あらすじ
生まれ育った生家へ、子どもの頃のままで帰りたい――戦時中、家の下に穴を掘り続けた退役軍人の父が、その後も無器用に居据っていたあの生家へ。世間になじめず、生きていることさえ恥ずかしく思う屈託した男が、生家に呪縛されながら、居場所を求めて放浪した青春の日々を、シュールレアリスム的な夢のイメージを交えながら回想する、連作11篇。虚実織り交ぜた独自の語りで、心弱き庶民の心情に迫った、戦後最後の無頼派の名作
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Posted by ブクログ
「屈託」は色川武大が作中よく用いる言葉だし、彼の文学をよく表していると思う。
「屈託」意味―
1 ある一つのことばかりが気にかかって他のことが手につかないこと。くよくよすること。
2 疲れて飽きること。また、することもなく、退屈すること。
例えば色川は頭のかたちが悪くて、子供のころでんぐり返しをこばんだというエピソードが出てくる。
これも屈託、だけど他人には何のことやらわからない。
だけでなく、自分自身だって何にこだわっているのかそれはわからないが、どうしてもこだわっているってなことがあると思う。
こだわりと退屈という意味が同居しているのが、この言葉のおもしろいところだと思う。
こだわりって実は退屈なことだ。家のなかにひたすら穴を掘ったところで、それでどうなるってもんじゃない。自分でも分かってる。でもそうせざるをえない。その予定調和が退屈だ。
人のこだわりなど、他人からすればなおさら退屈なことにちがいない。「何をこだわっているんだ、こいつは」それは他人にはわかりっこないから、こだわりで来られると意思の疎通なんてできっこない。