【感想・ネタバレ】神奈備のレビュー

あらすじ

神様、ぼくはどうして生まれてきたんですか――。霊山・御嶽の麓の町で悲惨極まりない人生を送ってきた少年、潤。生きることの意味を問うために神の棲まう山、御嶽へ向かう。悪天候のなか、強力(ごうりき)の孝は書き置きを残し山に入った潤を捜索することに。神を求め信じる潤。長く山で暮らしながら神を信じぬ孝。大自然の猛威に翻弄されながら、二人が命の炎を熱く燃やす。哀哭の山岳ノワール。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

飲んだくれの母のもとに生まれ、自転車競技選手となる夢を諦めさせられ、工場で働く17歳の青年「潤」。「ぼくはどうして生まれてきたの?」。神様にその答えを問うために、二つ玉低気圧が近づく豪雪の中、御嶽山の山頂を目指す。一方、潤の母「恭子」に、潤が自分の息子であると聞かされた男「孝」は、御嶽山の山岳信者たちを運ぶ強力(ごうりき)として、潤の捜索を行う。

孝は、雪に包まれた御嶽山を捜索する過程で、不幸な潤の身の上を思い、潤の父となる決意をする。しかし、そんな決意も虚しく、潤は、雪の中、低体温症となり逝ってしまう。
御嶽には、神様がいることを信じ、山を登る潤に対して、孝は、神の存在を信じない。数年前に起きた御嶽山噴火の際には、多くの罪のない人々が死んだ。もし、神がいるのであれば、どうして彼らは死ななくてはならなかったのか。そして、神様の存在を信じる潤は、なぜ残酷な母のもと苦しい生活をし、死ななくてはならなかったのか。孝にとって、山で起こる全ての神秘的な体験は、科学的に説明のつく自然現象で、神が起こす奇跡ではない。
潤は、最期にあって、朝日に照らされ、黄金に輝く朝靄と「霧虹」と呼ばれる白い虹に、神を見る。そして、「ぼくはどうして生まれてきたの?」という問いに、神様からの答えが聞いた。
「この日この時ここにこうしてあるためだ。」
それは、消え行く意識の中で聞いた幻聴に過ぎなかったのかもしれない。しかし、潤は、この幻聴に「ありがとう」という言葉を繰り返し「至福」を感じて死んでいく。

出会ったこともない、たった二人の人物が、同じ雪山に、ただ同じときにいたというだけの物語である。それは、神様がいると信じられたからこそ、幸福の思いを抱いて、死ぬことができた青年と、その死を不幸に思い、救えなかったことを悔いる男である。
孝は、頑なに神を信じなかった。しかし、一つだけ科学的には説明のつかない出来事に出会う。死んだ潤のもとへと誘った、いるはずのない「ライチョウ」である。
ライチョウは、神の使いだったのか。もしそうだったのだとしたら、噴火により大勢の命を奪ったのと同じように、潤が死んでしまってから孝を巡り合わせるそのライチョウは、御嶽の神は、徹底的に残酷だと思う。

どうしても、ただただ、潤が痛ましく見えてしまう。ぼくにとって、この物語は、神も仏もいない、ただ、人を襲う自然の脅威たる山の姿を描く山岳小説だった。

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2024年04月23日

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