あらすじ
「キッシンジャー一家が1938年夏に捨てた国とたどりついた国は、何から何まで対照的だった。ヒトラーの冷酷な手に握られたドイツは無秩序と暴力の奈落に落ちる瀬戸際だったが、アメリカは“幸せな日々は再び”やってくる国である。
これは、1932年の大統領選のテーマ曲としてフランクリン・ルーズベルトが選んだ歌で、フランク・シナトラが歌っている。」(本書第3章「ハドソンのフュルト」から)
2015年ファイナンシャルタイムズ選出ベストブック。上下巻合計1300ページ。キッシンジャーがドイツ・バイエルン州北西部にある工業都市フュルトに生まれ、ニクソン政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官に指名される1968年までを描く。
1969年以降を扱うKISSINGER:The Realist は続刊。
当代屈指の歴史家ニーアル・ファーガソンによる「世界を動かした男」の超弩級評伝。ユダヤ人を迫害するナチスから逃れ、一家で米国に移住したキッシンジャー少年は、第二次世界大戦末期に米陸軍二等兵として母国ドイツの土を踏み、ホロコーストを目撃する。
戦後、ハーバード大学で政治学を学び、核戦力研究で頭角を現す。不世出の学者・政治家キッシンジャーの原点となる前半生を膨大な資料から浮き彫りにする。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
20世紀後半の現代史を語る上でのキーパーソンの一人といっても過言ではないヘンリー・キッシンジャー。ニクソン政権での国家安全保障問題担当大統領補佐官として、ベトナム戦争終結の功績でノーベル平和賞を受賞し、その後もアメリカ外交に大きな影響力を持ったキッシンジャーの評伝が本書である。
"The Idealis-理想主義者"と銘打たれた本書の上巻は、出生した1923年から1958年、ハーバード大学の博士課程を修了し、徐々に外交のスペシャリストとして頭角を表すまでの”青の時代”が中心である。
上巻の白眉は、第二次世界大戦における欧州の戦場に従軍した時代のエピソードである。ユダヤ系ドイツ人としてホロコーストの危険性をいち早く察知し、アメリカに亡命することに成功した彼が、二等兵として目にした強制収容所における同胞の悲劇をどう受け止めたのかというシーンは、極めて印象的。そうした個人的体験と、自身の政治思想との安易な関連性を繰り返しキッシンジャー自身は否定するが、それでもこの経験が彼の政治思想に与えた影響は見過ごすことができないだろう。
結局のところ、人間は善か悪かという二項対立の中で生きているのではなく、仮に悪だとしてもその中で無数のバリエーションがある。人が死ぬことが悪だとしても、1,000人が死ぬ可能性のある案よりも100人で済む案があるなら、迷うことなくそちらを選ぶというキッシンジャーの思想はここから生まれたのかもしれない。下巻では、政治の表舞台に立った彼の活躍について。