あらすじ
世界恐慌や世界戦争の危機が見込まれる現在、政治や文化に関する能力を国民は身につける必要がある!そして、良き保守思想の発達した国家でなければ良き軍隊をもつことはできない、と老師・ニシベは我々日本人に警告をする。アリストテレス、マキャベッリ、ガンディ、チェスタトン、福沢諭吉、中江兆民など古今東西の巨人の叡智から戦後日本の政治・経済政策まで、保守思想の真実を語り尽くす大思想家・ニシベ最期の書。
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BSフジのプライムニュースに出演していたことから著者を知る。圧倒的な知識量と思考に感銘。自死を選択した方だがもっとテレビで直接話を聞きたかった。
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時代を象徴する長文の遺書。
読み始めて思いました・・・
「これは絶筆宣言だよね。それを新書で出すとは・・・」
否、多くの読み手を考えて(私のような貧乏人も居る)
敢えて新書版として出されておるのだ・・・等と。
気合の入り方が違うがな・・・当初より自死を予定していらっしゃいますがな・・・
手書きがもう出来ない、西部先生の選んだ必然なのやも等と
市井の末席を汚す阿呆は思うわけです。
同時に己の阿呆さ加減にも嘆く始末ですよ。
もうちっと考えが及ばんのかいなと。
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西部邁という人物と保守という概念を改めて理解したく読んだ。保守とは何かというより過去から現代まで人間がどのように物事を捉え、思想や価値観への意味づけを行って来たかが、とてもその流れを把握しての解説書と行った感じだった。
長寿を考える時、それは生き方と死に方を考えるということとのメッセージが刺さった。
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モダンの訳語は近代的ではなく、「模流」である。明治維新後、日本は西欧を模倣し、社会を築いてきた。それが特に戦後さらに社会に表面化し、ここ30年に至ってはマスメンたちが流されるままに社会を変革してきた。理想を求めれば格差や軋轢が生じ、現実主義ばかりでは自由や権理が埋没する。その間には平衡が必要であり、活力、公正、節度、良識の観念をその国家の伝統から導き、その具体化について状況の中で試行錯誤しながら吟味することが要求される。
私はここ30年程度の状況しか見ていない世代であり、戦後の時代の流れを一部しか実感できてはいない。しかし、リーマンショック後、日本以外では行き過ぎたグローバリズムを抑制する動きがある中で、この国ではその中でも構造改革を推進し、国民が結果的にそれを支持している。少数の意見は排除され、無関心が慣習となり、多数者の専制が行われている。オルテガが言うように「絶望するものの数が増えることだけが希望である」のかもしれないが、国家や政治について議論をするのがタブー化している状況では先は明るくない。
さて、相変わらず著者の記述にはカタカナ語も多く読むのに苦労するが、著者が生きていれば、このコロナ禍やウクライナの状況をどう評論していただろうか。世の中の状況を的確に厳しく評論する人が少なくなっている中で惜しい人を亡くしたものである。
本書の中で、著者と私の意見が異なるものの1つで、核武装論を著者は唱えているが、勿論その議論はあって然るべきだが、核保有が周辺国への抑止力に果たして繋がるのだろうか。核があろうがなかろうが、国家として侵略や武器の使用は起こりえるし、核を含めて国家の防衛、安全保障全体、そして現憲法を議論し、考える。その環境をまずを整えなければならないと感じる。
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日本保守思想界の重鎮。最期の著作となった。Tokyo MX系列の言論番組は大学時代に観ていた唯一少ない番組だ。
「バランスとは、矛盾せる両方向への姿勢をそれぞれ最高度に保ちつつ、その間に生じる緊張を巧みに乗り越えていくということにほかならない。ここで「巧み」というのは両者を総合する言葉と行為を新たに作り出していくという意味で、過去への創造力と未来への創造力とを結びつけようとする努力のことを指す。」
世の中白か黒かではなく、常に柔軟に判断して、グレーを作り出す或いは認める姿勢が非常に大事であるというのは非常に共感できる考えだ。
先日自殺したという話を聞き、本書にて彼の「自裁死」への思想を知った。何を思って自殺に至ったのかがはっきり分かる文章で、感心すると同時に「ここまでブレないというのはある意味危険な人だな。」という思いを持たずにはいられなかった。
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私自身、『大衆への反逆』を読んだ学生時代以来、『ソシオ・エコノミクス』など西部邁さんの著作に親しんできた。 テレビによく登場するようになってからは少し遠ざかったが、明晰で力強い語り口ははっきりと印象に残っている。
社会科学、なかでも経済学を通して社会を見つめてきたわけだが、なんとでも立論できる社会科学の怪しげで「チャチな」モデル設計には一貫して否定的な態度をとってきた。 また、テクノロジーの進展がそもそも人間に何をもたらすのか、それはロボット化でありサイボーグ化であることへの警鐘も鳴らし続けてきた。 つまりは怪しげな言説がまかり通り、そして人間が衰退していく現代大衆社会の行きつく先を悲観をもってとらえていた。世間にさまざまな「神話」が流布される中、西部さんの言葉を振り返り、現実を見て、神話を疑ってみることが大切ではないか。
また、自身は去る1月21日に多摩川で入水自殺され、この著作が最後の語りとなった。 今般の自裁死に関しては何も言うことがないが、体調なども思わしくないなかで「自分で決める」という態度を貫いた結果かと思う。
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アメリカ人に同胞が大量に撃たれ、空襲で一般市民たちが焼かれたことを考えると、感情ではなく、アメリカのやり口には一定の批判精神、マナーとしての反米を絶やさずに持ち続けたい。p.96 西部邁(にしべ・すすむ)『反米という作法』2002
左翼とは自由・平等・友愛・合理という価値に強く執着し、根本から疑うことを絶対にしない類の思想のこと。左翼にとって現実とは変革にたいする制約条件であり、旧体制の維持がその目的になることはない。▼「反政府」と「反国家」は同じではない。西部邁『どんな左翼にもいささかも同意できない18の理由』2013
新自由主義を支持する人は保守ではない。普遍的な原則に基づく画一的でグローバルな世界よりも、国民国家から構成されるモザイク状のインターナショナルな世界の方がいい。▼アメリカ(ブッシュ政権)は各国の歴史や多様性を顧みずに、原理原則(自由や民主主義)を世界に画一的に広めようとしている。▼現行憲法は「普遍的」人権を謳っているにもかかわらず、最貧国の人々の生活は保障していない。そんなことをすれば、国家自体が成り立たない。だから普遍的人権は空文に等しい。理性だけで現実の世界を設計することはできない。▼ルソーの一般意志・マルクス主義・新自由主義はいずれも合理主義に基づいた改造であり、秩序を破壊するもの。中野剛志『保守とは何だろうか』2013 ★4
松下政経塾。人間社会の複雑さや歴史の継続を軽視、技術知の適用で問題が解決できると考える傾向。p.31 中島岳志『リベラル保守宣言』2015 ★4
冷戦は競争的・自由主義的な進歩主義アメリカと、計画的・平等主義の進歩主義ソ連の対立だった。どちらも進歩主義。佐伯啓思さえき・けいし『保守のゆくえ』2018
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西部邁『思想の英雄たち』★3
佐伯啓思『日本の愛国心』★3
中島岳志『NHK「100分de名著」ブックス オルテガ 大衆の反逆』★4
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2018年1月にみずから死をえらんだ保守思想家が、最後の思索を語っている本です。
本書の最後には著者の死生観が述べられており、どのような考えにもとづいて自裁という道をえらんだのかということをうかがうことができます。
『人間論』(PHP文庫)や『知性の構造』(ハルキ文庫)といった著作でも語られているように、著者の保守思想は日本の特殊性に依拠するものではなく、むしろ人間の普遍的な知性についての理解にもとづくものだといえるでしょう。本書でも、「TEAMの構造」と呼ばれる知性の「言語論的な構図」が普遍的なものとして示されたうえで、現代日本に特有の偏差を明らかにし、そのことがヨーロッパにおいては存在している「近代」に対する健全な懐疑をうしなわせているという指摘がなされています。著者の「解釈学的転回」についての理解は問題を含んでいるといわざるをえないように思いますが、その思想の核心は本書において明快に示されているといってよいと思います。
ところで、本書のサブタイトルは「老酔狂で語る文明の紊乱」となっていますが、著者は本書のような議論が現代の日本において受け入れられないことを知りつつ、言っておくべきことは言っておかなければならないという決意で、その最後の思索を語っているように思われます。著者は、かつて硬直化した旧来の左翼の言説を舌鋒鋭く批判していましたが、東側世界の崩壊とともに左翼が衰退し、アメリカ由来のグローバリズムがこの国を席捲し、みずからの信じる保守思想を押し流していくこと深い絶望をいだいていたのかもしれません。