【感想・ネタバレ】田園風景のレビュー

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Posted by ブクログ 2014年05月07日

坂上弘は、昭和から平成ひと桁まで
一流企業でサラリーマンをやりながら、そのことをネタに書いていた人だ

「短い一年」
年功序列社会にはひとつの欠陥がある
組織が老人だらけになってしまうことの弊害だ
1980年代の日本では
多くの大人たちにとって
それはまだ漠然とした不安にすぎなかった

「巡回授業」...続きを読む
人間は独りだ
そうであるからこそ、コミュニケーション能力が必要とされるのだ
しかし逆のことも言える
人間が独りで生きていけないものとすれば
コミュニケーション能力の過剰ゆえに
孤立するということもありうるだろう
21世紀の今も、国際社会のなかで日本人は引き裂かれ続けている

「田園風景」
日本の敗戦によって、価値観のひっくり返る体験をした子供たちの心には
ある種のニヒリズムが植え付けられたことだろう
つまり、この世界には
本当に正しい教えなどなにひとつないということ
しかしそれは逆に言うと
この世界に、やってはいけないことなど何もないという証明でもあった
それが、戦後日本に
多くのカリスマ(良くも悪くも)を生み出した思想的背景である
ところが、そのような全能感とは、二律背反の逆説でもあって
人間は独りだと言いつつ、他人を見捨てることにためらいを感じてしまう
そういった小市民たちをも多く生み出したのである

「夏野」
アメリカの少女をホームステイに受け入れる老夫婦
他者とのコミュニケーションには粘り強さが求められるもので
ずっと日本に暮らした人にはそれがよくわからない
といった感じの話

「こなゆき」
グローバル・ビジネスの世界にあって
恋愛とトレードの見分けがつかなくなっていく

「コネティカットの女」
東京で道に迷っているアメリカ人の妊婦を助けたが
ありがとうも何にもなくて
別にいいんだけどなんかさみしい

「寒桜」
人はこうしている間にも死に向かって突き進んでいる
それは聖書を読んでいても
座禅を組んでいても同じことだろう

「向かいて聞く」
制度が無効になれば社会は自由である
が、それによってエゴと愛情の区別がつかなくなるならば
自由とは神経症そのものであるにほかならない

「土手の秋」
不自由の中にあって、人間は自由を求めるものだ
しかし自由の中にあっては、不自由を求めるものかもしれない
もしそうだとすれば
人間を惑わし、動かす原動力は寂しさである
そんなことあまり信じたくないけれども

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