あらすじ
悪性の脳腫瘍で病院に運ばれた夕夏。夜中に泣いていると謎の男が現れ「大切なものと引き換えに命を助ける」と持ち掛けられる。翌朝、腫瘍は良性に変わっていたが夕夏からはここ2年間の記憶が消えていて――
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Posted by ブクログ
事前情報をあまり入れずに読み始めたので、最初はファンタジー作品なのかと思いながら、悪魔の正体についてさまざまに想像を巡らせていました。
たとえば、「双子の妹が夕夏を幸せへと導くために、男性の姿で彼女の前に現れたのでは?」など、いろいろ考えながら読み進めていました。
しかし、悪魔の正体が明かされてからの展開は、涙なしには読めませんでした。
夕夏が記憶を取り戻せるように、周囲の人々がそっと手を差し伸べていたこと――その温かさに心を打たれた、とても素敵な物語でした。
また、作中ではずっと「悪魔」とされていたのに、なぜタイトルでは「天使」なのか不思議に思っていましたが、読み終えたとき、その意味に深く納得しました。
結末については、人によってはバッドエンドと捉えるかもしれませんが、個人的には、それを超えるハッピーエンドだったと感じています。
Posted by ブクログ
文庫書き下ろし。
銀行勤め3年目の河野夕夏は脳腫瘍で倒れ、緊急手術後の深夜、病室に現れた悪魔を名乗る黒ずくめの青年に「命を助ける代わりに大切な物を奪う」という取引を持ちかけられて承知すると、良性腫瘍の診断に変わって2年分の記憶を失っていた。
とファンタジーっぽく始まるが、たびたび青年が「アフターケア」と称してアパートの前で待っているので、読者はだんだんこの青年が記憶にのこっていない恋人だったのではないか、また事故に遭ったという岡看護師の弟ではないのかと気づく。
夕夏は小学生の時に土砂崩れにあって、なんでもよくできた双子の妹を失っていて、大学に入ってから実家と連絡を絶ってきていて、職場でも仕事はできるが、後輩に厳しかったが、職場復帰して新人同様となり、そのことに気づいていくという人物像も見えてくる。果たして夕夏は幸せになれるのか、と読者は気をもむ。
終盤は予想どおりの展開でハッピーエンドになるのだが、わかっていても涙がこぼれる。ただ実家に一緒に行ったのが2回目だったというオチは、夕夏が結婚を控えていたことを家族が一言も言わなかったことに違和感を感じてしまうので、どうかと思う。
Posted by ブクログ
種明かしがされた時の「彼」のことを思うと、本当に胸にグッと来るものがありました。
本編中では見えなかった彼女の言葉にどれだけ心を揺さぶられていたか分かった場面は特に。
ファンタジーだった世界はくるりと回って現実味を取り戻し、悪魔は人間に、そして天使になる。
物語の雰囲気も、ここで沈鬱さを感じる暗さから、希望の持てる明るく軽やかなものに変わるのも素敵。
目の前がぱあっと明るく広がったのを確かに感じました。
この場面に辿り着くまでに、非常に丁寧に丁寧に描写もされていたし、伏線も張られていたので、より感動が際立ったと思います。
「彼」の想いが報われて本当によかった。
最後の最後にも、さらっと種明かしその2も用意されていて、序盤に感じた違和感もちゃんとフォローしてくれているところも見事でした。
素敵なラブストーリーでミステリでした。
神様どうかこの先は、この二人が大切なものを無くさずに済むように見守っていてください。
そう祈りたくなる物語でした。
Posted by ブクログ
急性の脳腫瘍で入院している夕夏は、医師の態度から最悪の結果を察し、絶望していた。
その夜、目の前に男が現れて言う、「君の命を助ける代わりに、大切な物を奪う」と。目が覚めると夕夏は、ここ2年間の記憶を失っていた……。
不運ではありながら、優しく幸せでドラマチックな恋愛小説。
2年間の記憶がない夕夏は、任されていた仕事も思い出せず、最近の人間関係もリセットされてしまっており、最初は戸惑いながら手探りで何とかしようとするのですが、記憶を消した男や、疎遠だった家族、職場の仲間と交流を深めるうちに徐々に立ち直っていきます。
恋愛・親愛・家族愛と、様々な愛に溢れたラストシーンは素敵でした。
また、”彼”の行動・言動のひとつひとつに隠された、愛情や恐怖、祈りを考えると、一途な気持ちにぐっときます。
Posted by ブクログ
ヒロインの夕夏が復職後、直近2年間の記憶を失っているために職場で味わう辛さが身につまされる。自分の頭では仕事を教わっている新人のつもりなのに、実際の職場ではすでに後輩の指導役というのはきついだろう。何より、おそらく必死で勉強して得た資格も、学んだ内容をすっかり忘れているのだから覚え直さなければならないわけで。2年分の経験がチャラというのはなかなか恐ろしいことだ。
そして2年間に得た人間関係もチャラ。その間に大切な人と出会っていたなら、相手の絶望感はどれほどだろう。それをふまえた本作はいろいろと考えさせてくれた。
記憶喪失ものは、ためにする感が強くて嫌いなのだが、これはこれ自体がテーマになっていて納得。
そもそもファンタジー設定だと思っていた導入部分だけを読んだときは、「悪魔との取引」について自分だったら、と考えたりもして。