あらすじ
【2020年10月2日(金)映画公開!】
W主演佐藤大樹(EXILE/FANTASTICS)&橋本環奈
小説は、好きですか――?
いつか誰かが泣かないですむように、今は君のために物語を綴ろう。
僕は小説の主人公になり得ない人間だ。学生で作家デビューしたものの、発表した作品は酷評され売り上げも振るわない……。
物語を紡ぐ意味を見失った僕の前に現れた、同い年の人気作家・小余綾詩凪。二人で小説を合作するうち、僕は彼女の秘密に気がつく。彼女の言う“小説の神様”とは? そして合作の行方は? 書くことでしか進めない、不器用な僕たちの先の見えない青春!
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Posted by ブクログ
【感想】
傑作だろう。傑作だと思う。一般的な人気もある。漫画化され,映画化もされている。しかし,そういった一般的な評価とは関係のないレベルで,たまらなく好きな作品である。
そもそも作者の相沢沙呼のファンである。相沢沙呼との出会いは,「午前零時のサンドリヨン」。どうして,そこまで好きになったのかは分からないが,大好きな作品である。とにかく文体が肌に合うのだ。とはいえ,欠点もあった。相沢沙呼が描く作品の,ヒロインはともかく,主人公にさほど感情移入ができない。そういう訳で,物語全体の雰囲気と文体,そして,どの作品にもあるどこか底意地の悪さを感じさせる部分に引かれている。
で,この作品である。この作品の主人公はかっこいい。この点が他の相沢沙呼の作品とは違う。これまで読んだ相沢沙呼作品の主人公は,かっこ悪いのである。この作品の主人公,千谷一也も,かっこ悪い部分があるのだが,中学2年生で,新人賞を取ってデビューしている小説家である。売れない小説家であるが,売れない小説家でも小説家ですらない高校生よりはかっこいい。
そして,ヒロインの小余綾詩凪。相沢沙呼の作品のヒロインはかっこいい。このヒロインもその例にもれずかっこいい。しかし,か弱い。弱さを隠し持ったかっこいいヒロインと,かっこよさを隠し持った主人公。なんかもう,がっちりはまった感じである。
千谷と小余綾が一緒に物語を作っていく姿が,分かりやすい起承転結で描かれる。出版界の,特に小説の厳しさがにじみでている作品でもある。小説内で,千谷が売れる小説を書きたいといっているのは,いやというほど分かる。お金は大切なのである。小説内で,小余綾が語る理想論ははなもちならない。
そういった相沢沙呼らしいひねた目線も持ちながら,まさに王道の起承転結で話は進む。衝突から始まって,意気投合。上手くいきそうに見えたところで,転。千谷のデビュー作の続編が出版されないこととなり,小余綾も物語の最後が思い描けない。しかし,最後はその壁を乗り越えて二人の物語が完成する。チープといえばチープ。どこにでもありそうな,まさに王道の話。しかし,相沢沙呼の文体で,かつ,千谷と小余綾だけでなく,九ノ里,千谷雛子,成瀬秋乃といった,たまらなく魅力的なキャラクターが織りなす物語は至上である。
どんでん返しもなく,分かりやすい起承転結でハッピーエンド。どこにこんなに惹き付けられるのか分からない。しかし,いい。読み終わるのが惜しいと思った小説は久しぶり。ちょうど,少し前に空色メモリという同じように高校の文芸部が舞台の作品を読んでいて,そちらもかなり好きな作品だったけど,こちらはそれ以上。
何がいいのか。やはりキャラクターである。全員たまらないくらい魅力的で,でも,なんとなく仲良くなれそうな人物として描かれている。こういう人たちとはうまくやっていけるのである。
読み終わるのが惜しい作品だったので,続編があるのは嬉しい。同時に,不安でもある。ここで終わってほしかったという気持ちすらある。それくらい至上のデキだった。点数としては当然★5。こういう小説を,ここまで好きになれる小説を,またいつか読みたいものである。
売れない高校生作家,千谷一也は,転校生の人気作家小余綾詩凪とチームを組んで,二人一組で小説を書く。千谷一也の小説は売れない。
〇 メモ
〇 第一話 星一つ
登場人物の紹介的な位置付け。千谷と転校生である小余綾は,教室で千谷から「小説は好きですか」という質問をしたことがある程度の関係だったが,文芸部の部室で,言い合いをする。
その後,編集者の河埜の紹介で,千谷と小余綾は一緒に小説を書かないかと提案される。
〇 第二話 虎は震えている
千谷と小余綾はケーキ屋で小説の打合せをする。小余綾がプロットを考え,千谷が文章にする。小余綾が考えるプロットは全部で5話の構成。推理小説的なテーマを内包しつつ,あえてロジックに着目せずに人間の愛しさ優しさを描くための道具。デキはいいが,千谷はやや違和感を覚える。ここで,ミステリ的な仕掛けが組み込まれる。この伏線が後で生きてくる。
千谷は小余綾のプロットを文章にするが,あえて売れるために自分の文章ではなく簡潔ですっきりした中身のないスカスカの文章で描く。
千谷一也は入院している妹を見舞う。妹のためにケーキを買いに行き,偶然に小余綾に出会い,妹に会ってもらう。小余綾は,雛子と話,雛子から千谷の話を聞き,千谷の偏った考えの理由をしる。そして,自らが読んだ千谷の小説を信じ,雛子のためにも自分の作品を千谷に託してもよいと伝える。
〇 第三話 物語への適正値
千谷は,改めて小余綾のプロットを文章につづり,小余綾にメールを送る。小余綾のメールの返事はそっけない文章でしかない。このメールの文章も伏線となっている。千谷はそのデキに不安を感じる。しかし,この段階では小余綾にその違和感を相談できていない。
小余綾の書くプロットの第三話には女子バトミントン部が出てくるので,千谷の提案で,バトミントン部の取材をする。
その後,千谷が知るワーキングスペースで千谷と小余綾は仕事をする。その中で,千谷は自分の思いを伝える。この主人公のままではダメだ。自分がこの主人公を描くと,読者が望まない人物になってしまう。このプロットは面白い。読んでもらうために,主人公の造形を変えてほしいと。
千谷は,部室で,成瀬への小説の指導をする。千谷は,売れるための小説の書き方を指導する。千谷は,成瀬に自分のような思いをしてほしくないと思って指導するが,成瀬は自分のような人間が物語の主人公になってはいけないのかと涙する。小余綾は,千谷にバドミントンの勝負を挑む。千谷が勝てば共作の主人公の造形を変えるという。
バトミントンの勝負は千谷が勝つ。小余綾は,「わたしは……。こんな大切なものをくれるあなたの中に,物語がないなんて思わない。」,「だから,わたしはあなたの物語を読みたいのー」と,自分の思いを告げる。
千谷は,自分を書き続けなくてはならないということに気付く。主人公の変更はなし。強くなくてもいい。失敗しても,嫌われても,挫折を繰り返してしまっても。
君は,主人公になってもいいのだと,ページを捲る誰かへ,そう伝えるために物語を描く。
〇 第4話 物語の断絶
第3話を書く千谷のところに,第4話のプロットが完成したと小余綾から電話が掛かってくる。今からそっちに行って話したいと。雨の中,夜中に小余綾が千谷の家に来る。夜を明かして二人で小説を描く。物語で言えば起承転結の承。二人の仲がぐっと縮まり,千谷は小説を描く楽しさを思い出す。小余綾は,千谷のデビュー作のファンだという。千谷は,そのデビュー作をシリーズ化させてもよいと思っていた。そのデビュー作の3作目を書きたい。こんど文庫化されるデビュー作に,そのような思いを持つ。
夕食後,サンドボックスというワーキングスペースで,千谷は先輩の小説家である春日井に出会う。春日井は,一般文芸とライトノベルの中間地点の読者層をターゲットとした新レーベルで刊行した「木陰亭奇譚」が売れず,打ち切りが決まったという。
千谷のもとにも連絡がある。千谷がデビューした出版社の二代目の担当者である野中から,千谷のデビュー作の続編は本にできないと告げられる。ここがこの小説の転。千谷のデビュー作の物語は断絶する。
千谷はショックで小余綾との共作もできず,学校にも行かない。九ノ里のおかげでなんとか学校に行き,成瀬に出会う。小余綾との対面。千谷は小余綾に思いをぶつける。結果として,二人は解散。二人の物語も断絶する。
〇 第5話 小説の神様
千谷は雛子を見舞う。小余綾も,千谷との関係が断絶する前に,雛子のことを見舞っていたという。
千谷は,九ノ里から,小余綾について書かれたウェブサイトなどを教えてもらう。千谷は見ないようにしていたから気付いていなかったが,小余綾は「舟城夏子」という作家の作品の盗作騒ぎでかなりのバッシングを受けていた。千谷は,小余綾が国語のテストで,一種のパニック障害になっていることに気付き,保健室に連れていく。小余綾は半年くらい前から,誰かに何かを伝えるために文字を書こうとすると頭が真っ白になる。
九ノ里からデビュー作が大好きだと言われ,成瀬から,先輩は小説を愛していると言われ,千谷は小余綾のために,一緒に物語を考えようという。千谷は,最初から感じていた違和感について伝える。この物語には願いがないのだと。
小余綾は,千谷に,ある小説家のエッセイについての話をする。その小説家は,息子から,「ねぇ,父さん。どうしてみんな,本を読んでまで涙を流したいんだろう」と問われ,「違うんだ。そもそも,小説っていうのは,泣かないために読むんだよ。」。千谷は,小余綾とほとんど同時に同じ言葉を口にしていた。
千谷は小余綾との物語を完成させ,小説の神様を見た。
〇 エピローグ
千谷と小余綾の小説は完成した。小説は二人の手元を離れ,校正の手が入る。夏休み。千谷と小余綾は教室で顔を合わせることもない。成瀬は実家の書店の手伝い。千谷は小余綾と何週間も会っていない。
家族の付き合いで,海外旅行に行っていた小余綾が戻ってくる。小余綾は,千谷の手首を掴み,強引に立ち上がらせる。「決まっているでしょう。」,「わたしたちの,次の物語を作りにいくのよ―」
〇 千谷一也
主人公。千谷一夜という名前で小説を書く。中学2年生のときにそれなりに名のある一般文芸の新人賞でデビューした売れない小説家。父親も作家
〇 小余綾詩凪
主人公,千谷一也が通う高校に転校してきた美少女。不動詩凪という名前で小説を書いている。千谷と同時期にデビューした作家であり,エンターテイメント性を重視した千谷とは別の文学賞の出身。水浦しずという名で文庫本で本を出す。
〇 千谷雛子
主人公である千谷一也の妹。入院中。不動詩凪のファン
〇 九ノ里正樹
文芸部の部長で,千谷一也とは中学校時代からの知り合いで友人
〇 成瀬秋乃
千谷一也が通う高校の1年生。文芸部が作った冊子に載った千谷の作品を読み,小説の指導をしてほしいと考え,文芸部に入部
〇 河埜さん
千谷と小余綾の担当編集者
〇 千谷一也の母親
出版社勤め。
〇 千谷昌也
千谷一也の父親。対して売れない小説を書き続け,家族に借金ばかりを残して死んでしまう。
〇 台詞
〇 もうね,お兄ちゃんを見ているとね,お金を払わずに作品を読むのが心苦しくて……。こんなんじゃファンを名乗れないから,お小遣い全部使ってでも,これからは文庫本をきちんと揃えていくよ!
〇 あえて言うなら,自分が,物語を綴る生き物だということを,どうしようもなく宿命付けられているのだと,そう感じる瞬間のことかしら……。
〇 研ぎ澄まされた日本刀のように,読み手の心へ深く切り刻んでくる。
〇 わたし,小説が好き。大好きよ。
Posted by ブクログ
千谷一也
高校二年生。売れない高校生作家。文芸部に所属。三年前に千谷一夜の名前で新人賞でデビューした。一切の素性が不明な覆面作家。
小余綾詩凪
高校二年生。人気作家。一也の高校へ編入。不動詩凪という名で小説を書いている。一也と同時期にデビュー。エンターテイメント性を重視した別の文学賞の出身。その容姿から当時は美少女作家として持て囃された。
河埜
一也と詩凪の編集担当。二十代半ばの女性。小説を書くことを諦めている一也に、二人で小説を書くことを勧める。
千谷昌也
一也の父。売れない作家。専業作家であることにこだわり続けて、あるとき、ぼっくり逝ってしまった。
九ノ里正樹
高校二年生。文芸部部長。一也の友人。一也に小余綾詩凪を文芸部に勧誘するよう、話を持ち掛ける。
成瀬秋乃
小説を書いている高校一年生。一也に小説の書き方を教えてくれるように依頼する。文芸部に入る。本屋の娘。
一也の母
出版社勤務。
千谷雛子
一也の妹。入院中。不動詩凪の大ファン。
水浦しず
小説家。
綱島利香
秋乃の中学からの友達。
古宮
バドミントン部。
矢花
一也が利用するコワーキングスペースのバイト。
春日井啓
作家。
野中
一也のデビューした出版社の二代目の担当者。
船城夏子
四十代半ばのベテラン作家。傑作を多数生み出している著名な作家。