【感想・ネタバレ】脳からみた自閉症のレビュー

あらすじ

「完璧な脳」なんてどこにもない! 脳ができあがるまでのプロセスは、気が遠くなるほど複雑で精巧なもの。だから、ほんのちょっとしたバグは誰にでも起きている。実はそれが、その人の「個性」となるのだ。しかし、そのバグがときに「発達障害」となり、「自閉症」と呼ばれるものにもなる。では、どんな場合に、「障害」となるのか? 神経発生学の第一線で活躍する著者が、かつてないアプローチで発達障害と自閉症の本質に迫る!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

なんとなく、よくわからない自閉症を、

「器質的な原因」で

「機能的な疾患」が出ていることを

わかりやすく、説明した一冊。

遺伝的要因、遺伝子の劣化による原因、発生時の原因など、各ステージに合わせた原因追及をしている。

正しい理解をすることができた。

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2018年11月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

自閉症の正式名称は自閉症スペクトラム障害であり、発達障害(正式には主に胎児期における"神経発生発達障害")の一種である。自閉症の発案者である精神科医ブロイラーは、"自閉"の意味として「自分以外の他者・外界の一切を排除しているかのような患者の状態」とし、ギリシャ語の自己(Autos)を引用して名付けた。
自閉症のコア症状は、①社会性の異常(人への認識・興味が薄い、他者の心の状態を推測しにくい)、②常同行動(興味の限定)、③感覚・運動の異常(音に敏感など)である。患者本人にとっては③が最も苦痛とされ、外界の正常な認識や積極的な接触を妨げる原因となっている。
(神経発生)発達障害の一種である自閉症は、胎児期の神経発達プロセスのエラーが原因であり、通常、ご両親は我が子が3~5歳頃に気が付つ先天的なものである。つまり、自閉症は親の"育て方"により生じるものではない。著者は脳科学者であり、脳の発生学的知見(器質的なデータ)から自閉症等の原因究明にアプローチする。余談であるが、健常者が罹患する鬱病や統合失調症などは後天的な精神疾患であるが、器質的原因については自閉症とも共通する部分もあるかと思われる。自閉症は、先天的原因(遺伝子変異や脳発生プロセスのエラー)の観点では急激に増える障害ではないが、実際、自閉症認定される患者数は増加傾向にある。1975年の自閉症患者は5000人に一人だったのが、2014年には68人に一人にまで増加している。この背景として社会環境の変化が挙げられ、具体例として①診断基準の変化(自閉症の疾患概念が拡大)、②自閉症が社会に認知され受診者増加に寄与、③対人関係が重視される第3次産業の割合が上昇、④発達障害に対する社会支援の拡充(2004年の発達障害支援法の制定)などが考えられる。
著者によれば、胎児期の神経発生プロセスは複雑であり、健常者だからといって全くエラーがないわけではない。問題は、エラーの程度と本人周囲の受け取り方による。それを個性と呼ぶか障害と呼ぶかは、本人(や周囲の人)が苦痛を感じるか否かで決まる。第一に本人が、症状に対して苦痛ではなくむしろ満足を感じるならば"個性"と言えよう。
著者の専門である脳の発達メカニズム(と遺伝子の話)には多くの紙面が割かれている。哺乳類の脳が他の脊椎動物と比較して大型化する理由として、インサイドアウト型のニューロジェネシスであることを挙げており、同時に神経発達の複雑化も伺い知れる。一般に医学的な障害の分類方法は、顕微鏡等の観察により得られる客観的な原因、つまり、健常者との身体的(細胞レベル)な違いが明白な"器質的な障害"と、器質的には健常者と大差ない"機能的な障害"に分けられる。ただし、この分け方はその時代の解析能力に依存する。先端分析技術であるfMRIやPETなどにより、従来は機能的な障害とされた精神疾患に対して脳における器質的な障害として捉えられるデータが蓄積しつつある。例えば、統合失調症患者では、ニューロンの電気信号の漏電を防いで通信速度を飛躍的に高めるミエリン鞘と呼ばれる、絶縁体(電線を覆うゴム膜のような)構造が減っていることが指摘される。ミエリン鞘が減るとは、パソコンの基盤に水がかかったような状態で計算させるようなもので、思考スピードが遅くなり、時系列の整理や思考の統合もままらない。もちろんドーパミンなど神経伝達物質の過剰分泌などミエリン鞘の減少のみを原因とするわけではないが、器質的に調べられるとそれを正常化させる薬の開発につなげられる。
脳科学者である著者は、自閉症の解決策として最終的には器質的な原因、つまり、脳の発生プロセスのエラーを引き起こす遺伝子の特定とその機能の解明がひとまずの目標となる。本書でも、パックス6と呼ばれる神経発生制御遺伝子と自閉症の関係性について言及されている。最近の研究では、ゲノム情報は同じであっても、実際に保有する遺伝子が適切に働くかどうかによって現れる状態が変化する…というエピジェネティクスの考え方に注目が集まっている。つまり、何か特別な身体的特徴やスキルを手に入れるためには遺伝子自体の変異は必ずしも必要とせず、もともと持っている遺伝子を単に長く働かせたり、全く働かせないようにすれば環境適応できる個体が生じうるということだ。キリンの首は長いが、遺伝子自体が変化したのか、遺伝子は変化せずに働かせる方法が変化しただけなのか。いずれにせよ環境変化はストレスの負荷が大きく、そうしたストレスが遺伝子のオンオフに関与したのでは…と想像する。このオンオフ切り替えのほうが世代交代を必要とする遺伝子変異よりも環境適応の即時性は高い。遺伝子のスイッチのオンオフはDNAのメチル化やヒストン化学修飾によって引き起こされる。これを人工的に行うことでキリンの首を成長させず短いままにする遺伝子があれば、キリンの進化において遺伝子自体の変化は必要なかった(実際はどうかわからないが)…と言えるのではなかろうか。

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2020年08月22日

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