あらすじ
本州の中央に位置し、古来、東西の日本をつなぐ要衝だったこの地は、政治・経済・文化にとどまらず、日本史の舞台として重要な意味を持っている。比叡山を頂点とする日本仏教の胎動と展開、信長・秀吉の天下統一への道、バイタリティにあふれる近江商人の活躍、世界に目を向けた近江人気質――。時代を動かすエネルギーを秘めた近江から日本の歴史を描き出す異色の通史。
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Posted by ブクログ
「近江から」読むだけで、知っているはずの日本史が別の顔を見せる。近江は琵琶湖を抱え、東西の交通が収束する"塞ぐと止まる"地勢を持つ。そのため、古代の王権、比叡山を中心とする仏教、惣村の自治や商人の交易、そして壬申・承久・本能寺・関ヶ原といった戦乱が、時代を超えて同じ場所に吸い寄せられる。
本書の面白さは、この「要衝に集中する圧力」と「そこで生き延びる仕組み(自治・商業・情報)」を一本の見取り図にする点にある。創作の目線で読むと、城が湖面に迫る水城の景観、山越え交易の武装キャラバン、村の存続のために"乙名"が名乗り出る自己犠牲、アーカイブを守る中立勢力、忍者ネットワークや外交官の倫理など、ドラマの芯になりうる素材が連続で現れる。
天智期でいえば、白村江後の危機感から大津へ向かう流れや、戸籍編纂のような"国家が人を把握する冷たさ"を都市の空気として描くヒントにもなる。論争点は決着ではなく整理寄りなので、採用する解釈を決めて読むとさらに強い。歴史を「別の足場」から眺め直したい人、物語に深みを与える素材を探している人に、確実に刺さる一冊。