あらすじ
「科学についての自分の考えを少し整理し、抽象と具象の中間を行く思索を試みたいと思っていた」(本文より)大学では物理学部に籍を置いたこともある池澤夏樹。これまでも折に触れ、自らの作品にも科学的題材を織り込んできた。いわば「科学する心」とでも呼ぶべきものを持ち続けた作家が、最先端の人工知能から、進化論、永遠と無限、そして失われつつある日常の科学などを、「文学的まなざし」を保ちつつ考察する科学エッセイ。科学者としての昭和天皇の素顔や、原子力の歴史を自らの人生と重ねて考えるなど、「科学ファン」を自認する作家の本領が発揮された一冊。 ※2019年に発売した、同名の集英社インターナショナル単行本を底本にしています
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Posted by ブクログ
数学苦手な人の意見で、実在で語ろうとして、それが存在しないから分からないっていう意見はそもそも違うんだと思った。数学って現実では無い、数学というパラレルワールドで繰り広げられてる概念操作だからね。現実にあるかないかとかの話ではないよ。
Posted by ブクログ
文系頭にやさしい科学エッセイ。
世界は乗法的、冪的。加法で済むのは局地的な問題だけ、というのは分かりやすい。大気は無限というかつての信仰。福島から大気中にあふれた放射性物質を例にとり、「希釈は消滅ではない」という説明が池澤夏樹らしい。
種は絶滅する。弱肉強食ではなく、適者生存。肉食獣は草食獣に生命を負っており、草食獣は植物に生命を負っている、というベクトルの向きもなるほど、だ。AIとロボットで人が単純労働から解放されても、余暇は平等には分配されない。失業者と過労者が増えるだけ。雇用する側にのみ恩恵をもたらす、というのは、農業と定住が結果的にヒトを忙しくしてしまったことと似ていないだろうか?
現代のテクノロジーは、人の生活の便利を求めて生活の喜びを失う詐術だ、というのも一面において激しく同意。だからといってこの流れを止めることはできない、という諦観にも首肯。
Posted by ブクログ
科学のいろんな面をピックアップして、著者の意見を縦横無尽に展開した好著だ.先日『スティル・ライフ』を読んだが、あの時点で科学的な考察が満ち溢れていたことを踏まえると、このような著作の出現は当然であろう.第9章のAI論が面白かった.AIに意思はないことを前提に議論を展開することが重要となろう.第11章のパタゴニア紀行も楽しめた.どこかで著者がシベリアに行った話を読んだことがあったが、それに似た感じだった.寒い所がお好みなのかな.それにしても、視点が広いことは素晴らしいと感じた.
Posted by ブクログ
ジャンルとしては科学エッセイということになるのでしょうが、幅広く深い知識に裏付けられた格調高い文章に引き込まれる。これはすごい。こんなの読めて嬉しい。
「進化と絶滅と哀惜」だけでも星5
Posted by ブクログ
池澤夏樹が理系であるだけでなく手仕事の人であることを知る。違和感はない。けれど、スヌーピー神社への一円玉貯金の話だけはクスッときた。イメージ合わないねえ。
夏休みっぽさのあるエッセイ集で、この時期に読むのにちょうどよかった。しかし、この人の小説も読んでみないとな。