【感想・ネタバレ】人間機雷「伏龍」特攻隊のレビュー

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Posted by ブクログ 2016年11月08日

 九死に一生という言葉があるが、特攻の本質は「十死零生」である。特攻とはどんな形であれ悲惨なものだが、中でも、ばかばかしいほど哀れなのがこの「伏龍」だろう。本土決戦は避けられないと判断した海軍は、米軍が上陸してくると思われる相模湾、九十九里浜等に、「人間機雷」を置く作戦を考案した。潜水服を着た特攻兵...続きを読むが、突端に機雷がついた3メートル余りの竹槍を持って、50メートルほどの間隔で海底に潜み、米軍の上陸用舟艇が上を通ったら、竹槍で船底を突き上げて自爆するという作戦だった。これが伏龍特攻隊である。
 人員は主に、海軍飛行予科練習生(予科練)や志願兵の10代の若者だった。日本にはこの少年たちが搭乗する飛行機はすでになく、彼らを水際特攻隊に仕立て上げるのは、「余剰人員」の「有効活用」の意味もあった。最大の訓練地は久里浜、横須賀市野比海岸であり、稲村ケ崎の海岸のはずれに今もある、泳いで行ける洞窟が、伏龍特攻隊の陣地になる予定だった。「予定」で終わったのは、結局、実際の特攻前に、敗戦となったからである。だから伏龍の悲劇は、特攻で死んだことではない。彼らが哀れなのは、練習で死んでいったからである。
 そもそも不可能な作戦だった。ゴム製の潜水服を着て、頭にはすっぽりかぶとをかぶり、顔の部分に面ガラスをはめ込む。背中には酸素ボンベ2本と空気清浄缶を背負う。この空気清浄缶には苛性ソーダが入っていて、排出された呼気から炭酸ガスを吸収し、酸素を再利用し、酸素ボンベを補う仕組みになっていた。バランスを取るため、腹には9kgのおもりをつけ、鉛の潜水靴を履く。これだけで総量80kgだが、これに加えて、撃雷のついた3m30cm, 25kgの竹槍を持つ。これで海中を軽快に歩けるはずがない。
 潜水服は防水が不完全で、水が入ってきてしまうと苛性ソーダと反応し、急激に温度が上がる。それが口から体内に入ってしまうと、もう助からない。大変な苦痛の中、息絶える。その他、鼻から吸って口から吐くという呼吸法をうっかり間違えると炭酸ガス中毒になる。海の中は特に夜は視界が悪く、訓練中に行方不明になるなど、訓練自体が死と隣り合わせであり、訓練中の死亡者数は相当な数に昇るとみられている。
 実際に船を下から突けたかどうかも疑わしいようだが、もし一人が成功して船を爆破させれば、50m間隔で配置されている特攻兵もほぼ全滅しただろうと言われている。とにかく、命を爪楊枝のように使い捨てる愚かな作戦だった。
 本書の序章にもあるが、久里浜や野比海岸では、若者がウインドサーフィンや水遊びを楽しむ。その同じ場所で70年前、まだ子供のような若者が呆れ果てた作戦のための訓練で命を奪われていたことを、私たちは決して忘れてはならない。どんな美辞麗句を連ねようと、戦争とは愚かなものだと教えてくれる本である。
 最後に、印象深かった言葉を引用しておく。アメリカ軍の桟橋めがけて飛行機で突っ込む特攻の命令を受けたある大尉が、「いくら何でも桟橋にぶつかるのは残念、せめて船に」と要望したとき、命令を下した飛行長が怒鳴りつけて言った言葉。

「文句を言うんじゃあない。特攻の目的は戦果にあるんじゃない。死ぬことにあるんだ」

 伏龍特攻隊に志願し、戦後は近畿大学で教鞭をとっていた牛尾茂夫の言葉。

 「政治家が自衛隊に戦地へ行けと言います。私は、だったらお前が行けと思います。政治家を辞めて戦地に行きますか?自分の息子を自衛隊に入れていないでしょ」

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Posted by ブクログ 2012年05月08日

終戦間近、本土決戦のために潜水服を着て海底に待機し、棒機雷を突き上げて自爆する原始的な特攻隊【伏龍】が準備されていた。幸い実用される前に終戦を迎えるのだけれど、人の命を何だと思ってるんだこの上の人たちは…と怒りがこみ上げてきます。原爆に関して、米国の免罪符として水増しされた被害予想も、何と言うか遣り...続きを読む切れない。戦争を知らない世代ですが、忘れてはいけないひとつだと思いました。あまりにも愚かすぎる上層部。

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Posted by ブクログ 2009年11月14日

忘れてならない戦争体験のひとつ。締めくくりの「六十年間、軍事力を行使して人を殺したことのない日本という国を、私たちはもっと誇りに思っていい。」の言葉は心に残った。

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