あらすじ
「人間を超えるものの認識なしにこうした歌が読めるであろうか」ーー。式子内親王の3つの「百首歌」、少ない贈答歌などへの細やかな考察を通し、詩人の特性、女として人としての成長、歌境・表現の深化・醇化を「思うままの作品鑑賞」で綴る。三十一文字に自己の心と想念を添わせ、独創的な視点と豊かな感性で展開する「式子内親王」「永福門院」「いま一章、和歌について」を収録した名評論集。平林たい子賞受賞作。
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Posted by ブクログ
筑摩書房 日本詩人選
竹西寛子 「 式子内親王 」
内親王の作品解説の本
内親王作品の特性を「透明な複雑さ」「静の中の動」「すべては 途中という時間感覚」「夢の歌人」という表現で示している。このイメージでよむと 歌の理解が進む
内親王の詩境の推移は、人生を幻と見ることから始まり、後白河院の死を契機に、微かに移りゆく自然から秩序を観るに至り、「夢の歌人」として、闇に誘われ 闇に親和する人間への悔いと怖れを 深い夜の夢に託した
見しことも見ぬ 行末もかりそめの枕に浮かぶ まぼろしの中
*まぼろし=幻影〜人生を幻と見た
*見てきた現実も、まだ見てない現実も、かりそめの枕に浮かぶ幻
*まぼろしの中のかりそめ=二重の間接法→非永続性、流動性を強める
*この世の事物の定めのなさ、運動の途中でしかない人生
浮雲を風にまかする 大空の行方も知らぬ果ぞ悲しき
*内親王が多用する「まかす」「行方も知らず」が同時に使われている
斧の柄の朽ちし昔は遠けれど ありしにもあらぬ世をもふるかな
*後白河院の死にちなむ歌
*ありしにもあらぬ世に生きる〜院と死別して 皇女として表明
山深み春とも知らぬ松の戸に絶え絶えかかる雪の玉水
*透明な複雑さがひろがり続ける
*「静中の動」としての玉水の動き*水(移りゆく自然)を見ることに徹すれば、世界の秩序を見ることができる
尋ぬべき道こそなけれ人知れず心は馴れて行き返れども
*心は馴れて行き返れども=自分一人の思いの行き返り
*道こそなけれ=逢う手段もないまま、一つの面影にひかれては戻る心
しづかなる暁ごとに見渡せばまだ深き夜の夢ぞ悲しき
*深き夜の夢=煩悩の夢、この世の迷い
はかなしや枕さだめぬ うたたねに ほのかにかよふ夢の通い路
*ほのかにかよふ=動の相(静かに動き続けている)
*うたたね=粗雑な目や耳なら気付かない微かな動き
暁のゆふつけ鳥ぞあはれなる長き眠りを思う枕に
*深き夜と静かな暁の対置
*闇に誘われ、闇に親和する人間への悔いと怖れを 深い夜の夢に託した