あらすじ
時は19世紀末。1枚の絵に魅入られ、芸術の悪魔に身も心も奪われた環は、露西亜(ロシア)の大地を彷徨い続ける。高名な美術収集家トレチャコフ、怪僧ラスプーチンとも出会い、宮廷へと招かれるが、やがて抗いがたい革命の炎と欲望、過酷な運命の渦に巻き込まれていく……。実在の人物に想を得た壮大な歴史フィクション。
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Posted by ブクログ
皆川博子の醍醐味といえば、幻想、なのだけれど、大河浪漫では生活も描かなければならない。
ましてや露西亜の貧困を描くのであれば、なおさら。
いちどきの幻想ではなく、長いスパンの物語なのだから。
しかし要所要所で現れる幻想・幻覚。
特にタマーラが恋う少年や得体の知れない力などが、やはりねっとりと。
ロマノフ王朝の没落。ラスプーチン。歴史とクロスする。
一方フィクションに属する妹や相棒やが少しずつ離れていくのが、寂しくもある。
それにしても徳川家茂に対する勝海舟の優しさも想い合わせ、どうして没落する家の子供をいつくしむ視点、がこんなに胸に迫るのだろう。
読み終えて初めて、ミハイル・ヴルーベリ 座せる悪魔 を見た。荒々しさと粗野と憂愁と。ロシア人そのものじゃないか。