あらすじ
表題作を含む6つの短篇恐怖小説集。得体の知れない恐怖が背中に貼りつき、うごめき続ける。三津田怪異ホラーの戦慄が読者を待つ。
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Posted by ブクログ
三津田信三の怪談の短編集。
怪談は本来短いもの(背景やその後が不明なことが怖さにつながる)であると思うので、こういう形の短編集と相性が良いように思う。
解説では本作について「幽霊屋敷」を強調しているが、私はそう思わない。これまでの三津田の作品の印象に引きずられすぎだと思う。
確かに建物の中の話は多いが、怪談の構造的に「閉鎖空間」で事が起こるというものが多くなるだけではないか、と思う。
自由な空間で逃げても追いかけてくるという話も怖いが、すぐには逃げられない場所での怪異や、「逃げ出せた」とホッとした後に追いかけてくる方が心理的な効果が高いように思える。”枠”のなかで起きていた(と思っていた)現象が外に溢れてくるのは、現象の質に変化が生じたことになり、恐怖が引き立つ。
短編集などでは、各話の配置、順番が大事(ソコに編者の腕が光る)だと読んだことがあるが、本作は最初の2つの話でそれを感じたように思う。
最初の話は登場人物の語りであったが、2つ目の話は著者が自分で語っているテイストになっている。
1つ目と2つ目で文章がガラリと変わるのだ。
自分の印象に強く残っていることもあるが、この変化で『首無しの如き〜』の入れ替わりトリックを思い出しながら、作者の物書きとしての力量を見せつけられたように思う。
刀城言耶シリーズとは別の作品を読んで、三津田作品の評価をしたいと思ったが、これも大当たりで、今後は迷うことなく買い続けて良いと思った。
作中に「怖いもの」について、「合理的なミステリーも不条理なホラーも」という言葉が出てくるが、三津田はそのどちらに軸足を持って行ってもしっかりと書ける(ホラー風味のミステリーでも、ミステリーもどきのホラーでもない)真の意味でのハイブリッドであろうと思う。
そして、私はその文中の言葉にハッとさせられた感じがする。ホラーにおいても無理のない合理的な思考をすることで、事の不条理さが浮き彫りとなり、ホラーを際立たせているのでは無いかと感じた。
そして、私が三津田作品が好きな理由が明確にわかった気がした。
ホラー作品で嫌いなのは理性的な行動をせずに状況を悪化させるバカなキャラクターの存在だ。バカな行動も、その心理に共感できるならば許容できるのだが、イライラさせられる作品ではその描写がたいしたことが無い。言ってしまえば作者の力量不足だ。作者の力量がたいしたことが無いので、無理矢理な行動でホラー的な展開に持って行こうとすると感じる。
三津田作品ではこうしたイライラを感じない。そして怖い、気味が悪い。それが良いのだ。