あらすじ
都の建設のため国産銭が作られた古代、中国からの輸入銭に頼った中世、石見銀山の「シルバーラッシュ」が世界経済をも動かした戦国時代、財政難に苦しめられた江戸の改革者たち、帝国日本の通貨政策……。無文銀銭が登場した7世紀から現在まで、通貨をめぐる歴史はエピソードに事欠かない。通貨政策に大きな影響を与えてきた庶民の事情にも着目しながら、その歩みをたどる。今も昔も私たちを悩ませる、お金をめぐる通史。
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お金に視点を置いて日本史を見るという本は読んだことがなかったので楽しんで読めた。通貨は政府や中央銀行が発行して統制するってのは近代以降のことで、昔から民間の需要から生まれるってのを改めて学べた。お金の話だけではなく、その時代時代の気候から生産高や人口の増減についても触れていて、歴史の流れの底流にあるそういったものの変化を知れて面白い。間に孔を開けた硬貨が材料節約のためだったり、円の語源だったり、トリビアとして人に話したくなる話題も多い。
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奈良時代から現代までの我が国の貨幣に関する通史。
漠然と江戸時代は統一された貨幣制度があったように思ってきたが、日本史の教科書にあるような貨幣の金比率の改定だけではなく、実際には多くの制度の設計に見直しや変更が成されていたこと、それが明治期の日本圓の誕生と切り替えがスムーズに行われる原因となったことが判った。
また、占領期の台湾、朝鮮、その他占領地での貨幣制度についても触れられており参考になった。
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私は、物々交換が通貨に転じる歴史的過程が理解できていない。なぜ魚と米の交換の仲介として「きれいな貝殻」(や「貴金属」)を使うことが人々に是認されて、しかもそれが後に硬貨に替わるのかが、どうしても理解できない。そこで本書を入手。
正直に言って、本書を読んでも、よくわからなかった。本書が力作なのだろうことは、わからないなりにも、わかった。
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古代から現代日本にかけての日本の貨幣史を述べたのが本書である。冒頭で、貨幣の定義として経済学の教科書でお馴染みの「交換手段」、「価値尺度」、「価値貯蔵手段」に加えて、債務決済や贈与、納税など社会的義務に基づく「支払手段」が挙げられている。(P.4)
天武朝の時代に、日本最古の国産銅銭である富本銭が鋳造された。富本銭発行の目的の一つとして、藤原京建設のための物質購入と労賃の支払が挙げられている。つまり「国家支払手段」として発行された。上に挙げた貨幣の定義の「支払手段」である。奈良時代に発行された皇朝十二銭の多くがそうした「国家支払手段」として発行された。古代朝廷の通貨政策は「総じて、朝廷が財政支出した銭の受領を人々に強制する政策である。国家支払手段の機能を朝廷は期待しており、一般的な交換手段の機能を第一の目的とはしていない」 (P.15)と述べられている。古代朝廷による銭の還流政策の失敗、材料の銅不足、そして何よりは古代朝廷の建設事業の中止による国家支払手段の喪失を持って、貨幣発行は停止してしまった。
十二世紀から十六世紀にかけての中世では、中国から渡来銭が大量に日本に流入した。到来の波は南宋、金、元からの三つの大きな波があり、いずれも歴代王朝が銭の使用禁止、紙幣政策の採用によって、大陸から押し出される形で日本に中国銭が渡来した。古代における国家支払手段としての銭とは違い、勝手に社会で渡来銭が自律的に流通したのが中世の特徴である。(P.28-P.45)
中世全般にかけて、民間の貨幣需要に対して渡来銭による貨幣供給が不足気味だった。その不足を補うために、私鋳銭の製造や割符や祠堂銭預状といった紙媒体の紙幣普及、さらに紙さえ使わない口頭による信用取引が誕生した。中世の大きな特徴として、支払決済時に特定の銭の受取りを拒否する撰銭があり、中世では撰銭が頻発していた。人々の撰銭に対して、戦国大名は撰銭令を出して撰銭行為をやめさせようとした。本書では、信長による撰銭令が大きく取り扱われており、撰銭令を出したにも関わらず、人々は信長が禁止した米の通貨利用をやめなかった。(P.74~P.78) 信長、そして後を継いだ豊臣秀吉は、ビタ(はたかけ(端が破損)、ひらめ(無文銭)、ころ(加治木銭)、へいら(仕上がりが粗末な銭)を除いた特定の低品質銭以外すべて)を基準銭として流通させて撰銭による銭の階層化を平準化させる政策を採った。しかし、これはビタを基準銭とする社会慣行の後追いである。(P.79~P.84) このように時の権力が銭の社会慣行を追認するというのは、日本の貨幣史に多く見られた現象である。
豊臣政権後に、家康によって、江戸幕府が開幕。江戸幕府は金貨、銀貨、銭を製造して三貨制度が成立する。製造年代を見ると、1601年に慶長金、慶長銀の製造開始、1636年に庶民が使う寛永通宝が製造を開始する。寛永通宝発行の前年に参勤交代が開始しており、参勤交代時の宿場での両替のための寛永通貨発行、つまり武士階層のための交通対策であったと述べられている。金貨・銀貨の発行先行は主に「財政需要に基づくものであり、庶民の通貨需要は後回しであった」(P.93)と述べられている。
国内の鉱山資源の枯渇、海外貿易による貨幣流出(金貨・銀貨・銅銭そのものが「商品」として輸出されていた)と幕府財政赤字化により、綱吉政権下で荻原重秀が主導して貨幣の改鋳が行なわれる。元禄の貨幣改鋳である。萩原による元禄の貨幣改鋳は、通貨流通量を増やすのが主目的だったとリフレ派の学者、エコノミストによって唱えられているが、やはり出目(通貨発行益、マネタリ―・シニョリッジ)獲得による財政ファイナンスが主目的で、通貨流通量の増大策は副次的なものだったと個人的には思う。筆者によれば、「この後も幕府の通貨政策の基本路線は江戸に住む将軍や大名の財政対策であり、彼らの利害に基づく。庶民の保護という発想はなく、あったとしても二次的だった。」(P.123) との事だ。綱吉政権下での貨幣改鋳はその後の金貨・銀貨の名目貨幣化の先駆けになった。
荻原重秀失脚後の新井白石による「反動」政策を除いて、その後の幕府の貨幣改鋳では貨幣の質は落とし続けられた。徳川吉宗による享保の改革後期での貨幣改鋳を経て、田沼意次が政治を主導した田沼時代に至る。田沼意次、勘定奉行の川井久敬の主導によって、1772年(明和九年)に明和二朱銀が作られる。明和二朱銀には「これ八枚を小判一枚に兌換する」という表記があり、1/8両=金貨二朱に相当する計数貨幣である。銀製だが金貨の単位を持つ計数貨幣を、金貨単位計数銀貨と呼んでいる。(P.139) 明和二朱銀は普及して成功だった。田沼の通貨政策は、明和二朱銀という金貨単位計算銀貨の普及により、金貨が実質的に一元化して、(疑似)金本位制に近づいたと本書では大きく評価されている。(P.109) 田沼意次失脚後に松平忠邦の天保の改革を経て、十一代将軍家斉の下で、1818年に水野忠成が老中に就任した。忠成は田沼派の系譜に当る。忠成は発行益獲得による財政補填のために、貨幣を改鋳して多くの種類の貨幣を製造させた。本書では、田沼意次についで水野忠成が大きく評価されている。「これら通貨が供給されたことが、近代に向けて庶民経済が発展する契機となった。通貨供給による幕府の財政収入(発行益)増加→財政支出増加→通貨供給量増加→物価上昇→商品(農産加工品)生産増加→国民一人あたりの所得増加というプロセスが発生したからである」(P.152) このサイクルがうまく回ったことで、経済は成長して化生文化が栄えたとされている。
1853年にペリーが来航、1858年に日米修好条約調印により、自由貿易が開始される。開国前の幕府の対外通貨交渉の失敗により、多くの金貨が海外に流出して、それが倒幕の遠因になった(例えば、佐藤雅美『大君の通貨』など)と以前は考えられていたが、最近の研究だと、金貨流出は、従来の研究の推定より少ないと考えられているようだ。(P.174) 幕府崩壊後に明治政府が成立、日本銀行成立前の太政官金札発行といった過渡期を経て、1882年に日本銀行が成立。1897年に日清戦争後の賠償「金」により日本は金本位制へ移行する。その後に、太平洋戦争、高度成長を経て現代にいたるというのが大まかな流れだ。
全体的な感想としては、専門が中世史、近世史の先生なので、中世・近世に多くの記述が割かれている。明治時代以降の描写は駆け足気味。一層のこと、明治時代で記述を切ってしまっても良かったのではと思うところがある。内容が詰め込み過ぎなのが気になった。前に読んだ東野浩之『貨幣の日本史』の方が記述はあっさりしているかな。初めて貨幣史の本を読む人はあちらの方がいいかもしれない。内容はしっかりしたもので手堅い記述となっている。参考文献が8ページに及び、そこはとても誠実である。より学びたい人はここから多くの書籍に触れられるだろう。某経済評論家が「経済で学ぶ日本史」と称して五冊を抱き合わせ販売しているが、そんなものを読んで時間を空費するよりは、本書を読んで参考文献に当るのが遥かに賢明であろう。本書は、貨幣史への最初のステップとして激しくお薦めです。
評点 8点 / 10点
Posted by ブクログ
古代の無文銀銭、富本銭から現代の電子マネーまで、「通貨」を通して日本の歴史を振り返っている。中世の輸入銭をはじめ、民間での通貨創造の動きを政府が追認し採用するということが繰り返されてきたということが理解できた。
鎌倉の大仏の原料は宋銭であったであるとか、江戸時代に四文銭の発行に合わせて「四文屋」というワンコインショップが登場したであるとか、通貨をめぐる興味深い豆知識も多く、知的好奇心をくすぐられる面白い一冊だった。
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通貨から見た日本の通史。当時の経済状況を通貨の需給状況の関係から説明している点がよい。現在の日本の通貨をめぐる状況は整理されすぎているため、過去の複雑な通貨の状況を我々は理解できなくなっているのではないか。通貨とは、貨幣とは何か、という点については数百年前の日本人のほうがよく理解しているように思える。
Posted by ブクログ
通貨とは一般的に「政府の独占事業」と言われているが、古来永劫的にそうであったわけではない。むしろ通貨制度の黎明期は大衆先行型で、政府はそれを追認するケースが多かった。これは意外である。なにしろ、天皇支配、武家社会という専制君主的時代に、政府機能が大衆をコントロールできなかったということを意味するからだ。プロセスが異なれど、西洋のように金銀を基軸に通貨を考える時代を経てきているのも面白い。結局人間、考えることは同じ。
Posted by ブクログ
<目次>
第1章 銭の登場~古代から中世
第2章 三貨制度の形成~戦国から江戸前期
第3章 江戸の財政再建と通貨政策~江戸中期から後期
第4章 円の時代へ~幕末維新から現代
<内容>
通貨の視点から日本の経済史を追っかける本。入り色と教えていて疑問だったところなどが解明したり、かなりの雑学的知識が盛り込まれていたり(江戸時代の銀貨ははさみで切って使っていたなど)、予想以上に面白かったし、授業で使える。明治以降の金本位制と銀本位制の関係(東アジアは銀本位制だから銀兌換だったとか)、日清戦争の賠償金はロンドンに送られ、日本は「金貨流通のない金本位制」だったとか…。
Posted by ブクログ
今まで学んできた日本の歴史の中で、その姿は見えてはいましたが(両や小判などの言葉で)、それがどのように使われていて、どこが管理と発行をしていたのかについては置き去りにされていたように感じます。日本始めあたりに使われていたという和同開珎については教科書では知ってはいたものの、その使われ方については書かれてはいなかったように思います。本書はそのような謎(?)とも言える日本の通貨について、時期を追って丁寧に解説されています。なるほど、この時代はこのようにお金が流通していたのかということが整理して学ぶことができました。どのようにして今の円ができたのかなど、興味深く読むことができました。