【感想・ネタバレ】中国ナショナリズム 民族と愛国の近現代史のレビュー

あらすじ

二一世紀に入り、尖閣諸島や南沙諸島の領有問題などで中国の愛国的な行動が目につく。なぜ、いま中国人はナショナリズムを昂揚させるのか。共産党の愛国主義教育や中華思想による強国意識からなのか。西洋列強や日本に蚕食されてきた一九世紀半ばから、日本の侵攻、さらに戦後中国が強大化するなか中華民族にとってナショナリズムとは何であったのか。本書は、清末から現代までの一二〇年の歴史のなかで読み解く。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

読んだ動機
昨今の中国の強国化、権威主義、監視社会がなぜ中国で受け入れられているのか(強国であるのに、なぜ知識人層は反旗を翻さないのか、翻せないのか)
そして、社会主義を謳うが実態はそうではないので、何者であるのかを知りたい。

歴史過程と背景
新時代の複雑な統治制度(地方あるいは民族によって統治方法を変えていた。また、国境の概念を持たず、他の民族を同じ国に入れるかどうかで、範図は広くも狭くもなり得た。そこには伝統的な朝貢・冊封体制が背景にある。)

帝国主義時代、欧米より国民国家の概念を輸入、列強に対抗するためには(侵略させないためには)、列強の戦術、国家形成の必要に迫られた。
その中で民族という概念が輸入された。
おおよそ5つの民族に分けられた中で、漢民族が大多数を占める。
清朝は満州族。

以上を前提に、列強各国に凌辱されていく国土を意識する中で、怨嗟から強く民族意識が高まっていく。
アヘン戦争、日清戦争、北京議定書、二十一ヵ条要求、日中戦争など…

指導者たちは、民族意識の高まりという世論を利用する手法をとることで(義和団事件、日中戦争、プロレタリア革命など)、民族意識の高まりは政府公認であり、世の中の流れであり、根深く強いものとなる。

戦後、それぞれの民族意識が高まる中で、それぞれの民族による独立の機運も高くなっていく。
漢民族は、元は清という一つの国で多民族国家だったと主張する。ここには漢民族以外の者(満州族)に漢民族が支配されていた清の統治から漢民族が取って代わる、つまり満州族も他の民族も含めて漢民族が主導する統治体系を作るという希望の現れでもある。
一方で当然に、清の統治機構は朝貢冊封体制の流れの中で、清に自分たちの国の統治を認めてもらうものであり、それぞれの民族は清ではない、との主張もある。
ここに現代まで解決できない領土問題・少数民族排斥問題の根がある。

また、やはり民族意識の高まりの世論から、それをより推進する共産党が政治闘争でも戦力的にも勝利を収めていく。世が安定しだすと監視社会が浮き彫りになる。権力集中は急進的な強国化には都合の良いシステムであるのか。

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2022年11月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【213冊目】予想よりも読み応えのある本だった。そもそも中国が自分たちとそれを取り巻く世界をどのように見てきたか(中華思想と冊封体制)の説明から入り、清末以降中国ナショナリズムがどのように変遷してきたのかを時系列に沿って説明するもの。
 時系列に沿って見てみると、中国が未だに抱えている被害者意識というか、日本や欧米列強に対抗するために強くならなければいけないんだという考えのルーツが、清末にあることがよく分かる。だって、日本が陸奥宗光の時代に不平等条約を改正したのに比べて、中国が不平等条約を解消したのは第二次世界大戦中の1943年だもんな。
 広大な版図には多種多様な民族がいるだけでなく、言葉から違う。だから、中国を西洋的な国家とするためには、様々な大手術が必要で、かなり活発な議論が交わされた。中華民国成立後はいわゆる「公定ナショナリズム」が推し進められた。でもこれは、「伝統」というよりも西洋式の「文明」の普及と並行するものだった。
 現代中国でも群体性事件が警戒されているように、例えばベルサイユ条約に反対する五四運動なんかは、中国大衆のナショナリズムの現れと言え、政府は、プラグマティックな外交路線とこうした大衆運動の間で板挟みになっていく。
 最も興味深かったのは、
◯ 人民←「中華人民共和国」
◯ 国民
◯ 民族
◯ 中華民族
という言葉の関係。共産党の一党独裁体制の中では、中国籍の人間を「国民」と呼ぶそうだけど、この中に「人民」と「人民の敵」が混在している状態。で、誰が「人民」なのかを判断するのは時の共産党だということらしい。
 また、コミンテルンに代表されるように国際主義を掲げた共産主義だけど、毛沢東は、国のために戦争をする姿勢と共産主義は矛盾しないと説明した。この姿勢は、ブルジョワのものである民族主義とは異なり、「愛国主義」と名付けられ、愛国主義は共産主義を実現するための前提だと位置づけられたみたい。
 習近平総書記がよく使う「中華民族」という言葉に強い違和感があったんだけど、この本できちんと説明されていた。確かに中国には、漢人だけでなくモンゴル民族とか満州人とか多民族国家なわけだけど、満州事変のころの歴史学者・顧頡剛という人は、こうした民族の違いを「種族」の違いだとし、民族としてはただ中華民族のみが存すると主張したみたい。
 戦後、中華人民共和国成立後は、「中華民族」という言葉の使用が減少し、憲法にも中国は多民族国家であるという認識が書き込まれたけれど、冷戦終結の頃から再び「中華民族」が現れるようになる。その理由として2つ挙げられていて、1つは、ソ連やユーゴスラビアの分裂・崩壊を見た中国が危機感を強めたこと。もう1つは、改革開放路線をとるようになり、社会主義イデオロギーに代わる国家統合の論理が必要になったこと。

 この他にも興味深い資料がたくさん掲載されていて、近現代中国史にあまり明るくない人には特にオススメ。

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2017年10月28日

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