知らないまま読みましたが、日本の医療制度の特徴や歴史が分かり、へぇと思った本です。証券アナリストの方が書いていることもあってか、定量的なデータが多く用いられ、医療業界内部の規模感も掴めます。
著者も冒頭で記載している通り、医療は一生のうちいつか一度は関わることになる業界であり、政治とも密接に関係するため、有権者であれば一度は読むと良いかと思います。ただ、内容がそれなりに細かいため、休日にがっつり読むのが良いかもしれません。
そもそも私自身医療業界の人ではないのですが、身の回りに医療関係者がいるということもあり、医療全般に関する概要は面白いと思いました。
アメリカに留学している友人は、アメリカの医療は日本と違って制度上高額になるとよく言っているのですが、例えば諸外国と比較して質・料金・アクセス性がどうなっているかであったり、それらの実態である病床数、薬、医療の収支などがどのように整備されてきたかが記載されています。ど素人の身としては、このような多面的な視点で医療業界を把握できる点は面白いなと思いました。
ただし読んでいて気になる点も1つあります。当然ではあるのですが、この本の内容は題名の通り患者目線であり、既存の公開されている情報や著者の実体験から考えられる内容を整理されているものであるため、あくまで医療業界の外部からの視点で記載されています。そのため、最後のほうの章にある政策提言に関しては、一方的な目線のみで提言してしまっており、どうにも違和感を覚えてしまいます。
とはいうものの、医療従事者側の視点に関してはこの本の趣旨からズレる話かとは思いますので、今後他の本を読んだり知り合いの話を聞いたりして知見を深めようと思います。
医療業界の本は全く手に取ったことがないので、著者の他の本などはよく知らないのですが、シンクタンクや証券会社で長年医療業界に関する分析をされてきた方のようです。分析家らしい書き振りなので、気軽に他の本も、とは言いづらいですが、信頼しやすい内容かなとは思います。
今まで病院のお世話になった経験はほぼないものの、身の回りに医療関係者がいるため、ものは試しにと思って読んでみました。知らない世界を知ることができたという点で、読んでよかったと思います。
Posted by ブクログ
ある程度の知識がないと読み通せないものの、日本の医療制度の課題を分かりやすく解説した一冊。
入院13回と11回の手術(!)を経験した「患者目線」のアプローチで書かれてはいるが、人気証券アナリストらしく、各所でデータを用いて解説しているため、説得力も十分だ。
ずいぶん改善してはきているものの、「患者との基本的なコミュニケーションには是非配慮していただきたいと思います」とは、全く同感。
Posted by ブクログ
医療業界は、ユーザーである患者目線でものを考えることにあまり軸足が置かれていないように思う。私見では、それは1人の患者を治療するにも、関係する専門職が多種多様で、かつそれぞれの専門性が高く、業務遂行にあたって専門職種間での調整に多くの労力を費やすことに一因がある。だから、医療に関わる者が本書のような患者目線から医療とはどうあるべきかを論じる本を読むことには大きな意義がある。特に、非専門家としてここまで正確に医療について調べて理解をし、さらにそれを整理して読めるように提示をしたことに対して、敬意を表したい。一方、読んでいてもう少し医療業界の声を汲んでくれてもいいのではと思うこともあった。書いている人が非業界人であるから仕方のないことかもしれないが、患者目線では不可解に思えても、実はその裏にいろんな事情があってそう単純に割り切れないということがこの業界にはよくある。そして、その”いろんな事情”に他ならぬ患者自身の問題が関係したり、それを解決しようとすると医療職間や医療に関わる他業種との間で高度な調整が必要になってなかなかうまくいかないといったことが多い。そういう点からもう少し医療者に寄り添ってくれてもいいのでは。