【感想・ネタバレ】隠された奴隷制のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年05月05日

パワーワード溢れる興奮の読書。

学者や思想家による〝奴隷“の解釈を追いながら、スタートラインから既に生産手段とされたそれを、最終的に現代の労働と重ねていく。徐々に思想にリアリティが増し本の後半で佳境に入るが、それはまるで、思想が本から飛び出て、まさに読み手が奴隷であった事実を突きつけるかのようだか...続きを読むらだ。奴隷が自らと重なり、その脱出方法を必死で本の中に探す。

ジョンロックは自ら奴隷貿易にも出資し、間接的に奴隷を所有していた。社会契約論は、植民地支配を時代背景としている。アダムスミスは奴隷労働は白人労働よりも安上がりだと言う植民地経営の常識を覆す指摘をする。その後、ヘーゲルは主人と奴隷の弁証法において、奴隷自身がものを生産しなければ、主人はものを食べることもできない。主人が帰って奴隷に依存=従属せざるを得ないという小麦の奴隷みたいな詭弁を弄しながら、自由の自覚と言う原理に基づき奴隷が自らを解放する絶対的な権利を擁護。しかし、ヘーゲルは労働者階級の側から提起される可能性のある平等の要求は却下。自由主義者ヘーゲルにとって私的所有の自由こそ最優先されるべき理性的なものであった。結局強制的な奴隷を容認している。転換点は、マルクス。その私的所有を批判して、平等の要求を対置した。更に、強制の強弱はあれど、一般労働さえも、そもそも奴隷に当たると。マルクスは資本主義を不正だと自覚していた。マルクスは自らを売ってしまう労働者をその奴隷状態と区別した後、しかしまだ覆い隠された奴隷制が残っていると指摘した。

この辺から割と現代思想に繋がるパワーワードが増えてくる。マルクスに限らず。「細分化された労働は奴隷の仕事」。ジョンフランシスブレイは「交換の不平等、つまり奴隷制を創出する詐欺的なシステムによって労働者階級が奴隷階級となる」と。また別の思想家は、学校が成績評価や職業的なヒエラルキーへの配分に用いられる一見能力主義的とみられる方法によって、合法的な不平等を助長することになる。特権を合理化し、貧困個人の失敗のせいにすることにより、「教育は不平等を再生産している」。つまり、自己責任論の正当化、これがすなわち、隠された奴隷の正当化に繋がっていく。あるいは、「負債が奴隷を作る」。そして贈与や負債、交換や奴隷制の対極に位置する人間関係の原理こそコミュニズム。

経済学者ジョン・ロビンソンは経済哲学と言う著書の中で、資本家に搾取される悲惨さよりも悪い唯一の事は、全く搾取されない悲惨さだと指摘。つまり失業への恐怖が労働者を従順にする。

纏めてみると、利潤が行動原理であるが故に、交換の不平等が生じ、資本家も労働者も負債を負う。その負債が社会契約となり、労働を強いる。あるいは、労働すら与えられない、生存リスクから逃れるために、精神的にも拘束される。これらの仕組みを正当化するのが学歴ステイタス。

皮肉にも、この構図がサピエンスの発展を齎した事も事実。幻想を支配者として崇め、自ら契約を課して、ひたすら労働に勤しむ。そこに快楽を感じているから、極端な脱出は考えていない。
だが、少しはマシになっている。労働時間や年少労働の制限、コンプライアンス意識の高まりにより。そして、まだマシになっていくハズだ、と。その条件改善の予感すらも、巧妙に実装されているのかも知れないが、目を瞑り、ひたすらヒエラルキーの上へ。

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Posted by ブクログ 2020年01月01日

奴隷貿易の時代から奴隷の解放、その結果自由意志を持ったはずの労働者が如何にして搾取される存在となったのかを説き起こします。その結果が「自己責任」の名の下でブラック労働に従事させられる現代労働者。これからどうすべきなのか明確な答えはありませんが労働者一人一人が考えてみる必要はあると思います。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年11月10日

この本の「隠された奴隷制」というタイトルは、マルクスの『資本論』の「ヨーロッパにおける賃金労働者の隠された奴隷制は、新世界での文句なしの奴隷制を踏み台として必要としたのである」という文章に由来している。「隠された奴隷制」とは、黒人奴隷の「むき出しの奴隷制」に対して賃労働で働く「自由な労働」を指してい...続きを読むる。マルクスが何故に自由人の賃金労働を「隠された奴隷制」と呼んだのか。著者は啓蒙思想からアダム・スミス、ヘーゲル、マルクスを経て、新自由主義まで、この「隠された奴隷制」という言葉の謎を解くために奴隷制の思想史を丹念に追っている。
アダム・スミスもヘーゲルも資本主義経済が発展する中で、今でいうところのワーキングプアやマイナス成長や経済格差といった問題の多くを知っていた。知っていたにも関わらず、「自由な労働」に基づくものであるからと黙認をしている。これに対してマルクスは「自由な労働」を「隠された奴隷制」として批判した。「自由な労働」が「公正」であること、その”「公正/不正」という判断そのものが「自然的」なものではなく、歴史的・社会的に制約されたもの”であること、これこそがヴェールに隠された秘密なのである。
終章で著者は、ヘーゲル、マルクスに倣って私たちにも自らを解放する絶対的な権利がある。しかしそのためには自らが闘わなければならないと言っている。”私たちが自分の時間の主人公になること、「自由な時間」を手に入れることができるようになること”こそが大切だと締めくくっている。
マルクスの考えていたことは私たちから決して遠くない。確かに一つ一つの論理は難しいところもあるが、マルクスが考えたこと、マルクス後のことを丁寧に書いている。ミステリー・ストーリーのようにも読める本だ。

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Posted by ブクログ 2022年06月22日

労働者の賃金は「彼ら自身の維持と再生産が行われる」最低限の水準に保たれているため、彼らは日々の「個人的消費」によって「生活手段をなくしてしまう」。
つまり彼は、スミスの言う意味で「財産を取得できない人」なので、生活を続けるためには自分の労働力を労働市場で販売し続けることを「強制」されている。


...続きを読む隷が受けるのが暴力的な「直接的強制」だとすれば、「自由な労働者」は雇用されて働く以外選択肢がなく、失業したら生きていけないという経済的な「間接的強制」を受けている。

マルクスの「経済学批判」の課題とは、資本主義生産様式の構造を解明するにとどまらず、資本主義的生産様式を「公正な」ものとして正当化する自由主義的「神話」そのものを解体すること、自由主義イデオロギーから労働者を解放して、彼らが「並外れた意識」を獲得するのを助けること。

「資本主義は不正」なのであり、したがって「隠された奴隷制」のもとにある賃金労働者にも、かつての奴隷と同じように「自らを解放する絶対的な権利」がある


奴隷制=自由労働(わずかな賃金であれ契約したのなら)


奴隷制がなければ、資本主義はなかった。
近代資本主義世界システムが成立するためには、奴隷制プランテーションが不可欠だった。
そして今もなお、「自由な労働者」というヴェールに覆われた「隠された奴隷制」がなければ、資本主義はなりたたない

グレーバーによれば、資本主義は奴隷制に支えられていると同時に、コミュニズムにも支えられている。
それが二重の意味での「資本主義のスキャンダル」だった。
私たちは、自分自身の労働力の所有者として、奴隷の主人として、自分の奴隷を資本家にら企業に売り渡す。
そして資本家のもとで、企業の中で奴隷として労働する。しかし、その職場の中で私たちは「コミュニズム的に」協働している。

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Posted by ブクログ 2021年07月11日

奴隷制から逃れるためには、個人が自分の時間の主人公になること。
そのための手段として「階級闘争」に勇気をもって挑むことや「労働組合」に参加する、ポールメイソンの言う「協同組合的ネットワーク社会」の構築など様々ある。
共通して言えるのは他人任せにせずに「主体的に動く」という事と「選択の幅を広げる」こと...続きを読むだと思う。

資本主義経済から今すぐに脱却することは不可能だが「
自分の時間を確保する」ことを意識し、時間はかかるかもしれないが徐々に社会主義的な方面へ関わっていくのが良いのかもしれない。

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Posted by ブクログ 2019年08月13日

近代資本主義における奴隷制について紐解く一冊。

明確な結論はなく難しく感じたが、勉強にはなった。

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Posted by ブクログ 2020年10月12日

かつての奴隷度今の労働者にどんな違いがあるのって問う本。正直身も蓋もない話。

アダムスミスのころの社会における奴隷感をはじめ奴隷の状況や奴隷について書かれた思想など広範囲にわたる側面から「奴隷とは」と論じられるのを読むと、改めて奴隷とは自由とは労働とはについて考えたくなる内容だった。

面白いのは...続きを読む奴隷労働が真っ盛りだった当時、”自由”な市民よりも快適な生活環境の奴隷が多くいたりした状況でも「自由」があるから市民は奴隷よりも良い環境にいるといった考えが博愛的とされる人の思想だったりすることで、価値観や物の捉え方考え方は同じ言葉であっても時代が変わると変わったりすることに注意を払わないといけないのだと思う。

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Posted by ブクログ 2020年07月27日

端的に言えば、労働に対する賃金が等価より低いとき(ブラックなど)は奴隷とみなせるというような話。
自由に職業を選択したようでそれは奴隷状態。
ただ、労働に対する評価、賃金の解釈は人それぞれ。人に欲がある以上は、完全な等価は実現不可能である。
共産主義が実現しないのと同じになってしまう。
これからはA...続きを読むIなど人が介在しないシステムを作っていくしかなさそう。
(AIも全く人が介在しないということはないけど。)

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Posted by ブクログ 2020年01月14日

新大陸における黒人奴隷によるプランテーション経営の成功が、イギリスひいては先進諸国の大規模工場での賃金労働につながった。そういう意味では賃金労働者は隠された奴隷なのだ・・・と言えなくもない。

しかし、そこから一気に新自由主義は資本家階級によ(隠された)奴隷制の強化とつなぐのはあまりにも短絡的ではな...続きを読むいか。工業化社会以降は資本と労働はときには闘争状態、ときには協力してここまでやってきた。いたずらに「資本家VS奴隷」を強調するのはマルクス・レーニン主義あるいは全共闘的。共産主義国家の失敗や国内であれば革新政党の弱体化など要素はあまりにも多い。

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