【感想・ネタバレ】隠された奴隷制のレビュー

あらすじ

マルクスの『資本論』には「隠された奴隷制」というキーワードが登場する。一般に奴隷制と言えば、新大陸発見後にアフリカから連れて来られた黒人奴隷が想起され、すでに制度としては消滅している。しかし著者によれば、「自由」に契約を交わす、現代の私たち労働者も同じく「奴隷」であるという。その奴隷制はいかに「隠された」のか。格差社会はじめ諸矛盾が解決されることなく続く資本主義にオルタナティブはあるのか。マルクス研究の大家である著者がロックから現在に至る「奴隷の思想史」350年間を辿り、資本主義の正体を明らかにする。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

この本の「隠された奴隷制」というタイトルは、マルクスの『資本論』の「ヨーロッパにおける賃金労働者の隠された奴隷制は、新世界での文句なしの奴隷制を踏み台として必要としたのである」という文章に由来している。「隠された奴隷制」とは、黒人奴隷の「むき出しの奴隷制」に対して賃労働で働く「自由な労働」を指している。マルクスが何故に自由人の賃金労働を「隠された奴隷制」と呼んだのか。著者は啓蒙思想からアダム・スミス、ヘーゲル、マルクスを経て、新自由主義まで、この「隠された奴隷制」という言葉の謎を解くために奴隷制の思想史を丹念に追っている。
アダム・スミスもヘーゲルも資本主義経済が発展する中で、今でいうところのワーキングプアやマイナス成長や経済格差といった問題の多くを知っていた。知っていたにも関わらず、「自由な労働」に基づくものであるからと黙認をしている。これに対してマルクスは「自由な労働」を「隠された奴隷制」として批判した。「自由な労働」が「公正」であること、その”「公正/不正」という判断そのものが「自然的」なものではなく、歴史的・社会的に制約されたもの”であること、これこそがヴェールに隠された秘密なのである。
終章で著者は、ヘーゲル、マルクスに倣って私たちにも自らを解放する絶対的な権利がある。しかしそのためには自らが闘わなければならないと言っている。”私たちが自分の時間の主人公になること、「自由な時間」を手に入れることができるようになること”こそが大切だと締めくくっている。
マルクスの考えていたことは私たちから決して遠くない。確かに一つ一つの論理は難しいところもあるが、マルクスが考えたこと、マルクス後のことを丁寧に書いている。ミステリー・ストーリーのようにも読める本だ。

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2019年11月10日

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