あらすじ
2019年2月24日に永眠されたドナルド・キーンさん。キーンさんから愛する日本人へのラストメッセージ!
「オペラは一生のものです。同じオペラを何回観ても、いつも新しい発見と感動があります。それが本物の芸術の証だと思います」(本文より)
キーンさんが初めてオペラを観たのは15歳のとき。友達と連れ立って野外劇場で《カルメン》を観たキーンさんは、それまで上流社交界のものだと思っていたオペラが、ほかの舞台芸術にくらべてこんなに感動的だったのかと驚き、夢中になります。
15歳から96歳まで、長きにわたり、日本とオペラをこよなく愛したキーンさん。東劇のMETライブビューイングでは、上映前に一般のお客さんに向けて上演予定のオペラ作品の解説をなさることもしばしばでしたし、かつて雑誌『レコード芸術』などの常連筆者でもありました。日本文学研究の第一人者というだけでなく、熱狂的なオペラファンというもう一つの顔があったのです。オペラがかかると、嬉しくなって踊りだすキーンさんはまるで少年のようで、目がキラキラ輝いていました。
戦時下、ナチスがヨーロッパを支配しているときに見た『フィデリオ』の思い出、マリア・カラスの声を生で聴いたときの驚き、三島由紀夫さんと語りあったオペラのこと、光源氏とドン・ジョヴァンニの比較論……。
日本と芸術をこよなく愛した、D・キーンさんからの最後の贈り物です!
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
今年亡くなったドナルド・キーンさんの最後のエッセイ。
彼はオペラの愛好家で、本職の日本文学と同様にオペラを愛し、深い洞察力を持った聴き手だったようです。この本には、彼のオペラとの出会いからニューヨークメトロポリタンオペラ(MET)でのオペラ鑑賞の日々、コンサートの記録、曲の内容や歌手の評価など、人生に大きく影響を与えた音楽の世界を紹介しています。
音楽の聴き方や歌手の特徴等には、多少マニアックなところがあって、正直、私のような素人にとっては、彼が取り上げた全く知らないオペラや歌手の評価を読んでみても実感が伴わない感じがあります。でもオペラ好きの人にとっては、とても楽しめる内容ではないかと思います。
今年亡くなってとても残念ですが、最後にこのような本を残してくれて、彼のファンとしては、大変有難く思いました。紹介されている曲のいくつかは聴いてみたいと思います。
因みに、私が好きなオペラは、モーツァルトの「魔笛」です。
オペラ初心者向けのファンタジーで、何度も聞いた大好きな曲ですが、キーンさんにはこのオペラは眼中に無かったようで、一言も触れられていなかったのが残念でした。
Posted by ブクログ
借りたもの。
キーン氏のオペラ・エッセイ。
オペラに魅了され、METの会員になった経緯や、名作の解説、往年の声楽家たちへの敬意など、読みやすく読み応えのある一冊。
METの歴史も垣間見れる。
先の大戦で戦禍を逃れるためアメリカに渡ったヨーロッパの芸術家たち。それが戦後アメリカに質の高いオペラをもたらしたこと。
そしてオペラには新しい試みをする機会を与えたことを理解する。
モダンな時代設定への変更が、現代人へ親近感を持たせるものではない、という苦言も呈している。
オペラにある古典王道の安心感や、その異界(今、私たちが生活しているリアルとは異なる)への冒険があること
上演時と同時代設定の場合、当時の価値観を知らないと、その本質が伝わらないのではないか……
オペラに関する問題提起や解釈が投げ掛けられる。
光源氏(女性への繊細な心遣いがある色男)とドン・ジョパンニ(女を取っ替え引っ替えするだけの好色)の対比。
『第四章 オペラへの誘い 作品論』は必読。
名作のあらすじ、解説が読みやすく、読んでいてワクワクする。
オペラの奥深さを知る導入として、良い。
プッチーニ『蝶々夫人』創作時の考察など。
アメリカの古きよき時代?の文化の片鱗をみた。