【感想・ネタバレ】雪子さんの足音のレビュー

あらすじ

東京に出張した僕は、新聞記事で、大学時代を過ごした高円寺のアパートの大家の雪子さんが、熱中症でひとり亡くなったことを知った。20年ぶりにアパートを訪ねようと向かう道で、僕は、当時の日々を思い出していく。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

人との距離感というのは難しい。押し付けず嘘をつかず相手の気持ちを考えながら誠実に向き合う。程度の差はあれ完璧にこれをこなしている人は実は少ないのかもしれない。みんなどこかで矛盾しながらも人間関係を成立させているのかな、なんて事を考えた。

にしても雪子さんは極端だし薫は甘え過ぎだ

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2022年12月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

強烈で個性的で愛すべき人たち。
若い下宿生の世話を食事から小遣いまでお節介なほど焼いてしまう、寂しき老女の大家・雪子さん。悪気ではないまでもその好意をある種の狡さと割り切りで受け入れてしまう男子下宿人・薫。薫に女として迫ってみるも、まるで相手にされないOLの小野田さん。
ユーモラスにして、可笑しさと哀しさを兼ね備えた、読み応え十分な物語。その強いオリジナリティが、楽しめた。
※映画の方も、吉行和子主演で、これまた良かった。

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2019年06月04日

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ネタバレ

公務員の遊佐薫は、20年前に住んでいたアパートの大家さんが熱中症で孤独死したことを、出張先のホテルの朝刊で知る。
川島雪子(90)
眠るように死んで、まだきれいなままで下宿人に発見されたい、というのが彼女の夢だったが…
(たぶん、眠れる森の美女みたいな自分を妄想していたのだろう)
死後一週間は発見されなかったらしい。
下宿人ではなく、連絡がつかなくなったことを不審に思った親戚によって発見されたのだった。
薫は、自分がアパートを飛び出すきっかけになった、大家の過干渉に思いをはせる。

他人がプライベートに踏み込むことをどこまで許せるかによって、この本の感想…雪子さんや主人公の薫に対する印象も変わるのではないかと思う。
私にとっては、ホラー。牡丹灯篭レベルの。
(この本のジャンルはホラーではありません、念のため)
しかし、怪異に取り憑かれるのは、やはり隙があるからなのだ。
しおらしくされ、「断ったら可哀想だから」
利益になること、手っ取り早くならばお金を惜しげもなくくれることに「都合のいいところだけ利用すればいい」
そんな気持ちの裏側にするりと滑り込まれる。
毎日食事に誘われたり、美術館に行くと言ったら付いてきたり、足音で帰りの時間をチェックされたり、恋人はいるのかとしつこく詮索されたり。
留守の間に部屋が掃除され、ゴミ箱の中のものを保管される。
私だったらすぐに出る。
ごはんもお小遣いもいらない。
子供が引きこもりの暴力息子になってしまったのも、世話しすぎのせいだったんじゃないかと思ってしまう。

江戸時代の大家さんは、親代わりのように店子の面倒を見たというけれど、雪子さんの場合はそういうものではない。
恋愛の方は小野田さんを使って代用しているみたいだが、金持ちの老婆が若者に恋して、金をつぎ込むことで歓心を得ようとしているのと似ている。
雪子さんは全くそのつもりはないのだが、見ようによってはそう見えてしまう。
つまり、女二人がかりで取り憑かれていたようなもの。
小野田さんも非常に不気味だ。

しかし、食事の誘いも最初から断って、ドライな関係を維持している住人もいる。
雪子さんも薫も、お互いに距離の取り方に失敗したのだ。

20年たって振り返れば、色あせた写真の中のような思い出だ。
“今思い出してもぞっとする”という印象ではない、過去として薄れた感がちょうどいい。
しかし、近づいてくる女性をどこかで警戒してしまうようになったのは、月光荘であったことが薫に全く影を落としていないわけではない、ということだろう。
いまや40代で独身。
チラッと遠い未来の自分のことが頭をかすめたりもするのだ。
…やはり、そこはかとなく怖いのかな?

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2018年09月27日

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ネタバレ

木村紅美さんの『雪子さんの足音』を読みました。

主人公「薫」はモラトリアムの時代を表現(文学)に逃げていますが、作品を書くことはできていません。彼は人の親切を無批判に受け入れ、時折、他人を傷つけます。彼は真面目ですが客観的にはダメな人間といえます。彼のパーソナリティについて、人として共感できる点は少ないですが、作品に欠かせない主人公としてとても面白く読みました。社会的にも学業にもひた向きではなく、他者との距離感も失敗した普通の学生が描かれています。これも得難い若さといえると思います。

> 東京に出張した薫は、新聞記事で、大学時代を過ごしたアパートの大家・雪子さんが、熱中症でひとり亡くなったことを知った。 20年ぶりにアパートに向かう道で、彼は、当時の日々を思い出していく。

主人公 薫 は大学時代に住んだ「月光莊」の大家さん雪子がなくなったことを新聞記事で知ります。この作品は彼の邂逅の物語です。

> こちらへ降りて詰め寄ってきた。つぼでも押すように手首に触れられ、背中を冷や汗が伝う。年寄りの大家を邪慳に振り払えるわけもない。 「うちですませるほうが栄養のバランスが取れるし、お代も浮くでしょうに。病気にならないか心配」 「病気? まさか」 「偏った食事は、将来、糖尿や何やを誘発しやすくなるのよ。もちろん、無理強いするつもりはありませんけど」  冷静に考えると、仕送りを節約できるのは魅力だった。向こうは若い人に接するのが生き甲斐と化していて、互いに純粋に得するだけだと言い聞かせた。 「じゃあ、お言葉に甘えて」

「大家さんの雪子さん」と同じく月光莊に住んでいる「小野田さん」は、何かと彼に世話を焼きます。薫はそのような始めのころは辟易しますが、食事代が浮くという打算的な理由でその申し出を拒むことはありませんでした。彼は悪い人間ではありませんが、このような好意を受け入れることに対して遠慮がありません。

若いころにはあまり他人への思慮や遠慮がないものですよね。彼のこのような態度は「小野田さん」の思慕を引き寄せます。彼女「小野田さん」も人との距離の取り方に難があるようで一方的に性的な関係を求めてきますが主人公はそれを断ります。結果として彼女の間には溝が生まれます。「小野田さん」が段階的に発展を図るかたちの愛情表現ができないことに哀しさを覚えます。彼女も苦しんでいると考えます。

> 「小野田さんが帰国次第、手紙のやりとりに戻す、と約束しましたよね? もう、つきあってられないです。頼んでもないのに洗濯機カバーを換えたり、掃除とか、今後は一切止めてください」  雪子さんは疲れのあらわなよどんだ眼を、てんで文句が通じていなさそうにしばたたかせた。演技に感じさせない。 「洗濯機……、掃除? なんのことなの」 「わかっているくせに」  口の端がほころび、いたずらっぽく微笑まれた。 「もし、知らないうちにお部屋が片づいていたのだとしたら、執筆を助けたい妖精のしわざではないかしら」  ふざけている。いよいよ、電車がホームへすべりこんだ。

彼は彼女たちの行為を一方的なかたちで打ち切ります。「雪子さん」のおせっかいは純粋に彼を思ってのことだったのですが彼を追い詰めることになります。

いい加減、重箱の底まで行き当たるころだろうと期待し箸のさきで探ると、そこにはまだ焦げ目のついた脂の固まってきた鰻が埋もれ、その下には、たれの染みたごはん粒が敷き詰められている。勿体なくて投げ出すわけにはいかない。 「わたしがあなたと同じ齢のころは、東京はなにも食べるものがなくなって飢えた経験があるから。つい、あなたにも小野田さんにも、栄養失調だった自分や、ほんとに不憫なことに飢えて亡くなった同世代の人たちの代わりとして、たらふく食べてもらいたくなるの。……飢え、というのは、それはそれはつらいから」

人は若かりし頃、未熟で人との距離感に悩み、間接的に人を傷つけてしまうという当たり前の人物が描かれています。おそらくは大正生まれの親切な雪子さんと平成の若者(薫・小野田さん)の断絶や距離感、雪子さんが感じたであろう時代(哀しさ)がよく表現されていると思います。とても面白い作品でした。

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2018年01月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

第158回芥川賞候補作。「おらおらでひとりいぐも」もそうだったけど、芥川賞候補にしては読みやすく、分かりやすい。私は、こちらの方が好きだけどね。
すんなり読めるけど、時々心にクッと引っ掛かりを残す文章とかがあって、手を止めて「あ~そうだよね」と考えたりしながら読んだ。
最後もあっさり終わるのだけど、読後感が不思議と良く、なんだかうっすら希望のようなものまで見えて、いい感じで本を閉じられた。

薫が出て行ってからの月光荘の後日談を是非読んでみたいものです。

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2018年07月06日

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