あらすじ
「アメリカのやり方」を真似すれば、日本企業の生産性は向上するはずだ――そんな思い込みが、日本経済をますます悪化させてしまう。米・英・蘭・日で研究を重ねた経営学のトップランナーが、「野生化」という視点から、イノベーションをめぐる誤解や俗説を次々とひっくり返し、日本の成長戦略の抜本的な見直しを提言する。
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Posted by ブクログ
バズワードとなりがちな「イノベーション」に対し、学術的知見を用いながら、その特徴や現状をまとめた一冊。その不確実性故に、つかみどこのない議論となりがちなイノベーションであるが、本書ではイノベーションに以下のような定義を付与している。
「イノベーションとは、簡単に言えば、「経済的な価値を生み出す新しいモノゴトです。大切なのは、「経済的な価値」と「新しい」という二つの要素です。」(p.36)
つまり、単に「新しい」だけではなく、そこに「経済的な価値」が生み出されてようやく、イノベーションと言えるのである。
上記の定義のもと、著者はイノベーションにおける特徴として、「移動する」「飼いならせない」「破壊する」の3つを挙げている。ざっくりまとめると、イノベーションとは「ヒトを介し、機会のある市場に自ら移動する特徴があり、故にマネジメントによって生み出されるようなものではない。また、便益のみをもたらすような代物でもなく、時に労働を代替することにより、失業などの問題を生み出す、破壊的な側面も持ち合わすものである」ということである。
個人的に本書がよかった点は、2つある。1つ目は、上記のような、感覚的には分かっているけれど言語化されていない点に対し、経営学、経済学、社会学などの知見を用いながら、各概念の説明を明快に行っている点である。そして2つ目は、議論の中で登場する過去の知見が、非常に広範かつ濃密であるという点である。以下、メモ書きとして再読したい部分を記しておく。
・イノベーションに伴い、既存のモノの生産性が向上する「帆船効果」(p.46)
・EO(Entrepreneurship Orientation)の問題点。もともと個人が有していた性質なのか、イノベーションを起こすプロセスの中で育まれたそれなのか、判別がつかない(p.61)
・なぜ産業革命がイギリスで起きたのか(p.82)
・知識の反証可能性に関して(p.85)
・生産性のジレンマに関して(p.95)
・ポランニー「大転換」について(p.222)