あらすじ
罪や不安を嗅ぎ取る能力を活かしスウェーデンの税関で働くティーナはある日、虫の孵化器を持った不思議な男と出会う。彼の秘密が明らかになるとき、ティーナが出会う新しい世界とは……映画原作である『ボーダー 二つの世界』の他、『MORSE―モールス―』番外篇の『古い夢は葬って』、集合住宅に這い寄る恐怖を描く『坂の上のアパートメント』、高齢女性の明るくも悲しい犯罪譚『マイケン』など、現実と異界の境界を問う11の物語。
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Posted by ブクログ
スウェーデンのスティーブン・キング、ことヨン・アイヴィデ・リンドグヴィスト(覚えられん…)の中短編集。初めて読む作家さん、「ミレニアム」シリーズは言わずもがな、ヘニング・マンケルやらマルティン・ベックやらと、北欧ミステリーはずいぶん親しむようになっているのだが、こういう幻想怪奇が混ざった小説はまだまだ未開拓かな(除くムーミン)。
水と冷たさに恐怖を感じる作風や、異生物に北欧神話を感じるあたりが、ご当地っぽいとも思える。キングとの比較されるのもむべなるかな…って思う箇所も、キングに感じるジャンクなアメリカンカルチャー臭が、この作品ではトロールやラグナロクなんかに感じる北欧臭がしてたりとか。
表題作や最後の中編「最終処理」、唯一異界を感じさせない「マイセン」あたりが、人気の出そうな佳作だが、個人的に非常に印象に残ったのが「紙の壁」。少年時代だからこそ出会える日常と幻想の接触は、世界中いつでもどこでも読まれるテーマだと思うが、オチをどうつけるか。ここで地域・時代によってすごく個性が変わると思う。この作品はさすが北欧って落とし方だと思ったが、さて日本だと…やっぱ、今だと鬼かな?
Posted by ブクログ
まあまあ面白かった。不思議さを求めるなら十分不思議な話ばかりだけれど、面白い!と膝を打つようなものではない。なんかまあ、まあまあ楽しめた感じ。読むのが辛かった。翻訳モノは文章が固いのかもしれないし、こちらの技量が追い付いてないせいかもしれない。
「ボーダー 二つの世界」
表題作であり、映画化もされた作品。税関職員である主人公が特別な嗅覚で隠し事をしている人間を見分ける話。そこからどんなサスペンスが生まれるのかと思ったら、出自に関するものであり、半身と出会うような話だった。まさか妖精のチェンジリングに行き着くとは思わなかった。これはまあまあ面白かった。引き込まれる謎があって読み進められた。オチもいい。良かったねと思いつつ、お父さんを置いていくのかあとも思った。
「坂の上のアパートメント」
「モールス」の話がちょろっと出てくる。こんなアパートメントに二人は住んでいたのかなあとも考えた。得たいの知れないなにかが少しずつ迫ってくる描写が面白かった。こういう手法はたまに見る。「注文の多い料理店」とか。
「Equinox」
不思議というか不条理だと思った。ひどい目に遭えば不条理、幸運なら不思議と捉えるかもしれないが。
他人の家に忍び込んで好き勝手過ごす描写が面白かった。そこに死体と出くわして問答するのは不条理極まりない。なんで生理の血を付けたのだろう?排せつ物としておしっこをかけるんじゃなくて、生の象徴として血なんだろうか?キリスト教的意味合いは自分には素地が無いのでピンとこない。
「見えない!存在しない!」
カメラ越しで見て撮影したのに映ってないというのが面白い。観測者が見たい者を作り出して呼び寄せて取り込むモノってことなんだろうか。不条理ホラー。
「臨時教員」
自分以外の人間は本当に存在しているか、実はロボットなんじゃないか?みたいな妄想は考えたことあるけど、それが本当だったよっていうはなしで面白かった。まあこれもどこかで見たことあるような話。でもそれをかつての友人から聞かされるというのが良いな。もしかしてという一抹の不安を残してくれるので。
「エターナル/ラブ」
死という概念が実際に存在しているのが面白い。ただただ暗い。最初は幸福な夫婦だったのに、どんどん暗くなっていく。新しい生命の誕生によって均衡が崩れる怯えと死の恐怖を重ねたのかな。
死なないと言ってもヨーセフは最初にボートから落ちて海に漂った時から死んだんじゃないかなと考えられる。死んだように生きることが可能なら生きるように死ぬことも、みたいな観念。
「古い夢は葬って」
ちょっとずつモールスの二人の輪郭が浮き上がり最後にはっきりわかるのが良かった。オスカルとエリの成長具合はわからないけど、どれくらいなんだろうな。28年前の事件と書かれているので、オスカルもまたホーカンと同じになっているんだろうか。ステファンとカリンは二人に会いにいってどうしようとするのだろうか。真実を確かめるのか、あるいは延命できる術を求めるのか。そういうことを考えた。
オスカルが年をくった描写がなく、単に痩せたというだけならば、オスカルもまたエリと似た存在になったということかな?
作者自身、映画でのオスカルもまたホーカンになるオチにびっくりして、本作を書いたらしいので、映画とは違うラストとなると、それしか。だとするとやっぱりステファンとカリンもまたオスカルとエリのように永遠の愛を求めて探しにいったのかなあ。「エターナル/ラブ」とは違うポジティブな話になる。
「音楽が止むまであなたを抱いて」
まあ、よくわからない。最初のタイトルは「十字架」らしいが。
なにかをしようとしているのはわかるが何をしようとしているのか。訪問者は誰なのか。聞き手のあなたとはどんな存在なのか。
人生最後の願いであり、好き好んですることでもなく、あなたとおなじだけの苦痛を得る行為。ずっと考えていて、そうせずにはいられない行為。
殺すというか、カニバリズムを伴う行為か?と考えられるし、儀式かな?とか。十字架と釘からキリストの処刑。あなた以外に複数の人間がくる。
なんとなくわかるが、わからない。
「マイケン」
社会から取りこぼされた中年の女性達が万引きする話。面白かった。最後のオチも良かった。主人公のドリーの閉塞感というか、孤独さが身に染みる。ネタバレになるけど、「ユージュアル・サスペクツ」形式で良かった。
「紙の壁」
子供のぼく視点から眺める世界。大きな段ボール箱があったらワクワクしちゃうのわかる。それで森の中で一晩過ごすのはすごいけど。虫の心配をしてしまった。夜やってきたなにかは息子の様子を身に来た父親かなと考えていた。正体がつかめないものは父親であっても脅威に感じてしまうという解釈。
「最終処理」
このタイトルは最終的解決がちらついたんだけど、それを狙ってるんだろうな。「亡者の取り扱い」の後日談らしい。確かにヒロインのフローラと祖母はこの話の前になにかやってたらしいのはわかる。
ミュージシャンのローランドが意外といい奴で手を貸してくれたのにも驚いた。最後まで関わるとは思わなかった。
訪問者の描写がいいな。他人を動かすことができ、魂を吸い取る存在?ってことかな。
最後、芋虫から蝶に変身していくシーンが良かった。祖母が死んだのはよくわからない。疲れてしまって読解出来なかった。
父親と息子の不協和音具合は良かった。姉もっと出てきても良かったのでは。施設にいた研究者とかも。人はどこまでしたら死ぬかという実験自体は良かったけど、もっと有効な使い方はあったのではと思う。
Posted by ブクログ
スウェーデンの作家の作品は初めて読んだが、不気味なものばかりで当惑した.11編あったが、最後の「最終処理」は気持ちが悪くなって途中で止めた.死体を処理することのおぞましさをなんと考えているのか.「臨時教員」では旧友との話の中からその教員の実態が炙り出される.「古い夢は葬って」ではカリンとステファン夫婦に巻き込まれた私が、うまく対処するのが楽しめた.表題作は、割と引き込まれたが、感動するものではなかった.