あらすじ
二〇二八年市民皆武装立国法により各家庭には携帯型対空ミサイルが配備。その保守システム管理と故人となった市民のネット内人工人格を消去することが安曇平市役所電算課で働くぼくの仕事だ。家族を捨て出奔した父が孤独死して十数年。ぼくの目の前に現れたのは死んだはずの親父のアバター=ネットファントムだった。
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Posted by ブクログ
私たちは、自分の情報をたくさんネットワーク内に蓄積している。
ブログやSNSならわかりやすいが、実はクラウドという機能によって住所録や写真、好みの音楽も「バックアップ」の名のもとに預けている。
今や「Siri」や「アレクサ」など、「会話する」人工知能が自分の代わりにネットワークで検索する時代。
さらに、オンラインゲームやSNSでおなじみだった「アバター」は、今では「ビジネス」や「メタバース」まで実用の広がりを見せている。
そして自分自身振り返っても、すでに使用していないサービスのアカウントをそのままにしているなんて…ザラだったりして。
緊迫を増す世界情勢と防衛力強化がクローズアップされる昨今、
「大いなる自分探し」と「ヴァーチャルとリアルの境界線」のこの物語も、すでに現実となり始めている……。
Posted by ブクログ
短編と中編の中間くらいの小説三作品で構成されている。面白さもありつつ、副産物の多い読書だった。
世界設定はミサイルが各戸に配備されたというような、いかにもSFっぽい世界で、ネットアバターという人工人格がネットという仮想空間でアプリ的に色んなことを代行してくれる。
みたいな設定。
話の顛末は言わないで、個人的に面白く反応できたことを書いてみたい。
量子コンピューターなどコンピューターが超絶に進化したときのキモは、人の構成要素の最小単位が確定すれば、それが原子ならある瞬間のある人の膨大な数の原子の結合をその超絶コンピューターの中に再現してみた時に、その仮想空間にスキャンしたときの意識や記憶、意識や魂のようなものがそこにあるのだろうか? ということと、そのデータと生身は〈同期〉のようなことを通して行き来が可能になるのだろうか? ということだった。
この小説を読むとそのへんの判然としない疑問に一定のifが投げかけられてくるのでいろいろなことを思うことができた。
作品内で説明に使われる言葉の細かいニュアンスに多少自分の感覚的に違ってもとても面白く読めた。
思ったのは「重き」を担保するものの強度みたいなもの。もちろん完全?シュミレートなら心身の痛みもリアルに再現されることになり、今自分が現実と思っているのが現実なのか仮想空間なのかわからないのでは?ということに。
ただ区別がつかないなら、その問いには意味がない。意味がないなら、仮に今の自分か仮想空間内の再現なりデータだったら? ゲームのセーブデータと同程度の存在かもしれない。とか。
何に意味があるのか、というような話に。
そういったことをあれこれと考えさせられる面白い作品だった。SFの設定としては軽めのifなのかもしれないけど、哲学的な思索に貫かれているのでいろいろと深い。
倫理学とかの考察に近いのかな。
科学を突き詰めていった先に見える課題。
素人の仮定はある程度で止まるけど、
SF作家はドライブさせて向こうの景色で起こりそうなことを投げかけてくる。
一粒で二度美味しかった。
科学の進歩と人との関係を考える助けにもなると思う。