【感想・ネタバレ】泥の銃弾(下)(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

「都知事狙撃事件の真犯人、その正体は……」新聞社を辞め、フリーの記者となった天宮理宇の告発は、ウェブを介して拡散し、世論が動き始める。だが、それは隠された秘密の一端に過ぎなかった。事件の鍵を握る男、アル・ブラク。シリアからの難民。メディアを牛耳る新聞王。すべての過去が繋がったとき、新国立競技場に再び銃声が鳴り響く。この国の“危機”を描く、怒濤の長篇サスペンス!

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Posted by ブクログ

上下巻を一気読み!!!!めちゃくちゃ面白かった!!!!!!!!!!
まさに超弩級のハードボイルド・アクション・ミステリー・エンターテインメントの傑作!
アクション・エンターテインメント小説を読んで、こんなに興奮したのは福井晴敏氏の『亡国のイージス』や『終戦のローレライ』を読んで以来ですね。

舞台は2020年の東京オリンピックを間近にした、ごくごく近未来の東京。移民・難民受け入れを決定した日本は、移民大国としての道を進みますが、そこに冷や水をぶっかけるような事件が発生します。
クルド人難民が東京都知事を狙撃したのです。幸い、東京都知事は一命を取り留め、犯人も早急に逮捕されました。取材で狙撃現場に居合わせた大手新聞社の記者天宮理宇は、犯人がクルド人難民であったことに違和感を覚え、調査を開始しますが、上層部から圧力がかかり、新聞社を去ることになります。
天宮はフリージャーナリストとなり、独自に都知事狙撃事件の調査を継続します。天宮は、調査を進めるうち、逮捕された犯人が真犯人でないことを確信します。そこに「アル・ブラク」と名乗る謎のクルド人から真犯人の手がかりがもたらされます。天宮が事件の核心に近づけば近づくほど、この狙撃事件の裏にはさら大きな事実が隠されていることに突き当たるのです。
警視庁公安部の暗躍、絶大な権力を握る大手新聞社の社主、狙撃されたことで不死身の英雄として担ぎ出された若き政治家・火神-東京都知事、そしてクルド人で元傭兵のアル・ブラク、そして在日難民組織「シリア、トウキョウ」。
いくつもの大きな渦に巻き込まれながら天宮は「本当の真実」にたどり着けるのか?

ストーリーもラストも完璧。
登場人物達もみなキャラクターが立っていて非常に魅力的。特に天宮の行動をつかず離れず監視する警視庁公安部の謎の女性刑事・刈谷。彼女の存在が、このハードボイルド小説の中で、ふと気持ちを緩ませてくれ、良い味を出しています。

そしてなんと言ってもド迫力なのが、クルド人で元傭兵のアル・ブラクの回想シーンで描かれるシリア内戦でのエピソード。あまりに壮絶かつリアリティ溢れており、この回想シーンだけでハリウッド映画一本作れるんじゃないかというくらいの迫力があります。

著者・吉上亮の作品はアニメ『PSYCHO-PASS(サイコパス)』のスピンオフ小説『PSYCHO-PASS ASYLUM』と『PSYCHO-PASS GENESIS』シリーズは全部読みましたが、本書のようなSFではない本格的エンターテインメントミステリーを読むのは初めてです。
「ユートピアに最も近いディストピア」な近未来・日本を描いたPSYCHO-PASSシリーズも無骨で読み応えがありましたが、現実世界を描いた本作は、難民問題というテーマにもしっかり切り込んでおり、単なるエンターテインメントだけに止まらない社会派小説という一面も持っています。
巻末の膨大な参考文献の数から、著者がシリア情勢やクルド人の状況、最近の難民問題を相当研究したことを伺うことができます。

著者は2013年デビューでまだ30歳。若手とも言える作家ですので、著者「吉上亮」という名前もほとんどの人は知らないと思いますが、ミステリー・ファンを自認する読者の皆さんにはぜひ読んでみて欲しい一冊です。
本書は何らかの文学賞、例えば大藪春彦賞が取れるくらいの実力を間違いなく持っていると僕は信じています。

一点だけ、ちょっと気になったことを書かせてもらえるなら、著者には日本の司法手続きや警察の取調べのことをもうちょっとだけ勉強してもらったら良いのかなとは思いますね。

例えば警視庁の刑事による取調べのシーンで被疑者が手錠をかけられたまま取調べを受けてたり(しかも手錠の鎖が取調室の机に固定されているとか、「どこの国の警察だよ!」と、僕は実際に電車の中で本に向かって突っ込んでしまい、他の乗客の皆様から吹雪のような冷たい視線の一斉掃射を浴びて蜂の巣になりました・・・)、あるいは警察が被疑者を起訴する、しないを判断するような描写があるのですが(実際は、逮捕・送致された被疑者の起訴・不起訴の判断は検察官がします。この小説では検察官の存在がすっぽり抜けてしまっています)、このあたりは少し現実とかけ離れていますね。

目の肥えた多くのミステリー・ファンの方々は、こういった方面の知識を信じられないほど豊富に持っていて、こういう描写を読まされてしまうと一気に興ざめしてしまうことが往々にしてあるので・・・。
筆者の得意なSFでしたら、「未来の警察はこうなっているんだ!」と逃げることができますが、本書はあくまで2019年から2020年というリアルに現在の話なので、そこはもう少し慎重に書いていただければ幸いです。

ただ、筆者がこの作品を書くためにシリアの状況や難民問題について相当の研究をされていて、これだけの作品を完成させることができる能力をお持ちなので、日本の司法手続きなんか、その方面のモノの本を2、3冊読んでいただければ、すぐにご自分のものにしてしまうでしょうから全く心配はしていません。次回作は本格的な警察ものを読んでみたいですね。

最後につまらないことを書いてしまいましたが、こういった点でこの本の価値が下がるということは1ミリも無いので、ご安心を。
最初にも書きましたが、本書はハードボイルド・アクション・ミステリー・エンターテインメント小説の傑作です。
たぶん、来ますよ、この作者。いや、絶対、来ます、吉上亮。うん。間違いないです。

という訳で、この本の中から飛んできた流れ弾の7.62×51mmNATO弾で最近「中二病」気味だった僕の脳みそ、きれいさっぱり吹き飛ばされちゃったので、これからちょっと病院に行ってきますね☆

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2019年06月26日

Posted by ブクログ

「国家は人民を守るもの」この考えは、民主主義が成立していることが前提にあることを再認識することができた。「政治家の汚職や腐敗は良くない」という考えは、民主主義国家の下で暮らしているからこそ抱けるものであり、そうではないところで暮らしている人々にとっては思いもつかない考えであるのだと感じた。「安全保障の確保のために、例え無関係な人たちがいても反抗する勢力は一網打尽しなければならない」このような考えが、9.11以降持たれてしまい、覇権の多極化や「見えない敵」の登場が起こったのだと感じた。

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2021年03月30日

Posted by ブクログ

都知事狙撃事件の犯人と、その隠された秘密を追い求める主人公雨宮の前にある人物が立ちふさがる。その人物は、「真実はそれを構成する事実の組み合わせによっていくらでも変化する」と雨宮を惑わす。
しかし、彼は「最初から真実があるわけではない。…その真実へ向かおうとする意志こそが、人に正しい真実への道筋をもたらす」と、ひたすら真実を求めて疾走する。
都知事狙撃事件の犯人を追うサスペンス小説の体裁を取りながら、
ジャーナリズムの本分とは?
シリア内戦及び難民問題とは?
と著者は問いかける。

難民問題について
受け入れる政府もヒューマニティーからだけではなく、労働者として消費することで国家の利益に作り替え、自らの繁栄を支えるためではないかと、告発する。
上下巻で挿入されているある人物のモノローグで綴られる「Interlude」は、内戦下のシリア情勢を詳述する(巻末の膨大な参考資料からこの作品に対する著者の努力が窺える)。ノンストップハードボイルド小説かのようなこの章が、狙撃事件の重要なパートとなる。
エンタメとして楽しみながら、著者の問題提起にも目を向けたい。

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2019年10月29日

Posted by ブクログ

「都知事狙撃事件の真犯人、その正体は…」新聞社を辞め、フリーの記者となった天宮理宇の告発は、ウェブを介して拡散し、世論が動き始める。だが、それは隠された秘密の一端に過ぎなかった。事件の鍵を握る男、アル・ブラク。シリアからの難民。メディアを牛耳る新聞王。すべての過去が繋がったとき、新国立競技場に再び銃声が鳴り響く。この国の“危機”を描く、怒涛の長篇サスペンス!

エネルギッシュな一冊。なぜ、あまり話題にならないのだろうか?

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2019年05月06日

Posted by ブクログ

都知事狙撃事件の真相、サジ、エイジ、アル みんなの身元がわかります。
事件の裏側には、難民支援への大きな思惑げ隠されていた。
なるほど、こういう展開ですか。アルとエイジの友情=愛については泣けるが、ラストにいたる戦いには少し無理を感じました。

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2019年10月30日

Posted by ブクログ

都知事狙撃事件の容疑者として難民が逮捕されたが冤罪ではないかと調査するジャーナリスの闘いと中東の内戦の過酷さを描く。

悪くないのだけれど、言葉の使い方が合わないのかやや読みにくかった。そして長かった。

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2019年06月22日

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