あらすじ
1914年夏、「戦争と革命の世紀」が幕を開けた。交錯する列強各国の野望、暴発するナショナリズム、ボリシェヴィズムの脅威とアメリカの台頭……。ヴィルヘルム2世、 ロイド・ジョージ、 クレマンソー、レーニン、ウィルソンら指導者たちは何を考え、どう行動したのか。日本の進路に何をもたらしたか。「現代世界の起点」たる世界戦争を鮮やかに描く。
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Posted by ブクログ
電気通信大学名誉教授である山上さんの手からなる歴史本。
第一次世界大戦に関する歴史本は様々な著書が出版されていますが、どれも作者の力点や焦点が異なっているので、読むたびに新鮮な感覚を覚えます。
山上さんのそれは、大戦前夜、そして戦中戦後の期間を、主に政治家たちの活躍に焦点を当てて描かれています。そのため、戦闘推移における劇的なイベントについてもサラッと流されています。例えばトルコが同盟側(独墺陣営)に加わり参戦した経緯については以下のように描かれています。
「そのうち1914年10月末、ドイツ艦隊とその指揮下に入っていたトルコ艦隊は、黒海北岸のロシア領を砲撃した。
ここに英仏露とトルコとの国交は立たれ、11月初め、トルコに対する三国の宣戦布告となった。」
ここで言及されている「ドイツ艦隊」とはゲーベン号を旗艦とする艦隊を指すが、スーションを指揮官とするこの艦隊は戦前から地中海を遊弋。しかしイギリスもこの艦隊に目をつけており、大戦前夜から追跡劇繰り広げます。
大戦勃発後は圧倒的な戦力を誇るイギリス艦隊の追跡を逃れてトルコ領に入る。その際の口実として艦隊は「トルコに売却された」体裁をとるのですが、トルコがこの口実を採用した背景にはイギリスに対するある怨恨があった・・・。
その後スーションはダーダネルス・ボスポラス海峡を通過して黒海に入り、独断でロシア領を砲撃する。これが参戦の契機になったわけですが、まったくドラマのようなストーリーです(詳細は『8月の砲声』(バーバラ・タックマン)を参照)。
歴史書の著者としては脱線の誘惑は大きかったでしょう。しかし本書は政治家たちの活躍を追う、という目的に徹しています。
政治家の活躍について、大戦前夜についてバーバラ・タックマンの『八月の砲声』からの引用が多いように感じました。
戦中については英仏露独墺の主要な政治家たちの動きが描かれています。ただ、ドイツにおいてはルーデンドルフの行動が政治の柔軟性を制限したはずですが、その点の説明は希薄です。しかしアメリカの政治動向に関してと、この間の日本の動きについては細かく描かれています。
戦後については講和条約の内幕についての記述が詳細に及んでいて面白い。ここでもウィルソンを通してのアメリカの政治動向が詳しく描かれており、参考になります。
全体を通して、本書では欧州の社会主義者たちの活躍と、革命期の混沌としたロシアの状況が克明に描かれています(それに伴ってニコライ二世の退位から処刑に至るまでの経緯も詳しい)。
特にレーニンがロシアの地に戻り革命を主導し、最終的にはソヴィエト独裁体制を築くまでの奮闘の記述は詳細に及んでおり一見の価値があると思います(著者の専門領域なのかな?)。
この本は3度ほど読み返しました。というのも、政治家たちの行動の背景・動機が個人的に少しわかりづらかったからです。これは私個人の要素が大きいのでしょう。
本書は大戦の戦闘推移に関する記述はほとんどありません。しかし戦争の状況は政治家たちの行動を左右したはずです。その辺の関係性が少しわかりづらかったというのが正直なところ。
Posted by ブクログ
第一次世界大戦への道のりを描いた本。池上彰の解説も読みごたえあり。
これは新たな時代への幕開けにつながる戦争だったと思った。旧社会では、強力な権力を握る国王vs虐げられる農民という構図が長い間続いてきたが、この権力構造を崩壊させるのがこの時代の戦争。自由を求めた人民は資本主義へ、平等を求めた人民は社会主義へ向かった。民意の醸成を経ずして構造崩壊が起こったため、国王に代わる新たな権力者を生みだしただけの地域もあった。
また、脈々と続いていた国王の外交(国王同士の口合わせ、政略結婚による戦争回避など)も、この時代で終わってしまった。『戦争は他家に任せておけ。幸いなオーストリアよ、汝は結婚せよ』のハプスブルク家がこの戦争をもって崩壊したのも因果か。
まだまだこの時代について勉強し始めたばかりだが、現時点ではこのように考察。今後ももっと知識を深めていきた。